No.5 第1章 その3
<CASM-3テスト 1日目>
Ayaの話通り30分くらいすると周りが明るくなってきた。
Aya「嵐はもう大丈夫そうだけど、どんな状況?うちの車は床の少し上くらいまで埋まっている。」
3台の車はすぐ近くなので別に車外のアンテナが無くても連絡はできる。
Kier「こっちも車の横側は床の少し上まで、前のほうはタイヤの少し上まで砂で埋もれているが、連結外して前の砂だけどければ動かせるだろう。」
Deng「こちらは前のほうはフロントガラスの下まで、横のほうは両側をそちらの車で囲んでいるのでよく見えないけど、たぶん床のあたりまで。」
Aya「それでは連結外して。あとマイクロバスはそのまま。うちとKierの車はドライバーだけ残して天井から外に出て砂かきね。間違っても、ドアや窓は開けないで。」
この2台の車はもとがEU関係の軍事組織の装甲車仕様なので天井から外に出ることができる。Kier、崔、Mohamedの3名がスコップを持って20分くらいかけて車外で車両前後の砂を少しどけ、車を小刻みに前後させることで3台とも砂の中から出られるようになった。
伴「今12時半だから予定より1時間半遅いのかな?」
Kier「もともと多少余裕を持っていたから1時間くらいでしょう」
そのとおり12時半到着予定が13時半に目的地のタワー160Aに着いた。
車から降りて、伴「近くで見るとそっけない植木のようですねえ。遠くから見ると、少しは威厳らしきものがあったけど。」
その通りで、建物は無く単に砂から直径3mくらいのコンクリートの柱が3mくらい出ていてその上から直径10㎝ほどの黒っぽい柱がずっと上まで伸びている。そして10mくらい上にある太陽光パネルはまるでつぼみが出ているように見える。コンクリートの柱の上には50㎝四方くらいの銘板があって” Africa RPC Project No.160A”と書かれている。
伴「あれが太陽光パネル?」
Aya「そうです。」
伴「これで、紅海で発生させた雲を引き寄せるの?」
Aya「このタワーを立て始めたのが2082年、その10年後からたまに実験をしているらしい。最初は年数回、いまでは毎月らしい。1回当たり3日くらいかけていると聞いたけど、これができて天気に何か変化があったという話は聞いたことがない。ただ公式的には、まだ工事中で基礎的なデータ収集を行っているだけなので今の段階でRPCの成果に対する発表はできない、と言っている。」
Aya「何も関係ないとは思うけれど、とりあえず事務局へは今日からここで作業するのでその期間でのRPC側の作業はしないで欲しい、とは伝えた。」
伴「ありがとうございます」。
伴「それでは、まず作業準備と昼食かな」
という間にマイクロバスの中央部が2mほど伸び、さらに一番後ろにくっついていた1mほどの箱が切り離された。これは3mほどに広がり、仮設トイレになった。昼食自体は宿泊先に頼んで作ってもらったサンドイッチと飲み物で、サンドイッチのほうは雑穀のパンの間にパテ状のものが入っている。
伴「いつもながらの昼食だけど。」
そうするとDavid「あと10分ちょっとでそちらに着く。だいじょうぶ、カンパラでの事前研修での食事はもっと味気ないから」。
昼食は20分で終わり。
伴「さて、どういう手順で?CASM3は7台持ってきたんだよね。全部出す?」
崔「他に保守部品も持ってきています。CASM-3は2台予備ですから5台を出します。6m間隔で水平に並べますが、本体と荷車の連結をしなければいけないので、まずはマイクロバスを動かして1台ずつ降ろしていこうかと。」
伴「やり方に口を出して悪いのだけど、マイクロバスの2人はCASM-3の連結と操作はできる?」
Deng「前回もやっているから覚えています。」
伴「それでは、お願い。マイクロバスは司令部だからYoichiはまずその設定をお願い。私とKierがCASM-3本体と荷車を各5台降ろすから2人で連結と6m間隔での設置をお願い、でいいかな。」
崔「わかりました。」
Aya「それでは、私からAfrica RPC Projectの Ali<アリー> Hassan<ハッサン> Samir <サミール>に連絡しておくね。実験中に、ここのタワーで何かされるとまずいだろうから。あと手続きとして、スーダン政府の窓口の Tom <トム>ElHijazi <エルヒジャージ>にも。」
