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4.見せかけの優しさ

翌朝、タイミング良く博士からの呼び出しがあった。

仕事場には休みの連絡を入れて南にある博士の家に向かう。咲の気にしていた視線は博士と関係ないと良いが。博士の家に行くのは気が進まないので足取りが重い。


「こんにちは。アンセです。入ります。」

少し奥まった所にある博士の家に入るとグネルも来ていた。嫌な予感がする。


「どうかね。咲くんは。我々の求める才を持っているように見えるかね。」

「…まだ二日ですからよく分かりませんが、今までの人達と大差は無いと思いますよ。」

鈍臭さと騒がしさを除けば。心の中で付け足しておく。この情報は博士にとって何の意味もない。


「うむ。噂で聞いた所によると随分と咲くんに入れ込んでいるようだが。」

「入れ込んでいる?俺がですか?あり得ません。…振り回されているだけです。」

博士の指摘にゲンナリすると同時にやはり見張りが付けられていたようだと察する。


「それなら良い。あまり対象者に特別な感情を持つと後で面倒なのでな、確認しておきたかったのだ。グネル、あれを。」

あれって何だ?何か裏で動いているのか?警戒していると小さなBB弾くらいの金属の丸い塊を渡される。ひんやりと重い金属特有の手触りがする。


「これを咲くんに渡してくれ。」

もっと怪しいものだと思っていたので少し安心する。


「これは?」

「咲くんの居場所を知るためのものだよ。」

「…何のためにですか。」

「隠れてミレニオを探しに行くかもしれんからな。その時には追いかけられるように備えて置くのだよ。」

ミレニオを探しにか…咲はそんなことしなさそうだと直感的に思う。そもそもミレニオを知らないのでは無いか。そう言ってみるとグネルが首を振る。


「私がお呼びする時にミレニオの話をしたところ、大変興味をもたれておりました。」

「そうなんですか。まだ一度もミレニオについて聞かれたことはないですが。」

「隠しているのかもしれません。独り占めするために。」

そんな器用なこと出来ないと思うが、会って数日の相手のことをどうこう言える立場じゃ無い。


「分かりました。渡せば良いんですね。」

「さりげなく毎日持ってもらうように仕向けなさい。」

「どうやって?こんなもの…。」

「それを考えてなんとかするのだよ。」

嫌な事を頼まれた。思わず眉を顰める。


「それからこれは君の分だ。これを見ると一定距離にいればどこにいるのか分かるようになっている。」

レーダー探知機ようなものを渡される。俺が見張るのか。眉間の皺がさらに濃くなる。


「やりたくなければグネルに頼むので言ってくれ。」

それはダメだ。咲を面倒な事に巻き込まないためには情報を俺で止めて置く必要がある。


「大丈夫です。機械が苦手なので多少慣れるのに時間がかかるかもしれませんがしっかり確認します。」

「よろしく頼むよ。」

話が終わると昼飯に誘われたが丁重にお断りする。こいつらと一緒にいると気分が悪い。


博士の家を後にすると、その足で樹の館に報告に向かう。

(ミー)は胡散臭い物を見るような目で機械を見たあと、俺にも同じ視線を向ける。俺まで同類に見られているようでいたたまれない。


「ちゃんと咲を守りなさいね。」

「分かっています。」

「そう…まあ、なら良いわ。咲とは上手くいきそう?」

「はあ?上手くとは何ですか。正直振り回されてばっかりで疲れます。」

「あらそうなの?クノーリアン行ったり、バッグ買ってあげたりしているみたいじゃないの。」

何でそんな事を知っているんだこの人は。咲が感じた視線は博士の偵察ではなくてもしかして樹の放った諜報員だったのか?


「何で知っているのかって顔しているわね。仕事柄、私の目や耳が街には沢山あるのよ。ふふ。」

はあ、この人は悪い顔をしている時が一番イキイキしていると思う。こう言う時の樹はたちが悪い。あれこれ聞き出すに違いない。さっさと話を終わらせなくては。


「クノーリアンは、歓迎会兼ねて呼んだだけですし、バッグは店の親父さんが困っていたので助けただけです。どちらも大した意味はありません。」

そうだ、それだけのことだ。きっちり説明をさせてもらう。それにしてもこの人には隠し事は出来ないと思う。


「まあ、そういう事にしておきましょうか。報告ありがとう。何かあったらすぐに連絡してちょうだいね。」

「…分かりました。」

絶対に()()()()()になっていないと思う。面倒がここにも生じてしまった。咲といると碌なことがない。


一方の咲はクノーリアンの一件以来、俺から一定の距離を置こうとしているのが分かった。気まずいままだとこの弾も渡せないし週末どこかに連れ出すとするか。


「おい、起きてるか。」

休日の朝、咲を迎えに行く。風電話(ウィーテル)を持っていないので都合を事前に確認出来なくて不便だが、まだ知り合いも居ないこの状況で用事なんてないだろう。


「うーん、今起きた。ちょっと待って…」

案の定まだ寝ていたようで寝ぼけた声が寝室から聞こえる。持ってきたサンドイッチを机に並べてお茶を淹れようとするが葉っぱが見当たらない。空っぽの棚を見て咲の食生活が心配になる。


