第52話 おじさんの夜更かし。
食事も終盤になり、皆で写真を撮った。
4人と俺。
みんなニコニコしている。
この写真は、一生の宝物にしようと思う。
きっと、俺はこの中では一番最初に死んじゃうのだろう。でも、皆、その後も仲良くしてくれるといいなぁ。そんなことを考えていたら、泣けてきた。
食事が終わり、売店でお酒を買って部屋に戻る。さくらは、まだまだ飲み足りないらしく、ワインやら缶チューハイやらを大量に買い込んでいた。
おじさん、これ以上飲んだら精力ゼロになりそうなんですが。いいのかしら。
既に弾丸は1発だけだと思う。この1発を、誰にどう有効に使うべきか。悩ましい。
部屋に戻り、囲炉裏をかこんで皆で座る。
すると、さくらがりんごに絡み出した。
りんごの高校生活について、あれこれ聞いている。何故か俺も横に座らされた。
なんだか、三者面談みたいだ。
すると、場の雰囲気もあるのだろうが、りんごが珍しく自分のことを話だした。
「……実は、あまりクラスでうまくいってなくて」
え。そうなの?
おじさん、全然知らなかったヨ。
コミニュケーションは、よく取れていると思っていたのだけれどなぁ。イチャついてる割には、肝心なことは聞いてなかったみたい。
どうやら、りんごのクラスには、すごく勉強ができるリーダー的な子がいるらしい。りんごは勉強では、中の上くらいだったのだが、前回の定期試験で、突然、その子を抜いてしまい、それから、カンニングだと陰口を言われたり、無視されるようになってしまったということだった。
ってか、りんご、そんなに勉強できたのか。
知らなかった。
よく、つむぎと一緒に勉強していて、熱心だなぁとは思っていたけれど。
すると、つむぎが割って入った。
「りんご姫には、我がスーパー記憶術を授けたからのぅ」
なんじゃそりゃ。
よく雑誌の巻末についてる胡散臭い広告みたいだな。
だけれど、りんごにはそれが合っていたらしく、暗記が得意になり、成績が急にのびたらしい。
俺も物忘れがひどいからなぁ。
今度、教えてもらおう。
りんごの話がひと段落すると、さくらがりんごを抱きしめた。
「担任は? 担任は何してるの?」
りんごは、おしくらまんじゅうのようになってしまい、ちょっとだけ迷惑そうな顔をして答えた。
「それが、その子のお母さんが、PTAの会長で口うるさい人らしくて……」
担任は、その子の保護者に忖度して、あまり干渉してこないらしい。
さくらは、眉を吊り上げた。
「ねっ。りんごちゃん。うちに転校しておいでよ。うち、私立だから、それなりに教員多いし。わたしも助けてあげられるから」
たしかに、りんごの学校はウチから遠いし、馴染めていないなら、無理して通い続ける必要はないように思えた。
りんごは首を横に振る。
「でも、郁人さんにも迷惑かかっちゃうし……」
あっ、もしかして。
学費のことを気にしているのか?
たしかに、2人とも私立に通わせるのはキツイが、それくらいならなんとかするよ。
子供は遠慮せずに甘える。
大人はそれを受け止めるべく頑張る。
子供は、与えられた頑張りに応える。
そういうものだと思う。
だから、俺はこう答えるべきだろう。
「俺に気を使う必要はないよ。転校するか?」
少し遅れて、りんごは頷いた。
「……ちょっと、考えてみます」
毎日一緒にいるのに。
気づいてやれなくてごめんな。
それにしても。
「さくら、お前、いい先生なんだな。どうして教師になろうと思ったんだ?」
すると、さくらは、急に泣き出してしまった。
何かまずいこと言っちゃったかな。
ちょっと飲ませ過ぎてしまったかも。
それに、言いたくないこともあるだろう。
それ以上は聞かずに、お開きにした。
俺が洗面所にいると、さくらが入ってきた。
もう泣き止んでいて、元気に戻ったようだ。
そして、定型文のように誘ってくる。
「今日、一緒に寝る?」
「いや、りんごも綾乃もいるし」
すると、さくらは舌をペロッと出して、意地悪そうな顔をした。
「あっ、妬かれちゃうって? それなら、今夜は、4人でしちゃう?」
4人。
美女と美少女を侍らせて……。
ちょっと、興味はあるけれど。
おじさん、性的欲求のわりに精力あまりないから。
フィジカル的に無理な気がする。
「いや、おじさん1回が限界。3人の相手は無理無理」
すると、さくらは俺の耳を甘噛みした。
「最後はわたしの中でしょ? だから、一回できれば大丈夫だよ。色んな女の子と代わる代わるしてみたくないの? ……今日なら、郁人が望めば、たぶんできるよ?」
うぅ。
正直、かなりしてみたいです。
たいへん魅力的なご提案なんですけどね。
処女に4Pとか。ハードすぎるし、最初くらい、少しは良い思い出にしてあげたい。
それに、俺は今日はゆっくり寝たいのだ。
明日に備えて体力を温存しないと。
「今日は寝たいから、やめとこかな。つか、さくらって、複数でした経験あるの?」
「……ないけど?」
さくらはウィンクすると、クスッとして脱衣所を出て行った。どうやら、からかわれただけみたいだ。
リビングに戻ると、つむぎは既に寝ていた。
綾乃とりんごもウトウトしているので、布団に入るように言った。
おれも布団に入ってゴロゴロしていると、襖がノックされた。
「さくらです。ちょっと、いいかな……?」
さっき断ったのに、改まって来たってことは。
なにか話を聞いて欲しいのかな。
部屋に入ると、さくらは俺の布団の横にちょこんと正座した。