伴「ありがとう。私からは日本大使館の石井書記官に連絡しておきます。」
マイクロバスの運転席後ろの前半分の左側が大きなドアになっていてそれが開いたら、大きな机と右側壁面にはたくさんの装置類が出てきた。これがCASM-3での作業の司令部になる。そこから後部が機材置き場で、バスの最後部のドアを開けるとそこの床は奥行き2mのリフトになっている。CASM-3本体は幅1000mm長さ600mm高さ600mm、全体がクリーム色で左右に大きな文字で”RRUO CASM-3”と書かれている。荷車のほうは幅3,000mm、高さ400mm、長さ300mm、上部は太陽光パネルがほぼ隙間なくついていて黒っぽいのに外に出すときらりと反射する。そしてどちらもタイヤが付いているのでブレーキをかけなければ押すだけで動かせる。しかし荷台はリフトから大きくはみ出すので、リフトから降ろすたびにDengとThomasが外ではみ出た半分を支えながら降ろすことになった。降ろすとすぐに先に降ろした本体とドッキングさせ、リモコンで所定の場所まで動かす。単純にケーブルつなぐだけではないのでそれなりに複雑な工程なのだが、伴が予想するより素早くDengとThomasは素早く仕上げていった。というのも彼らの服装は街中に普通にたむろしているだぶだぶのズボンにTシャツ、その上から日除けを兼ねたウィンドブレーカーと作業手袋をしていて、ダンス以外では早く動くことはなさそうに見えたから。
伴「彼ら、思ったより仕事の手際がいい。」
Kier「ここの人たちは見かけで判断してはいけません。彼らは若いから直接経験はしていないけど、長い内戦を潜り抜けてきたのだから。」
この作業が終わる少し前にDavidとZhao Míngxuān の、やはり装甲車みたいな車両が着いた。
車を降りて来てDavid「さきほどは、どうも。」と言って、伴の手首をちらっと見て
「今日はコールドテック着てないようだけど、何か違う?」
伴「確かに、ここは乾燥しているから着ていなくても大丈夫、というか着ていないほうが自然でいいような気がします。気のせいか、手首も凝っていないような気がするし。」
手首からはコールドテックのアンダーウェアを出しながら、崔「アンダーウェアの話ですか?こんな暑い時は、これがないと持ちません。」
伴「さて、準備ができたようなので始めましょう。今日の予定は?今15時で、予定よりは1時間遅い。当初の予定では17時には撤収だが。」
崔「予定通り3時間、できれば4時間の作業時間が欲しい。ここは20時くらいまでは十分明るいでしょう。」
伴はうーんと考えながら周りをちらっと見ると、Davidは首を少し横に振ったように見たし、他の人もそれじゃ遅いという表情に見えたので、どうしようかと思いながらAyaのほうを見た。
Aya「ここは近くに集落はない。さっきの地雷騒ぎは覚えているでしょ。何かトラブルがあったときに連絡して来てくれそうなのはホテルのあるドンゴラだけど、最低でも2時間かかる。だから最初の予定通り17時で撤収して欲しい。」
伴「私もその方がいいと思う。そうしてくれる?」
しょうがないという顔をしながら、崔「では17時に撤収するようにします。2時間あるので1時間前方に進んで折り返しましょう。従って20m前進させるということでコマンドを打ちます。」
なんか計算が合わないということを考え、
伴「それは1分間で30㎝ちょっと進むということだろうけど、その数値は実験室でのデータでフィールドではそこまで出せないでしょう。コマンドは12mでお願い。時間が余れば、その先まで動かしてやればいい。」
崔「わかりました。準備でき次第スタートでいいですか?」
伴「それでお願い。それからマーカーを置こうか」
マーカーとは長さ1.5mのポールで側面に太陽パネルとLEDが付いている。今回はこれをCASM-3が動作する領域の4隅に埋めると、点滅して発光するとともに、その内側にCASM-3以外が入り込むとアラームが出る。
Kier「それは彼らとやっておきましょう。」と言ってDavidのほうを顔で示した。
伴「それではお願い。」とKierに言ってからDavidの近くに動いて
「地雷の話が途中でした。」。
David「もうすぐCASM-3が動き始めるので、その後でいいですか?」
伴「そうしましょう。」
そのとき崔「スタートします。4月18日火曜日15時3分」と言った。
