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婚約者の貴方が「結婚して下さい!」とプロポーズしているのは私の妹ですが、大丈夫ですか?  作者: 初瀬 叶


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第43話

「汗が……」


「思い切り走ったからな。君の手が汚れる」


レナード様の汗が私の指先に触れる。彼は私のその手を取ると、指先に口づけた。


「……しょっぱい」

と顔を顰めるレナード様に笑いが込み上げてきた。


「汗ですもの、当たり前ですわ。こんなに汗をかいて……そんなに焦らなくとも……」


「焦るに決まってるさ。君のあんな顔を見たら」


「あんな遠くからでしたのに、よく私の表情までご覧になれましたわね。……そんなに酷い顔をしていましたか?」


「目は良いからな。……俺は君を傷つける様な事はしない。決して」


「信じてはいるのです。……でもどうしても昔の事が思い出されて……」


「前の婚約者の事は、そんな昔の事じゃない。不可抗力とは言え、不快な思いをさせた」

レナード様はそう言って頭を下げた。


「謝らないで下さい。……私のくだらない嫉妬ですから」


「いや。それでも君が少しでも不快な気持ちになる事を考えれば軽率だった。すまない。……だが」

そう言ったレナード様は少し微笑んだかと思うと、


「嫉妬される……という経験は初めてだが、なかなか良いものだ」

と頬を染めた。


「もう!……こちらは良い気分ではありませんのに」


私が少し膨れると、レナード様はまた『悪い、悪い』と謝りながらも、緩む頬を隠すことは出来なかった。



「レナード様、ニヤついておりますよ?」


「フフ。いや……何だか嬉しくて」

とレナード様は大きな掌でニヤつく口元を隠した。


「何が嬉しいんです?」


「だって……それはエリンが俺を好きだと言う事だろう?違うか?」

口を尖らせた私の顔を覗き込む様に、レナード様は殊更体を低くした。


「……違いません。でも、言葉を口にされるのは……少し照れます」


恥ずかしくなって俯く私の顔をレナード様はそっと持ち上げると、私に優しく口づけた。



「恥ずかしがる君も、とても可愛いな」


「………。レナード様が甘すぎます」

そう言った私に、レナード様はもう一度優しく口づけた。


恥ずかしさのあまり、私は顔を見られたくなくて、レナード様の胸に飛び込む様に顔を隠した。

そんな私をレナード様は優しく抱きしめる。


「……ところで、ナタリーは屋敷へ戻りましたでしょうか?」


私はふと気になってそうレナード様に問うと、


「あ……忘れていた。あのまま放置して来てしまった」

と少し間抜けな声でレナード様は答えた。


私達はナタリーがまた脱走を図ってはいないかと、慌てて二人で先ほどの場所へと急いだが、そこには門番と押し問答をするナタリーの姿があったのだった。


 結局、王都へは私とナタリーが先に出発する事になった。


「……無念だ」


「レナード様、諦めて下さい。突然騎士団を離れる事は難しいとわかっていたではないですか。

 当初の予定通り明後日の早朝にここを出立すれば問題ありません」


「いーや、明日だ。明日には馬で王都へ向かう。ならばエリンと同日には王都へ着くはず」


「……そんな慌てなくても。それに仔馬もまだ産まれてはいないではないですか」


「……今日中には産まれるはずだ」



 凄く不機嫌なレナード様を残し、私達は王都へ向かう馬車へと乗り込んだ。


「ナタリー、お兄様には昨日のうちに早馬で連絡したから、明日には私と共に王都へ向かっている事を皆が知ることになるわ。王都に着くまで二泊するけど、たくさんの護衛が貴女を見張ってる。観念するのよ?」


 不貞腐れたようにムスッとしたままのナタリーに私は優しくそう言った。


「どうして?どうしてそんな意地悪をするのよ!」

 と吐き捨てるナタリー。『意地悪』?私がいつナタリーに意地悪をしたと言うのだろう。


「パトリック伯爵や伯爵夫人が厳しいからと言って、今更結婚を止めるなんて事は……」


「違うわ」

 ナタリーは今まで聞いたことのないようなドスの効いた声で私の言葉を最後まで聞くことなく否定した。


「違う?何が?」


 私が尋ねると


「ハロルド……浮気してるの」

 と殊更低い声でナタリーが吐き捨てた。


 その言葉に同乗していたバーバラが小さく『アッ』と声を上げた。

 私もあの時に見た光景が頭を過る。花屋の前で見たあの光景だ。


 バーバラの失態を隠すべく、私は少し大きな声で、


「浮気?!それは確かなの?」

 とナタリーに尋ねた。


 あの時に私達が見た光景を私は母にしか言わなかった。ナタリーは母に聞いたのだろうか?それとも他の誰かから?


「ある日……私がパトリック伯爵家でレッスンをしていたら、宝石商がハロルドを訪ねてきたの。てっきり私へのプレゼントだと思って楽しみにしていたのよ。

 でもいつまで経っても贈られて来やしない。それで痺れを切らして私、その宝石商を探して訊きに行ったわ。ハロルドからのプレゼントが届いていないのだけど、どういう事?って」


 ……もしハロルドがサプライズで結婚式の日にプレゼントするつもりだったのなら、ハロルドの気持ちを踏みにじる事にならない?それまで大人しく待ってられないの?

私の頭には色々な疑問が湧き上がるが、ここで口にするのは場違いだろう。


「それで?宝石商は?」


「……間違いなく届けました。……って。間違いなく「イライザ・コーエン」様に届けました。って言われたの」


イライザ・コーエン……って誰なのかしら?


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