火種
フェイリとエラが初めてコラボしたのは、
配信歴がちょうど3年を迎えた頃だった。
別々の事務所からデビューした二人の記念日は、
不思議と数日しか違わなかった。
互いの存在は前から知っていたらしく、
リスナーの間でも「いつか二人で配信してほしい」と
言われ続けていた。
最初の配信は、お互いの緊張が透けて見えるような、
不器用な雑談だった。
でも、数回目にはもう、
それが心地よい“ノリ”に変わっていた。
「フェイリくん、今のはわざとぶつかったでしょ」
「いやいや!誤解ですって!
ゲームの仕様です仕様!」
「はいはい、また私にくっつきたいだけでしょ〜?」
そんな軽口の応酬は、コラボ7回目にもなる頃には
もはや“お約束”になっていた。
彼らの配信は、ゲームプレイよりも、
むしろ雑談の空気感を楽しみにするリスナーたちで
賑わっていた。
エラは天真爛漫なタイプで、
何でも笑い飛ばしてしまう性格だった。
フェイリはその隙をついて
ちょっかいを出すのが好きで、
エラの冗談の切り返しに「ツッコミ上手!」と
感嘆するのが恒例だった。
誰もが「仲良いなあ」と笑い、
エラ自身も「フェイリくんとは気が楽〜」と
何度も言っていた。
ある晩の配信、アクションゲーム中に
ちょっとしたアクシデントが起こった。
ゲーム内でキャラクターが転倒し、
偶然にもフェイリのキャラがエラのキャラの胸元に
倒れこむような格好になってしまった。
「うわっ!これは完全に事故です!
いやほんとすみません!」
と慌てるフェイリ。
だが、その声のトーンにはどこか茶目っ気が
混じっていた。
「……フェイリくん、そういう趣味……?」
とエラがからかうと、
彼はふわっと口元を緩ませて、
「そ、そんなことないよ!でも、ちょっとだけ……ふわふわだァ…」
と答えた。
「ちょっとー!なにいってんのよーーー!」
とエラが笑いながら突っ込む。
コメント欄には草と笑顔の絵文字が流れた。
「最高の事故w」「エラちゃん優しい」
「フェイリの顔w」──
そこには、確かに“いつものノリ”があった。
冗談が冗談として通じる、画面越しの信頼関係。
それが、壊れるまでは
──あと、わずか数時間のことだった。
※本作に登場する商品名・団体名・人物名は
すべてフィクションであり、実在のものとは
一切関係ありません。