ただ5台のCASM-3は一列に並んだまま動かない。Davidは何か音がするのかと聞いていたが、ただ小さくプーンというような音が30秒くらい聞こえた気がした。その後やはり小さなガサッという音が短い時間聞こえたので伴のほうを見ると、
伴「今、CASM-3の1台当たり長さ3mで600本のBVMCA粒子が埋め込まれた細い糸を砂の中に埋め込みました。さっきのかすかな高い音は砂に埋めるときに砂をかき分けるための超音波の音、その後の音は砂から針を引き抜く音です。」
David「砂に埋めている深さは?」
伴「10cmのはず」
その後CASM-3は5台ともほぼ同時に荷車1台分の30㎝ゆっくり前に進んで止まった。
伴「Yoichi、時間は?」
崔「1分5秒、いいペースです。今のところは。」
伴とDavidは、その後数分動作を見ていて、伴は今のところは順調に動作していると少しほっとした。その様子を見ていたDavidは伴の近くまで動いてきて、
David「先ほどの話ねえ。・・」少し無言のままで、左の人差し指を立てて自分の口の前で数回揺らせた。自国語で話をしながらの自動翻訳システムでの会話は、会話内容がシステムに録音されるので、それはNGと言うことのようだ。よって、この先しばらくは英語での会話なのだがこのまま会話内容は日本語での表記としよう。それを見ていたAyaも会話システムを停止して近くへ寄ってきて
『機密事項なの?』砂漠の中での肉声での会話なので近くに寄らないと大声で話す必要があり、HMDを動作させている他の人に聞かれてしまうのだ。
David少しゆっくり目に『機密ではないかもしれないけど、オープンになっていない情報だから。このくらいの速さで聞き取れる?』
伴『私は大丈夫』Ayaもうなずいた。
David『砂嵐の時に話をしていた2102年のRPCのトレーラーの事故に関して、EUの軍事組織が原因となる地雷調査をしなかったように聞こえたと思うけど、それは正確ではない。』
Aya『どういうこと?だって現場にはまだ壊れた車両が見えるじゃない。』
David『地雷事故らしいのにEUの軍事組織が何も調査しないなんてありえない。夜間に破壊された車両や粉々になってしまった地雷らしきものを引き上げた。このままだと、似たような事故がまた起きるかもしれないので、破壊された車両に似せたダミーを砂に埋め戻した。そうして公式的には、負傷者の救出は終わったが破壊された車両の撤去は2次災害の危険性があるのと、場所はもともと人や車両が通るところではないので、そのまま現場に残すことにした、と発表した。その裏で引き上げた車両と地雷は、詳細な調査がされた。』
Aya『その調査の内容は、話せるの?』
David『これからお話しする内容は、公式的には対外秘とはなっていません。私もこれより詳しいことは知りません。ただし、この中の一部は、事故直後は対外秘でした。それから、地雷自体は粉々になっているので、これから話す内容はあくまで予想です。』
伴『私がこのような地雷を作りました、という情報が出るわけはないでしょうから、そうでしょう。それで何が分かったのですか?』
David『地雷があったのは地下1m、その場所へは地雷が自走したようです。少なくても地雷は自走できる構造になっていたようです。その場所には20年間以上存在していた。』
伴『地下へ自走?砂の上に置くと勝手に1mだけ砂にもぐって20年以上も獲物を待ち続けた、ということ?』
David『そういうこと。』
伴『どうやって砂に潜るのですか?』
Aya『聞くならまず種類、大きさ、威力などからでしょ。』
David『まあ、そうなのでしょう。この地雷は、恐らく対戦車地雷で、大きさは幅と長さが300mmくらい、高さ200mmくらいの直方体に近いが中央の下部が50mmくらい出っ張っている。横に直径100mmのローラーが2個ついていて、これを同じ方向へ回転することで砂の上で移動可能。重さは約20㎏、威力はTNT火薬10㎏相当。ローラーをお互いに逆方向に回転させるとともに、長さ50mmで大体10㎜間隔でローラーに埋め込まれたカーボン製の針状の棒を回転に合わせて出したり引っ込めたりすることで本体を砂の中に潜らせることが可能。潜る速さは1分間で10mm以下と思われる。これで1m潜るのだが、100mm潜ったところで地雷本体から重量センサを切り離す。』
Aya『地雷探査では地下10cmにある重量センサだけが見つかるけれど、地下1mにある地雷本体は見つからないということ?』
