第78話 結婚って何なの。
琴音さんのレッスンは、コトハの抜群の記憶力を前提にしているものが多かった。きっと、琴音さんが業界で生き残るために、自ら編み出したものなのだろう。
たしかに彼女は、コトハにとって最適な講師なのかも知れない。
神木さんには感謝しかない。
琴音さんの演技指導は独特で、声の出し方や身振り手振りよりも、登場人物の人生観やスキルを模倣するというものだった。そのため、他の役者は苦手とするような、高度な専門知識が有利になる役を得意とする。
琴音さんが帰国するタイミングでレッスンをしてもらう。今日も、コトハをスタジオまで送り、俺はその帰り道だった。
信号待ちをしていると、スマホが光った。
カレンからだ。
「旦那から何度も会いたいってきてて。受け渡しが必要になってしまいました。郁人くん、明日なんだけど、一緒にきてくれない?」
おれは、話を聞こうと思い、サクラの家に寄っていくことにした。玄関前に立つと、家の中から、2人の笑い声が聞こえてくる。
なんだかんだいって、仲良くなってくれたらしい。……よかった。
ドアが開くと、サクラがいた。
「あ、郁人。ちょうどよかった。こっちきて」
俺は訳もわからず、ソファーに座らされる。すると、サクラが真剣な眼差しで俺を見つめてきた。
「正直に言って。口でするの、カレンとワタシ、どっちが上手?」
2人で、そんな話をしてたのか。
めっちゃ答えにくい質問だな。
「どっちも気持ちいいけど、テク的にはカレンかな」
すると、サクラが言った。
「ほら、やっぱり。カレン、お願いします」
歌恋は、少しだけ口を尖らせると、耳に掛けるように髪をかき上げた。
「ふぅーん。じゃあ、やってみるね」
カレンは、俺のベルトを外すと、俺の意思など意に介することなく、ズボンを脱がせた。
「ちょっと……」
カレンは、再び、髪の毛を右耳に挟むように掻き上げると、俺のモノをペロペロと舐めた。そのまま右手を添えると、舌をベーっと出すようにして、全体半分程を口に収めた。
サクラは、メガネを掛けて、その様子を凝視している。
カレンは動きをとめて、飴玉を舐めるようにペロンとした。そして、見えやすように口を離すと、サクラに話しかける。
「郁人、こうするの好きだよ。袋のところがキュッとなるのは、よろこんでる証……」
おれは実験動物になったような気持ちになった。でも、悲しいことに、下半身は絶好調だった。
正直すぎる自分が、嫌になる。
ちょっと変態的な状況かとは思ったが、ある事に気づいた。俺は歌恋に対しては、裸を見られても羞恥心はない。それは、サクラに対しても同様だ。
つまり、ゼロが2つになっても、ゼロな訳で。恥ずかしくない相手が2人になったところで、いきなり恥ずかしくなるのは、変な話なのだ。
『これは、小さな革命かも知れない』
俺はそんなことを思いながら、実験台にされ続けた。
「サクラ、続きをしてあげて」
すると、カレンは立ち上がって、かわりにサクラが俺の前に座った。そして、カレンが実演したのと同じようにしてみせる。
「カレン、……こうかな?」
サクラの口の中は、カレンよりも少しだけ冷たい。熱湯からぬる湯に入るような温度差は、俺にとって刺激的だった。
2人とも、名前が呼び捨てになってる。
仲良くなってくれたようで良かった。
そして、意外に真面目にレクチャーしていることが、滑稽に感じた。
カレンは俺にキスをすると言った。
「郁人気持ちいい? 今日のサクラはどう?」
「いつもと少し違って、すごく良い……」
すると、カレンはニヤッとした。
「サクラ、そのまま最後までしてあげて」
すると、サクラは頷き、動きを速めた。
カレンは、おれの乳首のあたりにキスをした。
2つの口と4本の手で責められる快感は凄まじく、変態的な興奮も相まって、俺はアッという間に果ててしまった。
サクラは、最後の一滴までチューチューと吸うと、潤んだ目で俺を見上げる。
「郁人、はやい……。よろこんでくれて嬉しい……!!」
いや、それはそうなんだけど。
カレンが、タイトスカートを捲り、パンツを脱ごうとする。
「2回目のレクチャーはこっちで……、サクラ、腰の使い方も見たいでしょ?」
「いや、だから! なんか話とかあったんじゃないの!?」
すると、カレンは人差し指を顎にあて、顔を傾けた。
「あっ、そうだった。旦那が会いたいってしつこくてさ。なんでも、カギが必要とかで、明日、どうしても会わないといけなくなっちゃったの」
「郵送とかじゃダメなの?」
「明日の朝までだから、それでは間に合わないみたい」
「そうか。じゃあ、俺も予定を合わせるよ」
「ごめんね。ありがとう。優しいね。って、郁人。下半身丸出しで紳士になっても、滑稽なだけだよ?」
「……脱がせたのアナタでしょ!!」
カレンはウフフと笑いながら、跨ってきた。
「んじゃあ、こっちの聞かん坊は、わたしが責任とらないとね……」
それからは、カレンの腰使いを堪能したのだった。結局、2人を相手することになって、狭いシングルベッドに3人で添い寝する。
カレンもサクラも、俺に抱きついてくる。
カレンが呟くように言った。
「でもね、ちょっと怖いのは本当なの。旦那も怖いし。なんか生活のこととか先のこととか考えるの怖い」
おれは両腕の2人を抱き寄せた。
「じゃあ、今夜はウチに遊びに来るか?」
「いいの?」
「あぁ。さくらもおいで。外泊はできないから、ウチになっちゃうけどな」
さくらは目尻を下げて笑った。
「うん。ありがとう。ちょっと学校に寄らないといけないから、わたしは後から行くね」
カレンと車に乗り込む。
ふと、カレンの方をみると、膝の上で両手を揉み合わせていた。少し俯き加減で、元気がない。
やはり、旦那に会うからかな。
カレンを見ていたら、少し気分転換して欲しいと思った。
「ちょっと寄り道していかないか?」
そう声をかけると、カレンは黙って頷いた。
湘南の海岸沿いで、車を止める。
この辺は久しぶりだな。瑠衣と来て以来か。
車の外にでると、少しだけ磯くさい海の匂いがした。
目の前には、白波に浮かぶように富士が見えている。すっかり雪を被っていて、オレンジ色に輝いている。
海風でなびく髪をおさえて歌恋が言った。
「なんかね。結婚が終わると思ったら、わたしの数年間って、何だったのかなって。ねぇ。郁人。結婚って何なの?」
歌恋は海を見つめる。その様子をみた俺は、不謹慎にも美しいと思った。
かれんのイラスト追加しました。2025/03