「美味しそう!」

寝室から出てきて挨拶するより前に咲はサンドイッチを賞賛した。それから脇目も振らずにかぶりついている。気まずさなんて微塵も感じられない。


「…なんだ、オレが気にしすぎただけか。」

「ん?どう言うこと?」

口いっぱいにサンドイッチを頬張りながら咲が聞き返す。


「この前のご飯の後、俺のせいで気まずくなったままだったから。これはお詫び。うまい飯なら釣れるかなと思ってさ。本当はお酒も付けようかと思ったけど休みとは言え朝から酒は、流石にな。」

少し言い訳がましくなってしまう。


「こっちこそ、サプライズ嫌いなの知らなくて、折角の大切な日にごめん。」

咲はもぐもぐと口いっぱいにサンドイッチを頬張りながら謝まるせいで誠意がイマイチ伝わってこない。俺の心配し過ぎだったのかもしれない。


「いや、別にサプライズ嫌いじゃないんだ。寧ろ嬉しかったよ。」

そう、とても嬉しかった。ここにきて最高の時間だった。なのにそれを伝えられなかった。


「これから出かけよう、東の街案内してやるよ。」

咲が明らかに迷っている。でも食べ物で釣れることは分かっている。俺と同じで咲は美味しいものには目がない。


「迷ったふりしたって予定ないだろう。行くぞ、美味いもん食わせてやる。」

咲はもう出かける支度を始めていた。


まずは近くて栄えている東の街がいいだろう。週末にはご飯だけではなく、手作り品のマーケットも開かれて駅前が賑わう。

駅を降りると早速テンションの上がった咲が飛び跳ねて走り出そうとする。


「わー!すごい人!街って感じ!!楽しい!」

すごい人混みでしっかり繋ぎ止めておかないと興奮している咲を見失いそうだ。


「迷子になるから気をつけろ。この辺のお店は手作りで量産されていない趣味の店ばかりだから気に入ったら買っとけよ。」

咲に促しつつ自分も弾をどうにか加工するのにちょうどいい物がないか物色する。


「お兄さん、彼女に一つどうですか。」

声をかけて来たのはアクセサリーの店だった。これなら上手くデザインに組み込めそうだ。飾りに見えるように加工できないか相談しようとすると面白い調合の石が目に入って思わず仕事モードになる。

なるほど、この模様の入った石は家具にも使えるかもしれない…などと考えていると、このままでは商売にならないと思った店主がネックレスや指輪を勧めてくる。そうだった、咲にあげる物を探していたのだった。

…にしてもアクセサリーをあげるのは何か意味を持たせてしまう気がする。するとバッグに付けるキーホルダーのような物を提案される。これならいいか。

職人同士、盛り上がりながらその場で加工して小さな弾も一緒にキーホルダーに入れ込む。咲のイメージに合ったいい物が出来た。てっきり後ろにいるものだと思って振り返って渡そうとすると咲の姿はなかった。

しまった、分かっていたのに咲を見失ってしまった。


「にいちゃん、頑張れよ!」

店主に応援されて店を後にする。


そう遠くへは行かない筈だと近くを見て回ると、道の真ん中で一点を見つめている咲を見つける。何を見ているんだ?もしかして、こんな所にもグネルはついて来ているのか。俺も思わず辺りを見回す。とりあえずグネルらしい人は見当たらない。

念の為、一通り不審な動きがない事を確認をしてから咲の肩を叩いて声をかける。


「悪いな、つい話に夢中になってしまって。ほら、これ、もらったんだ。お前をを放ったらかしにしたお詫びだそうだ。」

俺からと言ったら受け取らない気がして店主からのプレゼントということにする。

咲は店に戻って店主にお礼を言うと早速バックに付けている。

…気に入ったようで良かった。でもこれで俺は咲を追跡出来るようになってしまう。咲の嬉しそうな笑顔が心苦しい。


久しぶりの街はなんだかとても楽しかった。さっきのお店のように珍しい素材や形の製品を出している店が沢山あって仕事の刺激にもなる。こんなに楽しいなら休日働かないでもっと色んなところに出かければよかった。


今度こそ咲を見失わないように目の端に咲を捉えながら次々に店を見て回る。

いい時間を過ごせたな、ふと気が緩んだ隙に咲が視界から消える。何だってすぐにどっかに行くんだ。全くのんびり買い物も出来ない。


また近くにいるだろうと鷹を括って居たら全く見当たらなくて途方に暮れる。もしやグネルに拉致られたりしてないよな。バクバクと心臓が大きな音を立てる。街のざわめきが大きく聞こえて咲が見当たらない。

少し遠くまで目をやると少し離れた所に緑が多い所が見えた。樹々の声が聞こえるならあの辺にいる可能性もあるな。歩いていくと緑が多く見えたのは八百屋だった。なかなか大きな野菜を扱っている。