David『そう。そして地雷の上を通る重い戦車を見つけて破壊することができる。上を戦車が通った場合は爆発するけど、人が歩いただけだと爆発しない。』
伴『事故があったのが2102年だから、20年以上前と言うことは、その地雷が砂に潜ったのは2080年頃かそれより前、ということ?』
David『うちのほうでは2075年頃と考えている。2070年代後半に宇宙エレベーターやRPCの建設のためにこのあたりでも調査関係の車両が来るようになったのだが、地元の軍事組織は、それをEUの軍事組織の攻撃準備と勘違いしたらしい、との情報がある。』
伴『それで、この地雷はどこで作られたのかなどはわかっているの?』
David『世界中で、このような砂に潜る地雷は報告されていないし、使用されている部品はこのあたりでも入手可能と思われるから、うちの組織は、この地雷は国内またはそれに近いところで製造された、と考えている。ただカーボン製の多数の針をローラーの回転に合わせて制御するので、かなり高い技術力を持つところが作ったと思われる。』
伴『このあたりに高い技術力を持つ会社とか作業員がいるとは思えないけど。それなりの知識がないと無理と思うけど。』
David『この国は長い間内乱が続いて教育環境は最悪だったから、高度な技術力を持つ人が育つわけはないと思っているでしょ。』
伴『そう思っていましたが』
Aya『それは間違いね。そんな目でここの人たちを見ていたら失礼よ。こちらがなかなかできないことを、軽々とこなす人たちは意外に多いのだから。』
David『学校で必要な基礎教育が不十分だったのだけど、内戦でこの地域には世界中からいろいろな武器が集まってきたことを覚えて欲しい。大体は簡単な訓練さえすれば誰でも使えるものだけど、中には見ただけでは何ができるのかわかりにくく、しかも説明書などないものを扱う必要もあったはずだ。ただそれを使いこなせないと生き抜いていけないという状況を潜り抜けた人たちがここにはたくさんいる。そんな人たちは、どうしてできるのかわからないけれど、見たことがない武器を少し触ってみるだけで何ができるかを理解して使いこなすことができる。そういう人たちにとっては、特殊な地雷を作ることだって、簡単とは言わないけれど、できたのだろう、と思う。』
伴『でもカーボン製の針などは、単に技術力があるだけでは作れるとは思えないけど。』
David『実際に、この地雷があるのだから、作ったのでしょう。そのカーボン製の針などに関しては、確かに一般には入手できるものとは思えないけど、それを作るための製造装置が2070年代に数台密輸された可能性があることが分かっている。』
伴『それはカーボンチューブ対応のCNC(コンピュータ数値制御)加工装置、ということ?それを使いこなす?日本製のものは昔使ったことがあるけど、使いやすいとは思えない。』
David『我々は日本製の工作機械を使ったと思っている。日本で2070年代に作られた商社が日本国内で複数台のCNC加工機械を購入してスーダンの農機具製造会社へ輸出したとの記録が見つかったが、どちらの会社も2080年には倒産してしまっていて関係者は不明、という情報だけが残っているらしい。そして、この機械があれば、原理的には砂に潜る地雷を作ることができる、とEUの軍事組織は考えている。』
伴『そうですか。ところで、RPCのトレーラー以外でこのような地雷が関与した例はどのくらいあるの?』
David『それが、無い。実はEUが委託した地元の地雷探査の会社が砂漠での作業中に見つけたという話があるのだが、連絡系統に不備があって、本体が直接調査するから破壊をしないように、と連絡したときには破壊してしまっていて情報が残っていない。その場所は、RPCの事故現場とは100㎞ほどしか離れていない。あとそれ以外では、地元の軍事組織どうしの紛争では使用されたという噂はあるが、未確認だ。』
崔からの通信があることに気が付いてAyaが言った『Yoichiがなんか話したいらしい』
伴「Yoichi ,何か、不具合でも?そろそろ16時だから、予定からするともうすぐ半分終わるころだが。」
崔「予想よりも砂の抵抗が大きいようで、予定通りの速さで進めようとすると消費電力が大きくなりすぎるので、少し速度を押さえています。それより、砂の何が影響しているのかわからないのですが、針の不良率が予想より高く、現在5台のCASM-3のうち2台は不良率が閾値を超えた針モジュールのユニット数が3あるので折り返し点で荷車を予備機に交換します。本体は問題ないので。残り3台については不良のユニットは今のところないけれど不良率が閾値に近いユニットがいくつかあります。」
