立ち上る炎の中で
炎は、あっという間に世界を包んだ。
批判の声は国内にとどまらず、翻訳され、
切り抜かれ、海外のSNSへも拡散された。
「文化の違いでは済まされない」
「日本の配信界隈、セクハラをネタにして
笑うなんて信じられない」
「たとえ本人同士がよくても、見せられる側が傷つく。
公共の場なんだから」
フェイリは黙ったままだった。
コメント欄も、DMも、通知も、
すべてが“怒り”で満ちていた。
──何を言っても、もう火に油だ。
一方、エラは、最初こそ毅然としていた。
「私たちの関係性を、勝手に決めつけないで」
「嫌じゃないって言ってるのに、
どうして無視されるの?」
だが、その声はやがて変わっていく。
「本当にこれで良かったのかな」
「わたしが、あのとき、もっとちゃんと……」
彼女のTLには、かつて彼女を応援していた
ファンの苦言が並びはじめていた。
「セクハラを受け入れる姿勢ががっかり」
「あなたに失望した。もうフォロー外します」
「あなたが“嫌じゃない”って言ったから、
セクハラが許される空気が生まれたんだよ?」
“わたしが悪いんだろうか”
ふたりの間の連絡も、少しずつ減っていった。
「また一緒に配信しようね!」と
送りかけたメッセージを、エラはそっと削除した。
立ち上る炎の中、ふたりはもう、
お互いの姿を見失いかけていた。
※本作に登場する商品名・団体名・人物名は
すべてフィクションであり、実在のものとは
一切関係ありません。