店を覗くと咲が店主らしき人と楽しそうに話している。


「咲!心配かけるな!」

思わず声を上げる。

そしてギロリと八百屋の男を睨みつける。咲と何話していたんだ。やたらとニヤニヤしていて不気味だ。早くこの店を立ち去ろう。

ほら、と手を出して手を繋ぐように促す。


「何にもないよ。」

咲は頓珍漢なことを言う。何もない…何かもらえると思ったのか?どう言う思考回路しているのか、危機感がない。あとをつけられていると怯えていたのではなかったのか。


「はあ?手、繋ぐんだよ、手。どっかに行かないように。」

もうこれ以上迷子になる大人の面倒なんてごめんだ。俺も街をぶらぶらするのは今度一人の時にしよう。


お昼にはまだ早いのでもう一つ先の大通りまで歩いていると途中で遊歩道を見つけた咲が引き込まれていく。


「お前、植物好きなのか。」

「そうだね、地上にいたときから気分転換にこんな風に自然の中を歩くことはあったよ。」

前からなのか、それは良かった。樹々の声が聞こえるのは今だけだから早く終わると良い。そうしたらこんな監視から逃れられる。


咲が空を見上げて立ち止まって、繋いでいた手がするりと離れる。俺も何となくそれに倣って空を見上げる。不思議な事に先日一人で見上げた時よりもずっと輝いているように見える。時間が少し早いからだろうか。

首が痛くなってひと足先に歩き出すと咲が後ろから駆け寄ってくる音がする。


「これ何の実かわかる?」

手には大きなパッシオの実を持っている。


「これは…パッシオの実だよ、こんな大きいの珍しい。どうしたんだこれ。」

「落ちてた。あげるよ。」

俺が歩いた時には落ちてなかったのだから咲に与えられたのだろう。それにこんなに大きな実は店では売っていない。


俺もまだ樹々の声が聞こえていた頃、よく色んな実を貰っていた。そしてこのパッシオの実が一番好きだった。元気になるよっていつも応援してもらっていた事を思い出す。それなのに俺は…


「…いらない。」

そう言ったのに咲が無理やり握らせて持っているようにと押し付けて来る。


「あげる、プレゼント。」

「落ちてたものをプレゼントはないだろ。」

全く横暴だ。…まさか樹々から俺に…?そんな訳ないか。

咲が強引に押し付けるのでパッシオを落とさないようにそっとポケットにしまう。それから再び咲の手を握る。心をかき乱す余計な物を拾わないように、何処かに消えていかないように。


しばらく遊歩道を歩くとまた大きな通りに出た。腹が減ったので食べ歩きをするとまた咲がキョロキョロとし始める。


「どうした?動きが小動物っぽくなってるぞ。」

咲は少し迷った挙句、常に誰かの視線を感じるのだと打ち明けてきた。振り返っても誰か分からないけど、絶対誰かが見ていると断言する。

この前、俺が咲を監視すると断言したのだからグネルが近くにいるわけがない。でも、その保証はない。


「今度感じたらまずはオレに知らせろ。キョロキョロしないで気づかないフリしてろ。いいな。」

俺が咲を守る。繋いだ手にぎゅっと力を入れる。咲の事は俺が守る。


「アンセ、手繋がなくても私大丈夫だよ。居なくならないよ。」

「そうだな、そうだよな。」

咲に余計な不安を与える必要はない。握る手の力を少しだけ緩めた。


二輪の南東に着くと再び賑やかな街並みに変わる。

沢山の食べ物屋が所狭しと並んでいていい匂いが漂う。


「美味そうな串だな、食べるか。」

咲は食べたいけどお腹いっぱいだと言うので串を一本買って一番上を分けてやる。


「美味しい!東の街最高だね!」

嬉しそうに言うので調子に乗って色々と買い回っては咲に一口だけ分けて一緒に楽しんだ。咲の笑顔が眩しくて俺の良心が痛む。


「もうお腹いっぱい!ありがとう!」

散々食べ回って流石にお互い限界だ。


「俺も腹いっぱい。食ったー。」

ベンチにのけ反って空を見上げる。今日はいつ見ても空が綺麗だ。実は地上と同じで毎日空の輝きは違うのかもしれない。


「夕飯要らないな。美味い飯は最高だよな。そのために働いていると言っても過言ではないな。」

「アンセは食べ物で気分が後押しされるって知ってた?」

ああ、食べ物の力の話を聞いたのか、でもそんなのは関係ないと思う。食べたいと思う物は体が必要としてて、それを食べたら幸せになる。それでいいじゃないか。

咲もそうだよね、と笑顔で返してくる。

こんな感覚は外から来た俺たちだから分かち合えるのだ。


しばらくベンチでぼーっとしてから歩き出す。腹ごなしに再び遊歩道に沿って大通りを目指す。

林の中を楽しく歩くのは何年ぶりだろう。

スクエアに戻って家に帰る風通路を目指していると咲が人にぶつかった。するとパタリと咲がその場に崩れ落ちた。そんなに柔じゃないだろう?呆れていると一向に立ち上がる気配がない。


「咲、大丈夫か?どうした?」

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