伴「不良が生じた2台の場所は?」
操作部の表示画面を見て崔「2番目と4番目です。」
伴「閾値は5%でしたっけ?」
崔「そうです。」
David「不良率とかモジュールとは、何のこと?」
伴「先ほど説明したように、CASM-3が引いている荷車の底にはたくさんの針がついていて、その総数は36,000本。砂漠でこの針を刺したり抜いたりしていると、中には動作不良になるものが出てくる可能性があります。そうすると針を交換しなくてはいけないので、それがやりやすいように底の面を60個のモジュールに分けています。底全体で幅3m、奥行き0.3mなのですが、各モジュールは幅0.3m奥行き0.05mとなっていますので、1枚のモジュールには600本の針があります。このような構造になっているので、多数の針が不良になったモジュールが生じた場合は、モジュール単位で交換します。一応ある程度の予備モジュールを持ってきています。モジュールの交換自体は、荷車を裏返しにする必要はありますが1個当たり数分でできるはずです。その交換の目安ですが、モジュール内の不良の針の割合が5%以上としています。これが閾値です。なお、モジュールですけど、1種類ではありません。針の向きが厳密に垂直方向というわけではなく、外側の方向に少し曲げています。つまり、荷車の中央部では垂直方向ですが一番端とその中間で角度を3種類に変えています。」
David「つまり、モジュールは3種類、いや5種類、そうすると前後と左右があるから25種類?」
伴「各モジュールは180°回転しても取り付け可能になっているので、13種類になります。今回用意している予備モジュールは、確か各3個のはずです。」
David「それで足りなくなったら、針の交換は可能なの?」
伴「原理的には可能だけど、それは手作業では無理です。一応針の予備もいくつかはあったはずだけど。」
その間にThomasとDengが不良の判断された両端の2台のCASM-3を回収して予備機2台を出して、崔がその2台を両端で使おうとするのを見て、
伴「Yoichi、その2台が担当する場所はもとの位置にして。」
崔「え?はい、了解です。」
伴「針の不良の割合は、予想と比べてどのくらい多いの?」
崔「だいたい200倍。日本でテストしたときは、6時間動作させて1台当たりの不良が10本程度だったのが、ここでは1時間で700本くらいなので約2%。このペースだと、今日終わった時点で予備モジュールを使い切ってしまって、明日1時間動作させたら、それ以降は5台動作ができなくなり、明日の途中で実証実験は終わりになってしまうでしょう。」
伴「不良になった針交換で済むなら、針自体の予備は?」
崔「針の予備は、さっきチェックしたらCASM-3の1台分あるけど、針の交換は精密作業だから日本に持ち帰る必要があります。こんなところで、できるわけないから。」
ちらっとDavidのほうを見て、伴「そう?」
David「君たちが想像する以上に、このへんの技術力は高いよ。良かったら、その作業ができそうなところを調べてみるよ。少なくてもモジュール交換作業をするには、ここで行うよりどこかの作業場を借りたほうがいいだろう?」
崔「ここで針の交換ができると思えませんけど、確かに作業場を使わせてもらえると助かるので、お願いします。それでは、今日できる範囲での実証実験を続けます。」と言って5台のCASM-3を動作させた。DavidはHMDをOffにしたようでZhao Míngxuānとなにやらひそひそと話を始めた。伴は、その近くをたまたま通りかかったThomasが驚いた顔をするのが見えたので、Thomasが近くに来た時にHMDをOffにして聞いた
『何か気になることでもあった?』
Thomas『Davidが場所と人の名前を言って、Zhao Míngxuānが、昔は誰も近づかなかったが今は問題ないと答えていたのだけど、その場所は、俺が小さいころあそこは物騒だから絶対に近づくな、と親や親類から何回も聞いた場所で、さらに人の名前のほうも記憶が正しければ昔周りからすごく危ないと言われていた民兵組織で有名な人なので、これからそんなところに行くのかと驚いた。』
