表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
禍姫の嫁入り〜身代わりの花嫁は蛮王の最愛を得る〜  作者: 小蔦あおい
第6章 運命を切り拓く王妃

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/31

第28話



 ◇


 椅子に座ったままの莉珠は茫然自失していた。

 その間にも駆けつけて来た侍衛たちは、王荘から守るように莉珠を取り囲んでくれる。

 莉珠は目の前の光景よりも、貴賓室の外の音に耳を集中させていた。

 遠くの方が慌ただしい。複数人がこちらに向かって駆けてくる足音が聞こえてくる。

 この時莉珠は確信した。惺嵐の身に何が起こったのかを。扉が勢いよく開かれて、入って来たのは翠月と侍衛たちだ。

「この者は陛下を謀った大罪人。ただちに捕縛せよ!」

 翠月の命令で侍衛の一人が王荘の腕を後ろ手に組んで縄で縛り上げる。


「すぐに解毒方法を教えろ! さもなくば、貴様の命はないと思え!!」

 翠月が一喝すると王荘は笑い出した。

 その場に似つかわしくない不気味な声に、思わず翠月と侍衛たちが怯む。

「解毒なんてこの私が知る訳ないでしょう。死刑にされようが構わない。禍姫を絶望させ、淑妃様がお喜びになるのであれば。あの方の喜びが私にとって至上の喜びだ!」

 腹心である王荘が雹雪に忠誠を誓っているのは知っていた。だがこれほどまで心酔しているとは思わなかった。


 翠月は舌打ちをする。

「この者を地下牢に連れて行け。本当に解毒方法を知らないか徹底的に調べ上げろ!」

 王荘は未だに愉悦の笑みを浮かべていた。

 莉珠の絶望した顔が見られて悦に入っているようだった。

 顔色をなくした莉珠はふらふらとした足取りで翠月のもとに駆け寄る。

「王妃様……」

「翠月、陛下はどうしているの?」

 莉珠は翠月の腕に縋り、蚊の鳴くような声で尋ねた。

 翠月はたちまち暗い表情になり、目を伏せる。


「陛下の意識はありません。待医によると、脈がどんどん弱まっているようです。解毒したくとも毒の成分が分からないため、手の施しようがなく。……申し訳ございません」

「そんなっ……」

 莉珠はその場に崩れ落ちた。

 惺嵐が死ぬ。死んでしまう。

 もう二度と彼の温もりに触れられないのだろうか。

「禍姫も知っているだろう。淑妃様の毒牙に掛かって生き延びた者はいない。恨むなら淑妃様に目をつけられた己を恨むんだな!」

「口を慎め罪人が!」

 侍衛に叱責されるが王荘は高笑いをやめない。


 莉珠は眉を吊り上げて王荘を睨めつけた。

 心に宿ったのは絶望ではなく、憤懣やる方ない感情だった。

 自分がどれだけ傷つけられようと、理不尽な扱いを受けようと我慢できた。けれど、大切な誰かを傷つけられるのは違う。

(陛下は私を妻に選んでくれた。私の瞳が赤くても好きだと言ってくれた。私の心を救ってくれた!)

 惺嵐は自分のすべてを受け入れてくれた初めての人。そんな最愛の人を失うなんて絶対にいやだ。


 惺嵐をこんな目に遭わせた王荘が憎くて憎くて堪らない。この手で殺してやりたい衝動に駆られる。目の前が真っ赤になっていると、翠月が莉珠の両肩に手を置いて来た。

「あんな人間の話に耳を傾けるべきではありません。それより陛下のもとにお急ぎください。寝殿で眠っておられます」

 怒りと恨みに呑まれていた莉珠は我に返る。続いて奥歯をグッと噛み締めた。

 分かっている。王荘へ復讐を果たしたところで永遠に気は晴れないと。

 莉珠は目を閉じて睫毛を震わせる。

(王荘が憎いし許せないのは事実。だけど今は翠月が言うように陛下の側にいることが私にできる唯一の方法だわ)

 再び目を開けた莉珠は翠月に頷いてみせると、惺嵐のもとへと走った。



「陛下!」

 寝殿に到着した莉珠は勢いよく中に入る。

 寝台の上には血の気の引いた惺嵐が横たわり、その隣では侍医が必死に治療に当たっていた。

 侍医は莉珠に気づくと拱手をして深く頭を下げる。

 莉珠は寝台の前で膝立ちになり、惺嵐の手を握り締める。このまま惺嵐を失ったらと想像するだけで肝が冷えた。

「陛下の容態は? 解毒の手掛かりは見つかりそう?」

「申し上げにくいのですが、この毒は私の知るものではありません」

 侍医が知らないのも無理はない。惺嵐が侵されている毒は、あの雹雪が作った毒なのだから。


「これは普通の毒じゃないはずだわ。恐らく、邪術と組み合わせているはずよ」

「邪術は他人に危害を加えるための術だと聞いたことがあります。私の専門外ですが、医務局にいくつか関連書物があるので探して参ります」

 侍医が出ていくのを見送った莉珠は再び惺嵐に顔を向ける。

「……陛下」

 莉珠は惺嵐の手を握り直し、自身の頬に寄せる。

「どうか生きてください。あなたは蒼冥国に必要です。そして私の命よりも大切な、最愛の人です」

 閉じた瞼から珠のような涙が溢れる。それは頬を伝い、ぽたりと莉珠の佩玉に落ちた。


『力を使う時は誰かのために使うこと』

 不意に母の言葉が響く。否、佩玉から声が聞こえた気がする。

 莉珠は佩玉と血の気の引いた惺嵐を交互に見た。

「この状況で耳通力を使って何が得られるというの?」

 莉珠が音を拾えるのは五里まで。その距離では安永城の後宮まで届かないし、この状況下で役に立つとは思えない。

 それでも莉珠は母の言葉を信じて、試しに宮殿中の声を拾ってみる。


 まだ広まってはいないが、惺嵐が倒れたという話は一部の関係者の間で騒がれている。

 医務局では書物を漁りながら必死に解決の糸口を探す侍医の焦る声が聞こえてくる。

(やっぱり、耳通力があっても私は死の淵に立たされている陛下のために何もできないんだわ)

 莉珠の瞳に涙が滲む。

 もう耳通力を使うのはやめよう。これ以上力を使ったところで為す術はない。

 そう思った矢先、宮殿中から聞こえて来る声の中で、場にそぐわない嬉々とした声が混じっていた。それは、地下牢から聞こえて来る。


(この声は王荘? 誰と話しているのかしら?)

 声が弾んでいることから話し相手は看守ではなさそうだ。

 莉珠は意識を集中させる。耳をさらに澄ませていくと、王荘と話しているのは女性だった。莉珠はその声の主が誰なのか分かった。

(この声って、淑妃様?)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