第91話 話し合い。
昨日は、あれからツムギとチュロスを食べ、アトラクションの出口で写真を撮ってもらった。
楽しかったな。
だが、今日は憂鬱な約束。
みやびと会う日だ。
仕事の後、みやびが宿泊しているホテルのカフェで待ち合わせをした。
席についてすぐ、みやびがきた。
俺より一つ年下なだけなのに、随分と若く見える。キリッとした目元は、みるからに賢そうで、とてもスタイルが良い。
って、今更、みやびを女性として査定してどうする。
みやびは俺の正面に座ると、なぜか日本の社会情勢についての話をはじめた。表情も柔らかく、俺の知っているミヤビとは別人のようだった。
俺は世間話をしにこんなところまで来たわけじゃない。だから切り出した。
「今日来たのは、うちらの今後のことについて話すためなんだけど」
すると、みやびはキョロキョロして言った。
「ここじゃ他人の目があるから。場所を変えましょう」
俺は、みやびに着いて部屋に案内された。
すると、そこは。1人で泊まるには随分と広い、景色の綺麗な部屋だった。
ここで、愛人でも呼んでるのかな。
席につくと俺はさっそく話を切り出した。
「単刀直入にいうと、別れたい」
すると、みやびは驚いた様子もなく、優雅な動きでグラスにワインをついだ。
「まずは、これでも飲んで。別れても、ツムギもいるし赤の他人になれるわけじゃない。できるだけ、良好な関係でいましょ」
どうやら、別れてもツムギと引き離される訳じゃないらしい。おれは安堵して、ワインを受け取った。
それからは、不思議な時間だった。
みやびは、以前は話したがらなかった自分の話を沢山してくれた。
出会った時に印象が良かったこと。
ずっと、セックスを拒み続けてしまって申し訳なかったこと。
「ごめんなさい。わたし、あなたに対して罪悪感が拭えなくて、その気になれなかった」
むしろ、おれは身体だけでもいいから慰めて欲しかったのだが。
みやびは続けた。
「それで郁人。好きな子でもできたの?」
隠しても仕方ない。
正直に答えることにした。
「九条の娘いるだろ?」
「あぁ。やっぱり。高校生の女の子ね」
「知ってたのか?」
「手元に置きたいって言い出した時に、なんとなくね」
「腹はたたなかったのか?」
「良い気はしないけど、ツムギの父親のこと。気づいてるでしょ? わたしに文句をいう権利はないなって」
「そっか。離婚に異論はないわけだ。じゃあ、そういうことで……」
「ちょっと待ってよ」
俺が席を立とうとすると、みやびが俺の手首を掴んだ。
「なんだよ?」
「もう。こうして2人で話すことは、今後はないと思うし、わたしは慰謝料とか、もらうつもりはないの。ツムギのためにも、最後は穏やかに終わらせたいから。少しだけ付き合ってよ」
一理あるか。
おれは席に着いた。
せっかくだ。もやもやした疑問でも解消するか。
「つむぎの父親とは? 頻繁に会ってたのか?」
すると、みやびは意外なほど素直に話し始めた。
「彼とは、あなたと結婚した少し後に。わたし生理がすごく不順で、不妊症なんじゃないかって心配で。相談とかしてるうちに。あなた、すごく子供欲しがってたし」
この女は、俺のために他人と寝たとでも言いたいのか?
やはり、詮索などしなければよかった。おれは、腸が煮え繰り返るような怒りを感じた。
「俺のために他で子供を作ったとでもいいたいの!?」
「ちがう!! そういう意味じゃない。その。わたしが弱かったの。そのあとも彼が気に入ってくれてズルズルと……」
「そいつとは? まだ続いてるの?」
「ううん。もう何年も前に別れた」
ここで、俺に嘘をつく意味はない。
別れたというのは本当なのだろう。
では、ここ数年の俺の不安は杞憂だったというのか。
「それで、それからは浮気はしてないと?」
みやびは、グラスにワインをなみなみと注ぐと、それを一気に飲み干した。
「その。セックスフレンドが何人かいた。あなたに求められると、すごく気持ちが辛くて。そういうときに解消してくれる人」
俺への罪悪感から目を背けるために、セックスフレンドとお楽しみだったってことか。
「だって。わたしにも性欲あるし」
こうなったら、とことん問い詰めてやる。
「最近は、いつ?」
「……昨日。この部屋で。あなたに会うの怖くて」
俺は頭の中が真っ白になった。
胸の中に灼熱のマグマが流れ込むような感覚があり、気づくと、みやびの両手首を掴んでベッドに押し倒していた。
こんなに腹がたつってことは、俺にはまだ未練があるってことなんだろうか。
すると、みやびが肩に抱きついてきた。
「ね。セックスしてよ。そうしたら、わたしも。少しは気持ちが楽になる気がする。他の人としてもダメなの」
「昨日、他の男とした女となんかしたくない」
すると、みやびはぺろっと唇の周りをなめた。
「そう? その割には、お腹の辺りに硬いのが当たってるけれど。ね。昨日、3回したよ。中にいっぱい出された。……本当はわかってるでしょ? わたしの本心は貴方だけに許されたいの。わたしとこと、気持ちの赴くままに犯して。その人とは別れるから」
そう言いながら、みやびは俺に馬乗りになり、ベルトに手をかけてきた。みやびはスカートをまくりあげると、妖艶な太ももを露わにした。
「ねぇ。下着つけてないの。そのまま入れて。どうせ、その高校生とはまだなんでしょ?」
「おまえ。俺とどういう関係になりたいの?」
「正直いうとね。別れたくない。離れ離れになりたくない。でも、仕方ないと思ってる。だからせめて。こうしてツムギのこと相談したり、たまにエッチで慰めてもらったり。そういうのでいいの」
俺は頭の中で、「この女は頭がおかしいのか?」と思った。だけれど、りんご達のおかげだろうか、思いの外、胸の中のマグマはすぐに沈静化した。
それとは別に、憂さ晴らしに、気が晴れるまで犯してやりたいという衝動に襲われた。
でも。
『郁人さんっ!!』
いつも、そう呼んでくれる子を裏切れないよ。
俺は、みやびを自分の上から下ろすと、スカートを直した。
「別に、そんな罪悪感もつ必要ないよ。ツムギを育ててくれたことに感謝してるし。養育の相談くらいには、普通にのれるから」
俺が立ち上がると、みやびが俺のバックルの上のあたりを掴んだ。
「やだ。いま行かせたら、きっと、このままになる。それに、もうこんなオバさんに魅力感じてくれない?」
そういう言い方されると困る。
「今でも十分、キレイだよ。ギャップに苦しんでたんだろ。ずっと、周りから、美人、才女だって言われてきて。それで、あえて自分を蔑むようなことしたんだよな? お前も苦しかったよな。ごめんな。わかってるから」
みやびの話を聞いていて、瑠衣の悩みを思い出したのだ。だから、なんとなく、そうなんじゃないかと思った。
ヒロインズと過ごすようになって、俺は少しだけ、以前よりも相手の気持ちが分かるようになった気がする。
この言葉を、つむぎが生まれた頃に、みやびにかけてやれてたら、結果は違ったんだろうか。考えても仕方ないことではあるが。
いま、みやびを受け入れれば、きっと復縁できるだろう。
だけれど、つむぎ。
ごめんな。
俺は、りんごのことが。
綾乃、コトハ、さくら、歌恋のことが好きで。
後ろには戻れないんだ。