伴『その民兵組織は、どうして君たちから恐れられているの?残虐ということ?』
Thomas『特に残虐ということは聞いていないのだけど、神出鬼没でどこから襲ってくるかわからないらしい。まあ下っ端の連中は規律が他の組織よりも少し厳しいくらいで大きな違いはなかったらしいけど、上のほうの人たちは正体不明で、一度敵と認識されると絶対に逃げられない、と聞いた。ただそういう人たちはいるところがだいたい決まっているから、そのあたりに行かなければ安全だとか。』
伴『わかった、あとでDavidに聞いてみるよ』CASM-3の作業がそろそろ終わりという頃に伴が外で作業を見ているところにDavidが近づいてきた。
伴『このあと、どこか寄るのか?』
David『ここに来る途中に地雷騒ぎがあっただろう。あの関係者のところだ。』
伴『何のために?大丈夫なのか?』
David『そこの技術力は問題なく十分のはずだ。』
伴『我々に危険は無いのか、という意味なのだが。』
David『そこにいる人がどんな人なのか、聞いた。それで判断すると、この人は絶対に信頼できる。詳しいことは秘密なので言えないが、信用して欲しい。このあたりで一番信用できる人の一人のはずだ。』
伴『Davidは先方のことを知っているようだけど、先方はこちらのことを知っているのか?』
David『それは、わからないし、聞いても答えてくれないだろう。』
Davidの言い方、目つきなどから見て心からそう思っているのだと判断して、
伴『わかった。うちのメンバーには、そちらの保証付きだから安全だと話しておこう。』と言った。
そうしているときに崔の声がした。
「今日の作業は終わりましたけど。」
伴「けど?」
崔「どこか作業場所を借りられるんですよね?」
David「ああ、今そちらがマイクロバスで使っているエリアの数倍の作業環境を確保したけど、それで十分だろう?」
崔「はい。」
伴「それで、あと何か問題は?」
崔「これで7台中6台に不良ユニットがあって、持ってきた予備モジュールで不良ユニット無しにできるのは5台だけ。明日の午前中にどれか不良が生じたら、あとは台数を減らして実験するしかありません。」
伴「不良になった予備モジュールは、どこか場所が集中しているということ?それ以外は問題ない?」
崔「不良ユニットに関しては、そのようです。あとでまとめます。それ以外は、今のところ大きな問題はないです。」
時間を見て、伴「実証実験は15時スタート、17時10分終了で、場所はRPCのタワー160A付近、終了面積は30m×20m、ということで本社と日本大使館の石井さんへ連絡します。AyaはRPC側などへの連絡をお願いします。」
Aya「RPC側はタワー建設で忙しそうで、次の連絡は今回の実証実験終了後でいいそうです。スーダン政府のほうも、何か問題が起こらなければ連絡は不要と言われています。」
伴「それでは、撤収をお願いします。位置確認のポールだけ残してください。撤収後にこれからの行き先の説明をします。」
DavidはEU側に連絡していたようで、それが終わって手で伴に合図をしてきた。片付けは20分ほどで終わり伴のグループはマイクロバスに集まったので、
伴「これから向かうのは、EU側が探してくれた作業場だが、昔は民兵組織の施設だったらしい。ただDavidの話では、非常に信頼できる相手だそうだ。この話について私は信頼しているので、EU側に従おうと思う。皆さんも一緒に行って欲しいが、もし絶対にできないということであればそれでも構わない。強制はしない。」
Thomasが「砂漠の幽霊」というとAyaやDengは驚いた顔をしたが、
Kierが助け舟を出した「確かに、その組織は昔なら多くの人から恐れられたのだが、それは悪徳非道という理由ではなく神出鬼没で他の組織よりも戦闘で強かったたからで、その理由の一つは非常に規律がしっかりしていた組織だったこと。EU側が信頼できるというのであれば、「砂漠の幽霊」はEU側と何らかの関係があるのだろうから、我々もその関係者だから大丈夫だと思う。」
この説明で他のメンバーは全員一緒に行くことが決まった。
伴「わかっているとは思うけど、EU側が安全と言っても、もとは民兵組織の関連なのだからくれぐれを余計な軋轢を生むことがないように気を付けて欲しい。」。
その後すぐに、EUの車を先頭に他の車が続いて行った。ちなみに2台目は伴たちの車だった。




