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第93話 てがみ。

 

 俺がうずくまっていると、りんごは、一通の封筒を差し出した。


 「あの。これ。つむぎちゃんが。前に、つむぎちゃんが病気になったら、これを郁人さんに渡してって」


 おれは封筒を受け取った。

 りんごは続けた。


 「そのときは冗談かと思ったのだけれど、さっき思い出して。郁人さんに見せないとと思って」


 おれは封筒をあけ、四つ折りの手紙をひろげた。手紙は、らしくもなく堅苦しくはじまった。


 「拝啓 パパ様。母様。この手紙を読んでるってことは、つむぎはきっと病院だよね。お父さん。わたしね、病気かもって思って。色々調べたんだ。そうしたら、血液のガンみたい」


 手紙には涙が滲んだような跡がある。


 「わたし、兄弟もいないし、お母さんは輸血受けたことがあるし。お父さんは、気持ちは嬉しいけれど、無理だろうし。骨髄移植は難しいの。それにね。抗がん剤、つらいんだよ。治る確率も高くない。フラフラしてても、お父さんにもお母さんにも悟らせない。これは、天才ならではの大仕事」


 手紙は続く。


 「だからね。わたしね。病院で入院して過ごすよりもね。最後の時間は、お父さんと自分らしく過ごしたいな、って思ったんだ。それで、お母さんをそそのかして、日本に来たの。あの日、家の玄関に前にたってインターフォンをおしたとき、すごくドキドキした」


 ここからの数行は、なんども書き直したような跡があった。


 「本当はね。お父さんとお母さんに仲直りして欲しかったんだ。でも、一緒に過ごして、その役は、お母さんじゃないと思った。バカな娘でごめんね。この数ヶ月間、すっごくすっごく楽しかった。ねっ。わたしたち、死んでも親子だよね?」


 俺は手紙を封筒に戻した。


 ……ほんとにバカな娘だよ。

 敬具を書き忘れてるじゃないか。


 

 あぁ。もちろんだ。

 何回生まれ変わっても、お前は俺の娘だ。

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