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第62話 いくときゅん。


 正直、胸が痛む。

 かわいい愛娘が、カレーを作って待っててくれるのだ。それを考えると、なんともいえない気分になる。


 モテ期無双で後ろは振り向かないと決めている。でも、料理を作ってくれる女子を待たすのは、普通にダメだろう。


 なので、ことはに聞いてみることにした。


 「ことは。俺のこと好きなの?」


 ことはは、露骨に視線を泳がす。


 「んー、嫌いではないっす。どちらかといえば、物理的にいえば、好きの方に若干寄ってるような?」


 はい。意味はわからんが、帰宅決定。

 いくとおじさんは、今は愛には飢えてはいないのだ。


 とはいえ、この子を放置もできない。

 とりあえず、悪い子ではなさそうだし、……今日のところは、うちに遊びに来させるか。


 ことはがシャワーを浴びたいと言うので、テーブルの前に座って待つ。ことはの部屋はワンルームなので、服を脱いでいる音や、身体を洗う音がダイレクトに耳に入ってくる。


 中の様子を見なくても、今、どのへんを洗っているのかが手に取るようにわかってしまうのだ。


 今は下半身のあたりかな。

 やけに念入りに洗っているようだ。


 やはり、期待しているのだろうか。


 りんごに、ことはを連れて帰る旨を連絡した。

 色々と詮索されそうだが、仕方ない。


 部屋の中を見渡す。

 一人暮らしをはじめたばかりなのだろうか。


 まだ家具も揃っていない。


 それにしても、すれ違い様に声をかけられたって言ってたな。男なら女性に褒められたら、とりあえず嬉しい気もするが。女性はそうではないらしい。

 

 つまり、現代では、褒め言葉でも不用意に口にしてはいけない。つくづく、おじさんには、生きづらい世の中になったなぁ、と思う。

 

 昔は、とりあえず褒めまくって、女の子がまんざらでもなくなったら一気に行く感じだった。当時は、一度は断られることなんて、とりあえずのお約束だったし。


 だけれど、いま、それをしたら、きっと逮捕される。


 おじさんは時代の変化に対応しなければならない。きっと、会社で女子社員のお尻を褒めてセクハラ委員会いきになるおじさんも、大半は悪気はないのだ。


 だが、ストーカーとなると話は別だ。

 好きなら堂々と告白したら良い。


 まぁ、ストーカーするようなヤツには無理だろうが。


 ことはは大丈夫だろうか。

 今日だけじゃなく、しばらく、ウチにおいておいた方がいいのだろうか。


 1人きりの時に、この部屋に押し入られて乱暴されてしまったら、なんて思うと胸が苦しくなる。そんなことになったら、きっと、この子は生きるのが嫌になってしまう。


 ことはは、両親がいないって言っていた。どんな人生を送ってきたのだろう。


 若い子には希望を持っていて欲しい。

 そんなことを考えていると、ことはが出てきた。


 おいおい、服をきていないぞ。

 バスタオルを巻いている。


 ツインテールを解いていると没個性だ。

 だけれど、髪を下ろしているのも似合っている。思ったより艶々の髪の毛だし。


 ことはは、俺の横にちょこんと座った。


 「いくときゅん。やっぱり、アタシ、好きかも。いくときゅんのこと考えると、切なくなる」

 

 ……。


 それ愛情じゃなくって、単なる発情だと思う。


 りんごに連絡しちゃったから、もう、遅くなったり帰らないという選択肢は不可なんですが?


 「俺は後ろ向いてるから、早く着替えなさい」


 「……はい」


 こころなしか、ことはの声は嬉しそうだった。

 服をきた彼女と部屋を出る。


 玄関ドアをあけると、誰かがドアの前にいた。

 黒いパーカーの帽子を深々と被った背の高い男だった。


 男は顔面蒼白で、やたらギラギラした目で俺を睨みつけた。


 「おい、お前!」


 俺は男に誰何すいかした。すると、男は身を翻して逃げた。俺は外階段の手摺に右手をかけ、勢いよく駆け下りる。


 男は階段下でバランスを崩しながらも、逃げる。俺は走っておいかける。


 くそ、息が上がる。

 こんなことなら、普段からもっと運動しとけばよかった。


 5分ほどすると、俺は道路に転がっていた。


 逃げられてしまった。

 顔はちらっと見ただけだが、若い男のようだった。


 「はあはあ。いくときゅん、大丈夫っすか?」


 ことはが追いついてきた。


 「あの男に見覚えはあるか?」


 ことはは深く頷いた。


 「さっき話した、声をかけてきた男っす」


 事態は思ったより緊迫しているらしい。

 今日、俺が来ていなかったら、どんなことになっていたことか。しかも、あの眼光。


 俺のせいで敵意を持たれたのかもしれない。


 ひとりにしたら、ことはが乱暴されたり、殺されるかも。


 最悪のケースを考えると、恐怖で吐き気がした。ことはを守るのは、俺しかいない。


 俺が髪を撫でると、ことはは不安そうな顔で俺の方を見た。俺は、できるだけ、落ち着いた声を出した。


 「……今日からしばらく、ウチに来なさい」


 「でも、いきなり迷惑じゃ。りんごちゃんもきっと迷惑」


 「りんごは大丈夫。俺の言う通りにしなさい」


 「……はい。心配してくれて有難う」


 部屋に戻って、最低限の荷物を纏めさせる。

 さて、りんごに何て説明しよう。


 車に乗り、自宅に向かう。


 すると、ことはが手を握ってきた。


 「あの。アタシ、いくときゅんに命令されると嬉しいみたい。なんか自分がゾクゾクして、どんな命令も聞いちゃうかも」


 これって。命令されたいってことだよね?

 この子、ドMなのか?


 試しに、無理なお願いをしてみるか。


 「スカートをたくし上げなさい」

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