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第90話 みやびという女性。

 

 山﨑 みやび。

 それは俺の妻の名だ。


 彼女は、俺より1つ年下だ。外見は美しく才女と言われていた。現在は、渡米して製薬会社の研究所に勤務している。


 俺が愛して、そして、裏切られた女性。


 大学を卒業して、お互いに働き始めて、しばらくすると、ツムギができた。だが、その後に、俺が無精子であることが分かった。


 だから、ツムギと俺には生物学上の血縁はない。


 だけれど、おれはツムギと一緒にいたくて、そんな裏切り者の女と普通の夫婦のフリをして過ごしてきた。


 せめて、セックスだけでも充実していれば。

 現実に目を背けられたかもしれない。


 きっと、俺の子供なんだと、無理にでも信じ込めたかもしれない。だが、セックスレスだった。


 セックスに誘っても、それらしい良い理由をつけて断られる。


 家を出たら、俺の目の届かないところで、つむぎの父親に抱かれているのだろうと考えるたびに、消えて無くなりたい気持ちになった。


 だから、すごく恨んでいた。

 そして、そんなある日、瑠衣と知り合った。


 「まぁ、いまは、俺も人のこと言えんけどね」


 脱衣所の椅子に座って過去を反芻していると、そんな言葉が口から出ていた。


 たしかに、瑠衣や綾乃、りんごやコトハ達に出会って、俺の中で何かが変わった気がする。もちろん、恨み事を言える立場じゃなくなったというのもあるが。


 彼女たちは惜しみなく愛情をくれて、俺は、以前よりも自分を好きになれた。日々、俺を苛んでいた自己否定からは解放されて、今なら、妻と、ちゃんと話せそうな気がする。


 だから。

 そろそろ、ハッキリさせるか。


 「わかった。明後日の夜はどう?」


 俺は、そう返信した。



 次の日は、ツムギと出かけた。

 たまには実娘との時間も過ごさないとな。


 りんごたちも、つむぎは別枠らしく、快く送り出してくれた。


 つむぎが、浅草にある遊園地に行きたいというので、車で向かう。そこは、古くて規模の小さい遊園地で、妻とツムギと3人で何度か遊びにいったことがある場所だった。


 って、ただの偶然だよな……?


 そんな俺の様子に気づいたのか、ツムギが口を開いた。


 「パパさま。浮かぬ顔じゃな。せっかくの最愛の娘とのデートじゃぞ? もっとシャキっとせぬか」


 「わるい。おれ、上の空だったか?」


 「うむ。母様のことか?」


 え。


 みやびは、ツムギは帰国を知らないから2人きりで会いたいって言っていたのだけれど、知ってるの?


 「いや……」


 つむぎは腕を組んでため息をついた。


 「2人して嘘が下手じゃの。ほれ、自らの指をみてみよ」


 自分の手を見ると、ツムギからもらったスマートリングが光っている。


 ……まさか。

 みやびにもこれを渡しているのか?


 コイツならやりかねん。

 ツムギは得意気に続けた。


 「パパ様からのプレゼントといって渡したのだがな。母様はつけてくれておるようじゃの」


 「そっか……」


 俺からと言ったら、すぐに捨てられそうなものだが。少し意外だった。


 ところで、おれは一つの疑問がわいた。

 このスマートリングとやら。一度も充電したことがない。


 なぜ電池がなくならぬ。


 「つむぎ。このリング、充電したことないんだけど」


 「ふふっ。ようやく気づいたか。この指輪は、世界最小の原子力電池ともいえるものでの……。詳細は省くが200年は稼働する代物じゃ」


 「原子力って、放射能とかでるやつだろ? え。プルトニウムとかどしたの。それに、おれ、そんなに生きられないんですけれど? そんなに動かなくて良いから安全なヤツでお願いしたいです」


 「安全性なら問題ない。うちのクマオ君で実験済みじゃ」


 「クマオ君って、ぬいぐるみだよね? そもそも生きてないんですが……」


 「心配はご無用じゃ。プラトニなんたらなんて物騒なものは使ってないしの」



 ……。

 まぁ、いいや。


 考えすぎると吐き気がして毛が抜けてしまいそうだし。

 

 今日は、ツムギとのデートだ。

 切り替えよう。


 俺が自らの頬をパンと叩くと、つむぎはため息をついた。


 「……難儀なものじゃのう」



 目的地についた。

 つむぎはさっきまでの事など無かったかのように大はしゃぎしている。


 だが、ツムギが乗りたいという、家がグルングルンとするアトラクションにのると、俺は乗り物酔いになってしまった。


 つむぎが飲み物を買ってきてくれた。


 戻ってくる時に、ツムギは、小さな女の子を連れた夫婦とすれ違った。つむぎは視線でそれを追うと、足を止め、少し寂しそうな顔になった。


 「だらしないのぅ。まだ来たばかりじゃぞ。ほれ。これでも飲むのじゃ」


 「わるい。それとなんかごめんな」


 「……あの子を見て、羨ましいと思う気持ちが全くないと言ったら嘘になるがの。我はパパ様も大好きだし、親子になれて良かったと思っておる」


 この子は、つむぎは。

 どこまで事情を知ってるのだろうか。


 まぁ、聡い子だ。

 きっと、大体のことは知っているのだろう。


 つむぎは続ける。


 「だから。だから、もし。リンゴ姫と再婚しても、我のパパ様でいてくれるのかな……?」


 なんでリンゴのご指名なのか分からんが、つむぎの不安そうな顔を見ていたら、自然に口から言葉がでていた。


 「あぁ。もちろんだ。ずっと。死ぬまで親子だ」


 すると、ツムギはニカッと笑った。


 「死んでもの間違いじゃろ? まぁ、生物学的にはイケるし、我が成人できたら、ねんごろな感じになってもよいがの?」


 まぁ。たしかに。

 つむぎもかなりの美女になりそうだ。


 ……これは光源氏的ロマンなのか?

 って、ありえない。


 「んなわけ、ないだろ!!」


 俺はツムギのコメカミにグリグリをした。

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