第49話 おじさんのそれから。
その日の夜。
ドアをあけると、りんごがいた。
りんごは真っ赤な顔で俯いている。
頭には耳のカチューシャ。
お尻にはうさぎのシッポ。
これは、おじさんの大好物バニーガールだ。
「えと……、ナースじゃなかったの?」
「つむぎちゃんが。同じナースじゃ勝てないから、これで行けって」
つむぎめ。
同じ服じゃ勝てないって失礼なやっちゃな。
まぁ、でもたしかに。
さくらのあの異様な妖艶さは、ある意味ユニークスキルだもんな。
りんごなら、セーラー服かメイド服を着て欲しいんだけど、あえて言うまい。どうせ手を出さない存在なのだ。
だけれど、りんごよ。
中1のつむぎに踊らされてるが、女子高生的には、それでいいのか?
りんごは、そんなことは微塵も思っていないらしい。そのまま話し続ける。
「寂しいので、一緒に寝て欲しいです」
ほらきた。
これね。ほぼ罰ゲームなのよ。
なまじっか可愛いくて発育が良いだけにタチが悪い。1日おきくらいに、訪ねてくるし。
俺は、既に断ることは諦めている。
さぁ、不眠•欲求不満の添い寝のお時間だ。
明日から旅行だし、できたらゆっくり寝たいんですけれど。
「明日から、旅行だし。別々に寝ない?」
りんごは首を横に振る。
「いやです。明日から一緒に寝れない分もチャージさせてください」
少し世間話をして、俺は背を向けて寝たふりをした。10分程すると、りんごはゴソゴソと服を脱ぎ出した。きっと、バニーガールでは、寝づらいのだろう。
俺の頬にりんごの髪の毛が触れた。どうやら、りんごは、俺の顔を覗き込んでいるようだ。顔をひっこめると、りんごの1人遊びがはじまった。
「んっ、んっ……あんっ」
ふと、疑問に思った。
りんごは、どれくらいの頻度で1人でしてるのだろう。
おじさんの崇高な真理の探究。
こんど、他の3人にも聞いてみよう。
俺は寝返りをうって目を開けてみる。
すると、りんごと目が合った。
りんごは、目をとろんとさせ、口を僅かに開いて舌を少しだけ出していた。
りんごは俺に気づくと、目をまん丸にして口を閉じた。
「痛っ」
どうやら、急に口を閉じたら舌を噛んだらしい。
昔、飼っていたチワワが、いつも舌を出していたことを思い出した。舌をさわると、スッと引っ込めのだ。その様子が楽しくて、子供の頃によくやっていたっけ。
こんど、りんごにも試してみよう。
りんごは取り乱している。
「わぁぁぁ。もしかして、聞いてました? へんたいっ!」
いやぁ、強引に布団に入ってきて、勝手におっ始めたのはアナタでしょ……。
「まぁね。ところでさ、りんごって毎日してるの?」
「も、もしかして。毎回、盗み聞きしていたんですか? プライバシーの侵害ですっ!!」
うーん。なかなか意味不明な問答だ。
どちらかというと、おれは、平穏な眠りが妨げられている被害者なんだが。
「……だいたい、週に5回くらい……」
まじめなりんごらしく、きっちり平日は毎日こなしているらしい。正直に答えるあたりは、らしくて可愛い。
「ところでさ。終わった後はパンツは履いた方がいいよ? 地震とかきたらこまるし。おとなからのアドバイス」
りんごは、朝にパンツを履いていないことがあり、起こす時、目のやり場に困るのだ。
アドバイスしてる風で、さりげなくセクハラ。
おじさんの高等テクだ。
だが、今日の俺は、こんなことでは欲情しない。なにせ、頻繁に淫魔に搾り取られているからな。酷使されて寿命が縮まってる気はするが、その代償として、俺は大人の余裕を手に入れた。
りんごは、頬を膨らませた。
「だって。そのまま眠くなっちゃうし……、はやく18歳になりたいです。ねぇ。ちゅうして……」
そういうと、またトロンとした目になった。途中て邪魔しちゃったから、欲求不満なのか?
ちゅっ。
俺が答えずにいたら、りんごから唇をくっつけてきた。
そして、りんごは俺に背を向けると、「おやすみなさい」と言った。背を向けながらも、身体をくっつけてくる。
りんごは、仕草も可愛い。
そんなりんごを見ていたら、少し意地悪をしたくなった。
「手を繋ぎたい」
俺はそう言った。
りんごは左腕を下にして寝ている。
つまり、俺と繋げる手は、さっきまで絶賛使用中だった右手しかない。
りんごは手を繋ぐのが好きだ。
だから、断るとは思えない。
りんごは足の間に挟み込んでいた右手を抜くと、掛け布団で拭こうとした。
ってか、ここおれのベッドなんだけど……。
俺は、それを邪魔するように、りんごの右手を甲の側から握った。すると、俺の右手中指にヌルッとした感触があった。
りんごの耳元で囁く。
「りんご、右手の手汗がすごいけど、大丈夫?」
りんごは、毛布を頭まで被った。
「……しりません」
でも、手は離そうとしない。
りんごの誕生日は5月かぁ。
もう少しだ。
ふと、俺は思った。
りんごが18歳になったとしても、結局は、ロリコンと言われるんじゃないか?
おじさん。ロリコンって言われるのは、少しだけイヤかも。
じゃあ、綾乃は?
たぶん、相手が20歳なら、どんなに歳の差があったとしても、ただの『若い子好き』なオジサンなのだろう。
ロリコンの謗りについては、「いや、違うんだ。たまたま好きになった子が18だったんだ」とか言っても無理だろうな。男女が逆なら通りそうな気もするが、おじさんって、純愛からもっとも遠い存在だし。
…………。
チチチチ……。
アラームを消す。
やばい。
今日から旅行なのに、めっちゃ眠い……。
最悪、途中から、さくらに運転してもらおうか。
りんごは早起きして、テキパキと準備をしてくれている。人数分のオニギリ、唐揚げやサラダ。飲み物。
ペットボトルを買えばいいのに、わざわざ水筒に詰めてくれている。ほんと、いい奥さんになりそうだ。
それにくらべて、つむぎは……。
出発まで30分もないのに、まだ寝ているぞ。
大丈夫なのか?
(ピンポーン)
ドアを開けると、さくらと綾乃だった。
2人とも、今日も可愛い。
先日わかったのだが、さくらと綾乃は、同じ大学らしい。それで、少し仲良くなったようだ。
できれば、仲良くなっても、俺について情報交換はしないでいただきたい。
まぁ、それは贅沢な悩みなのだろう。
薄氷を踏む状況になっても、おじさんらしく、太々しくしていようと思う。
俺は荷物をトランクに積み、車のエンジンをかけて待つ。
後ろには、りんご、綾乃、さくらの3人。
助手席には、爆睡のまま搬入されたツムギだ。
セダンだから、5人だと少し手狭だが、レンタカー借りるのも、もったいないしね。
車が走り始めると、つむぎが寝言をいった。
「むにゅむにゅ……、パパさま。今夜はどの姫にするのじゃ?」
「…………」
「…………」
「…………」
はらり。
ハンドルを握る手の上に、抜け毛がおちた。
さ、さぁ、旅行へ出発だ。