表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

96/97

第96話 それは父からの贈り物。


 数日後、綾乃と一緒に綾乃の実家にいくことになった。すると、実家ではなく、そこから数十分のところにあるマンションに連れいかれた。


 インターフォンを鳴らす。


 「はい」


 ぶっきらぼうな声がして、俺より随分と年上そうな男性がでてきた。


 男性は、眼光鋭く、俺を睨みつけた。


 「こいつか?」


 「うん。お父さん。この人だよ」


 お父さん?

 この人は不仲と言っていた、綾乃の父親か。


 だったら、娘にちょっかいを出す俺の印象が良いハズがない。


 「まぁ。娘の頼みだからな。会ってはやるが。それだけだぞ」


 「うん。お父さん。郁人の話を聞いてあげて。そしたら、きっと見直すからっ!!」


 おいおい。綾乃さんや。

 俺は、たった今、彼の敵に認定されたと思うぞ?


 「……郁人? きみ、名字は?」


 「山﨑。山﨑郁人です」


 すると、綾乃のお父さんは数秒、フリーズした。


 「……山﨑? 山﨑先生のご子息かっ」


 本気でだれか分からない。

 っていうか、こんな地方に知り合いがいる訳がない。


 「えっ」


 「樫本だよ。樫本涼太。君のお父さんの秘書をしていただろ?」


 あぁ。たしかに。

 こんな人いたかも。


 それからは、樫本さんの態度はガラリと変わって、恩人の子に接するように、すごく親身になってくれた。


 綾乃が割って入った。


 「郁人。日本を変えたいんだって」


 えっ。

 なにそれ。


 初耳なんですけれど。


 綾乃は眉を釣り上げて不満そうだ。


 「郁人。いったじゃん。はじめてエッチしたとき」


 総理にもなれそうだ、とは言ったけれど。

 言葉のあやというか。


 つか、お父さんの前で「エッチ」とか言わないで。こいつ、実は俺をイジメて楽しんでるのか?


 樫本さんは俺を睨むと、咳払いをした。


 「まぁ。英雄、色を好むというしな。君のお父さんも、それはすごかったぞ?」


 やめて。

 父のそんな話聞きたくないの。


 樫本さんは続けた。


 「あんなことがなければ、総理にもなれる器だと思っていたのだけれど、本当に残念だよ。でも、君が跡を継いでくれれば、お父上も本望だろう」


 樫本さんは、現職の県議で政治塾をしているらしい。しばらくはそこで、秘書をしながら勉強してみないかと言われた。



 後ろ楯がない俺には、願ったり叶ったりの話ではある。




 家に帰って、親父の写真を眺める。

 俺は、政治家が一番嫌いだったのにな。


 俺はどうしたら……。


 「そんな大それたこと。俺にできるのかな」


 すると、りんごが紅茶を淹れてくれた。丸いお盆にポットとティーカップを乗せて、こちらに歩いてきた。

 

 「郁人さん。綾乃ちゃんの用事はどうでしたか?」


 おれは事情を説明した。


 りんごは、ニコニコしながら俺の横に座った。


 「郁人さん。わたしのこと。綾乃ちゃんのこと。瑠衣ちゃんのこと。コトハちゃんのこと。さくらさんのこと。カレンさんのこと。皆んなのことを、問題ごと包み込んでくれてくれたじゃないですか。つむぎちゃんも……」


 りんごはコホンと咳払いをした。


 「貴方は少なくとも、もう既に7人の女の子を幸せにしてるんですよ? だから、きっと貴方ならできると思うな。日本中を幸せにして。郁人さん」


 そういうと、りんごは照れくさそうに立ち上がった。去り際に、テーブルに封筒をおいた。


 「それ。この前、お掃除していたら、偶然みつけたんです。お父さんからのお手紙ですよね?」


 手紙には、ひらがなで「おとなのいくとへ!」と書いてあった。


 なぜ。大人宛なのに平仮名(笑)。


 さてさて。

 親父は、今の俺にどんな説教をしてくれるのだろう。


 俺の口元は、いつのにか綻んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