表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼくの夜明け~続編その2・AI使用  作者: 星野☆明美、石塚裕介
3/6

第23話☆逆巻く影

第23話☆逆巻く影








霧の階段を三十段ほど降りたころ、リクとサラの周囲で風向きが急に変わった。


衣の裾が逆さに揺れ、髪が真上へ流れる。


足音は次の瞬間、後ろ向きに跳ね返り、時間が巻き戻されているのだと二人は悟った。


だが歩みを止めれば進むことも戻ることも出来なくなる――時計職人の忠告が耳の奥で反響する。






「言葉で道を縫うのよ」サラが囁く。


リクはタイプライターの想像上のキーを空中で叩き、声に出さずに物語の一節を綴った。


すると足元の段が淡い光で縁取られ、逆流する風を切り裂く一本の糸となった。


二人はその光の糸を踏んで先へ進む。






やがて霧の中に古い書庫が浮かび上がる。


扉も壁もなく、数え切れない本が階段を囲うように円筒状に漂っていた。


背表紙にはかつてリクが捨てた草稿の題名が並び、文字が剥がれ落ちたページからは黒い影が漏れている。


影は蠢き、二人の足首へ絡みついた。






リクは胸の時計を掲げた。


水晶の文字盤に星のかけらが溶け込んだ光が走り、針が逆回転を止めて前へ進み出す。


影は眩しさにたじろぎ、階段の隙間へ吸い込まれて消えた。


だがその拍子に、周囲の本が一冊ずつ崩れ落ち、闇の底へ滑り落ちる。






頭上でどこかの鐘楼が鳴った。


時刻を示すはずの鐘は十二回、十三回、十四回と際限なく重なり、数を失った時間の残響が霧を震わせる。


リクは自ら紡ぐ物語だけが正しい時を刻めるのだと悟り、さらに背筋を伸ばした。






「早く中心まで!」サラが叫ぶ。


二人は本の雨をかいくぐりながら円筒の中央へ跳び移る。


そこには透き通った階段が螺旋を描き、上方へ伸びている。


透明な段の内部には無数の活字が浮かび、ゆっくりと上昇していた。






リクが第一段を踏むと、活字が足裏に吸い込まれ、彼の思考と重なった。


過去に書いた後悔の行、未来に書くはずだった希望の行──すべてが混ざり合い、新しい文章の流れが生まれる。


言葉が階段を押し上げ、逆巻いていた時間はふっと静止した。






やがて霧の上から柔らかな光が差し込む。


時計の針は正しい向きを刻み、胸元で心拍と重なり合う。


サラが安堵の息を漏らした。


「これで三歩目。


あと四歩ね」






リクは頷き、透明な段を見下ろす。


そこには今しがた形成されたばかりの一文が煌めいていた。






〈影は言葉を恐れ、言葉は影を照らす〉






その文は新しい章のタイトルになるだろう。


二人は手を取り合い、螺旋の上へ向けて歩みを再開した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