第81話 カレンをまもれ。
とある駅の改札前にカレンと立っている。
神木さんに相談したところ、待ち合わせは、周りに人が多いところがいいと言われたのだ。
5分ほどすると、カレンの旦那がきた。
マンションの前で見かけて以来だが、やはり人相が悪い。いかにもイケイケで、俺と真逆のタイプなのだが。
カレンの好みは、どういうことになっているのだろうか。
旦那が視界に入ると、カレンは目に見えて表情を曇らせた。俯いてしまい、手も微かに震えているように見えた。
痛々しくて見ていられない。
手を握りたいが、ここは我慢だ。
旦那は、威圧するようにカレンの前に立つと、カレンの手を握った。そして、あたかも当たり前のように言った。
「んじゃあ、帰ろうか?」
は?
何を言ってるんだ。こいつは。
神木さんから調停についての連絡がいってるハズだが。自分の状況を理解しているのか?
きっと、あれだ。
バカなんだな。
まぁ、おれは見た瞬間に分かったが。
カレンの旦那だし、人を外見で判断するのは良くないとは思う。だが、今回に限っては、そのまんまだ。自信がある。
「ちょっと。やめてよ」
カレンは、手を振り払った。
そして、バツが悪そうに俺のことを見た。
すると、旦那は振り払われた手を摩りながら、眉間に皺を寄せた。露骨に不機嫌な顔になった。
「あ? 歌恋、お前、何やってくれてんの?」
神木さんが言ってた通りだ。
コイツは、カレンにハラスメントをしている加害者という自覚がないらしい。
さっさと用事を済ませて帰りたい。
だが、こんなにカレンを放っておけなかった。
俺はカレンと旦那の間に割って入る。
「あんた、彼女が嫌がってるだろ」
すると、旦那は、野生動物のように俺を睨みつけた。
「おい、かれん。このオッサン、誰だよ」
俺は、「オッサン」という言葉に、自分でもビックリするくらい苛ついた。
旦那は、30代くらいだと思う。
2人でいれば夫婦に見られるだろうし、カレンと釣り合っている。
だけれど、おれは……。
下手をしたら、カレンと親子に見られてしまうかもしれない。そんな自分が恥ずかしくて、悔しかった。
旦那は、さっきから執拗に俺を威嚇してくる。だが、俺には、このツーブロック半グレ野郎に殴りかかるような度胸もない。
カレンは、俺に近づいてくる旦那を遮った。
「この人は……、わたしの恩人。今日、お願いしてついてきてもらったの」
「俺ら、夫婦だろ? なんで会うのに、こんなキモいオッサン必要なんだよ」
そういいながら、こんどはカレンの手首を掴もうとする。
カレンは、大丈夫か?
萎縮して、そのまま連れ去られてしまうのでは。
しかし、カレンの反応は俺の予想とは違った。
顔を真っ赤にして、旦那に食いかかったのだ。
「取り消して! この人はダサくもないし、優しいし、ワタシを殴るアンタよりよっぽどカッコいい。わたしの尊敬する人を馬鹿にしないで!」
ちょっと、それは。
気持ちは嬉しいが、離婚にマイナスになるんじゃ。
案の定、旦那は激昂した。
「てめぇ。かれん。なめたこといってんと、殺すぞ!!」
旦那はカレンにビンタをした。
カレンが地面に倒れ込む。
周囲の人が足をとめて、一斉に注目する。
だが、旦那は、そんなことはお構いなしだ。
旦那は、倒れ込んだカレンにトドメをさすように足を上げた。安全靴か? あんなゴツいブーツで蹴られたら、本気で殺されかねない。
そう思ったら、身体が自然に動いていた。
直後、額のあたりに、鈍い音が響き、熱を感じた。
その後の記憶はない。




