エピローグ
フェイリのチャンネルは、
あれ以来更新が止まっている。
エラもまた、姿を見せていない。
ふたりの名前がタグになることはあっても、
そこに温度はなかった。
燃え尽きた後の炭のように、
ただ記号として残るだけ。
ある日、静かにフェイリのアカウントが削除された。
SNSも、動画も、アーカイブも。
彼がネットに存在していた痕跡は、
少しずつ消えていった。
残ったのは、画面越しに笑っていた記憶と、
無数の議論の跡。
“被害者が嫌がっていなければセーフ?”
“いや、関係性があってもセクハラはセクハラだ”
“そもそもあれは冗談で済ませるようなこと
じゃなかった”
“彼女は加害を肯定してしまった”
エラの投稿にも、
もう誰も「楽しみ」とは言わなくなった。
それでも彼女は、時折、ぽつりと呟く。
「フェイリくん、元気にしてるかな」
その言葉すら、
すぐに誰かの論争に巻き込まれていく。
誰が火をつけたのか。
誰が薪をくべたのか。
誰が火のまわりに人を集め、
誰がその光に歓声を上げたのか。
正義のためだった。
倫理のためだった。
被害者のためだった。
未来のためだった。
けれど、ふたりはもう、戻らない。
──その薪をくべて、いいんですか?
問いは宙を漂ったまま、
誰にも答えられず、夜の底に沈んでいった。
※本作に登場する商品名・団体名・人物名は
すべてフィクションであり、実在のものとは
一切関係ありません。
SNSやネット文化のなかで
感じていた“ざらり”とした違和感をテーマに、
この物語を紡ぎました。
誰かの言葉が、誰かの正義感が、
薪となり、火にくべられ、燃えていく…。
そんな光景を、何度も目にしてきました。
炎上は、誰かひとりのせいではありません。
けれど、誰もがその一部になりうる。
──私はそう思っています。
この小説を読んだあなたは、どう感じたでしょうか。
そして――
この物語を、あなたは「薪」として
くべるのでしょうか?
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。