第46話 日々の綾乃。
※43話「おじさん、女教師とデートする。」
飛ばしてしまったので追加しました。すみません……。
わたしって。
おじさん好きなのかも知れない。
わたしには、好きな人がいる。
照れ屋さんでカワイイけれど、女の子のお尻ばかり見ているおじさん。
本人は気づいていないかもだけど。
かわいい子とすれ違うと、キョロキョロして振り返るのだ。
わたしも悪くないと思うんだけどなぁ。
たぶん、モテる方だし。
なんでかな。
いつの間にか気になってしまって、気づけば、いつも彼のことを考えているワタシになっていた。
はじめて会ったのは、彼の会社の近くの料理屋さんだった。親友だった瑠衣と食事をしていたら、彼が隣の席にいた。
瑠衣が気になっていた彼は、同僚の人と、他の女性と遊んだ話をしていた。それを聞いた瑠衣はショックで飛び出していってしまって、外で泣く瑠衣をわたしが慰めた。
最低の人だと思った。
でも、その後、偶然、わたしのバイトのお客さんになって再会した。
わたしが辛い時には傍にいてくれて、悲しい時には声をかけてくれる。わたしが1人で抱えきれないことは、手を差し伸べて助けてくれる。
わたしが試験に落ちちゃったとき、ずっとずっと抱きしめて支えてくれた。でも、わたしは気づいていたよ。貴方の目が潤んでいるのを。
それは、いつの間にか。
彼を嫌いじゃなくなっていて。
朝起きたら、好きになっていて。
泣き止んだ時には、愛していた。
だから、ずっと一緒にいたい。
わたしはきっと。
りんごちゃんや瑠衣のように、おろしたての新品みたいに清潔じゃないけれど、郁人さんを支えられるようになりたいと思ってる。
「あやちゃん、……彩ちゃん!!」
わたしが振り返ると、何度もわたしを指名してくれた男性がこちらを見ていた。
郁人くんより年下で、同じくらい優しそうな人。
……今日は彼女代行のバイトなのだ。
わたしは微笑む。
すると、その男性が時計を見た。
「……そろそろ、時間だね。今日は大変なお願いをしちゃってごめんね。でも、本当にありがとう。できたらこれからも……」
わたしは首を横に振った。
男性は、差し出した手をひっこめた。
わたしは、今日で、このバイトを辞める。だから、懇意にしてくれたお客さんの最後の依頼。
今までで一番嘘つきな依頼を受けることにした。病気のお母さんに、彼女として紹介される仕事。
彼は、わたしが今日で最後なこと。
他に好きな人がいることも知っている。
それでも、いいと。
わたしなんかが理想の彼女だと言ってくれた。
彼のお母さんは長くはないらしい。
そんな人を騙して、きっとわたしは地獄行きだろう。
でも、偽りの愛を届けるこの仕事の締めくくりにふさわしいと思った。
これで、彼もお母さんも、片時でも救われるなら、それでいいのだと思う。
できるだけ、できるだけ、誠意を込めてお辞儀をする。わかってる。これは、わたしの自己満足。
彼と別れて、電車に乗る。
スマホをみると、つむぎちゃんから着信があった。
掛け直してみる。
すると、つむぎちゃんは、狼狽えて泣いているようだった。
いつも飄々としている彼女らしくないと思った。つむぎちゃんは、嗚咽している。
「ひっく…、お父さん……入院しちゃった……」




