第61話 ことはの部屋で。
車をとめて、一緒に外階段を上がる。
すると、ドアは開いていた。
中に入って見渡すが、特に変わったところはない。誰かを入れるつもりなんてなかったのだろう。ほどほどに散らかっている。
「どした? 特に変わった様子はないけれど」
俺が聞くと、ことはは白い封筒を渡してきた。
封筒には宛先や差出人は書いていない。
ことはに促され、中の手紙を読む。
すると、汚い字でただ「すきスキ好き。なんでわかってくれない?」と書いてあった。
読んでいて背筋が凍りつくような感覚をおぼえた。
ことはは、俺に手紙を渡すと、膝から崩れるように座り込んでしまった。よっぽど怖かったのだろう。
「ポストに入ってた。宛先ないし、自分で投函したんだよ。こわい。アタシころれるかも。たぶん。あの人だと思う」
あの人って?
ことはが言うには、少し前にバイト先にきたお客さんらしい。妙に気に入られて、つけまわされているとのことだ。
ストーカーか。
家まで特定して、自分できて手紙を投函したのだろう。
ことはの両手を、包むように握った。
しばらくすると、ことはは落ち着いたらしく立ち上がった。
「散らかっててゴメン。お茶を出すね」
俺は小さなテーブルの前に座って、ことはの部屋を見回す。とりあえず、少し甘いような良い匂いがした。
これが、突撃訪問の女子の部屋の匂いか。
感慨深い。おじさんには、これだけでご褒美だ。
そして、さくらの部屋の訪問の経験から、俺は次にチェックすべき場所を知っている。
ベッドだ。
毛布をチラッとめくってみる。
ビンゴだった。
丸まった下着が押し込んであった。
黒い下着。
少し汚れが見える。使用済みっぽい。
広げたりのコンディションチェックをしたいところだが、狭い部屋だし、さすがに気づかれるか。俺は、音を立てないように、もう少しだけ、毛布をめくってみることにした。
すると、案の定、あった。
大人のおもちゃだ。しかも、さくらのバイブより長くて太い。
そのバイブ殿の威風堂々とした佇まいに、わが愚息が自信を失って萎縮していくのがわかった。
『……諦めろ。お前じゃ太刀打ちできんぞ。恥をかくだけだ』
俺は必死に愚息を諭した。
すると、ことはが戻ってきた。
「なにバタバタしてるっすか? まさか……、布団の中で見てないっすよね」
おれは必死に首を左右に振った。
「ふーん。まぁ、いいっすけど。それでね。その人、バイト先に来て、遠くの席でアタシのことニヤニヤして見てて。一度、家の近くですれ違ったことあって。そしたら、アタシの真横で『カワイイですね』って。……怖くて」
俺はお茶を読みながら、考えていた。
偶然にしては、できすぎている。
ちょっと前に、女の子がストーカーに刺殺されたってニュースやってたっけ。
……様子をみている場合じゃないかも。
明日、警察に相談するとして。とりあえず、今夜をどうするかだ。
ことはは、心配そうに眉を下げている。お茶を飲み込むと、こちらを覗き込んできた。
「それで、できたら。今夜、泊まっていってくれないっすか? その。シングルベッドは狭いし。その。もし、そう言う気分になっちゃったら、お礼に、しても…いいよ」
「してもって?」
「わかってて聞いてるの? そういうの、いじわるっす。その、裸でする、気持ちいいことだよ。実は、旅館の貸切風呂の声を聞いちゃったっす」
ことはは、その場で足を組み替えるようにモジモジと動かした。
「お姉さんの気持ちよさそうな声きいてから、アタシも欲求不満というか。あのとき、りんごちゃんの声も聞こえたんだけど、親子でそういうことしてるっすか?」
「いや、りんごは親友の娘で。血は繋がってないんだ」
「そうっすか。なら、ますます羨ましいっす。アタシも、いくときゅんみたいな人に守って欲しいっす」
いくときゅんって……(笑)
へんなニックネームをつけられたらしい。
それにしても。
ほんとにベッドインのチャンスがくるとは。
さくらと散々やった後だが。
ことは可愛いし。この子が相手なら、初回ボーナスであと一回くらいはできそうな気がする。
ふふ。
さすが、おじさんのモテ期無双。
世の中、どういう展開になるか分からないものだ。
……でも。
りんごのことが気になってしまう。




