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第77話 KOTONE

 

 講師さんが自己紹介してくれた。


 「あ、わたし、神木 琴音、よろしくね」


 琴音……。

 えっ。アメリカに行って成功したって話題の女優さんだ。第一線のアクターだよ。


 そんな人が、なんで素人の先生なんて。


 神木さんの奥さんが割って入った。


 「あんた、その芸名どうにかならないの? 神木とか、ほんと紛らわしいんだけど(笑)。あ、山﨑さん。この人、春川 琴音さんです」


 「どんな芸名つけようがウチの勝手ですー。凛が離婚して、ウチが再婚しても名前かわって関係各所に迷惑がかからないように先回りしてるの」


 あ、そういうことか。

 それで、神木さんは、奥さんに女ったらしって言われてたのね。


 ……って、俺にあたりが厳しいのは、同族嫌悪ってことじゃん。


 琴音さんはコトハの様子をみている。


 「あなた、この山﨑さんのこと好きなの?」


 「はい。でも、りんごちゃんって本命がいて、セカンド扱いっす」


 「あなた。どうも他人とは思えないわ。本命になれるように、ワタシが鍛えてあげる」


 「いや、アタシ、2番手の方が好きっす。なんなら最下位でもいいっす」


 琴音さんは、優しくコトハの手を握った。


 「本心を言えないくらいプレッシャーを感じているのね。わたしに任せて」


 なんか勘違いされているようだが、コトハを気に入ってはくれているようなので良かった。


 それから、簡単なテストを行うというので、凛さんと俺は別室で待つことになった。


 沈黙の中、時計の針の音だけが進んでいく。

 無言は気まずすぎる。だが、共通の話題もない。


 すると、凛さんから話しかけてくれた。


 「さっきは、お見苦しくてすみませんでした。彼女は、高校からの親友なんです」


 「そうなんですね。あんな有名人のお知り合いなんてすごい」


 「当時は、彼女もただの高校生だったんですよ。それも、かなり複雑な家庭環境も抱えていて。主人を取り合った仲なんです」


 「それでも、いまは仲良しってすごいですね」


 「主人…、蓮がフラフラしてるので、別れかけましたけどね。琴音は、恩人なんです。人間的にも気取ってなくて素敵な人。なので、コトハさんのこと、安心してください」

 

 1人の男性をとりあって、今、親友で居られるなんて、すごいことだと思う。りんごやコトハも、そうなってくれるといいのだけれど。


 少しすると、琴音さんに呼ばれた。


 「結論からいうと、わたしが面倒を見ます。帰国するタイミングになるので、月に1〜2度のペースになっちゃうと思うけれど」


 コトハはピースサインをしていた。


 「よかったな。コトハ」


 「うん。琴音さん話しやすいし、楽しみっす」


 琴音さんは俺に話しかけてきた。


 「コトハさんのこと、記憶力がいいと思ったことありませんか?」


 まぁ、たしかに。

 コトハは物覚えがいい。


 そういえば、つむぎが前に「コトハ姫は、我に近い能力を秘めておる」とか言ってたな。ただの厨二病的フレーバーテキストかと思ってたけれど、本当にIQが高いって意味だったのかもしれない。


 琴音さんが、ドンっとテーブルの上に本を置いた。500ページはありそうな分厚い本だ。


 「コトハさん、これを10分ほどで暗記しました」


 え。

 まじか。


 おじさん、10分じゃ3行も暗記できなそうだけれど。


 記憶力だけなら、つむぎよりも上かもしれない。


 そういえば前に、小さい時のことなのに、ご両親のことをよく覚えているので聞いたことがあったんだ。


 そしたら、コトハは「一回、見聞きしたものは忘れないっす」と言っていたっけ。でも、それって、辛いことも忘れられないってことだろ?


 それなのに、神様は、なんでコトハに辛い経験ばかりさせるんだ。ひどいよ。なんか、気の毒になってしまって、コトハをみた。すると、目が合った。


 コトハはニッコリした。


 「いっきゅんが、何考えてるかわかるっす。でも、アタシ、いっきゅんに会ってから楽しいことばっかりで、幸せっす。ほんとだよ?」


 その様子をみていた琴音さんが割って入った。


 「コトハさんが、良い人に出会えているなら安心したわ。辛って字に横棒を乗せると幸せって字になるでしょ? わたし、この横棒は蓋なんじゃないかと思ってる。……辛いことには幸せで蓋をするのが一番なの。実はね、わたしも記憶が得意なの。あなたと同じくらいにね」


 えっ。

 こんなギフテッドみたいな能力って、ゴロゴロあるものなの?


 横をみると、凛さんが頷いている。

 どうやら、本当のことらしい。


 琴音さんは続ける。


 「だから、わたしにしか教えられないことがある。わたしは、貴女の導き手として最高だと思うよ。これからよろしくね」


 それにしても、第一線の女優さんが、何故そこまでしてくれるのだろう。すると、俺の考えなんてお見通しだと言わんばかりに、琴音さんは話を続けた。


 「蓮に会う良い口実ってのもあるし。コトハさんのことは、なんか他人とは思えないし。あと、サクラさんの話を聞いたの。ウチもサクラさんの恩師と友達でね。借りがあるんよ。だから、せめてね。こういう形でも、何かしたいなって。どれも自己満足やね」







別著「俺の義姉は性格が悪い」 特別回③とストーリーを合流させました。よければ、そちらも宜しくお願いします。

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