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婚約者の貴方が「結婚して下さい!」とプロポーズしているのは私の妹ですが、大丈夫ですか?  作者: 初瀬 叶


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第39話

「なるほど……こうやって刺すと毛並みが立体的になるのですね」


私はレナード様に教わりながら、刺繍の練習に勤しむ毎日だ。レナード様の手が空いている時は乗馬にもチャレンジしているため、正直に言うとレナード様の仕事以外はほとんどの時間を二人で過ごしている。


「エリン様は本当にレナード様と仲がよろしいですね」

そう私に向かって微笑むのはミューレ様だ。


「そう……でしょうか」

ストレートにそう言われて、私は少し恥ずかしくなり、俯きながら、お茶のカップを置いた。


「ええ。ハリソン様もそう仰っていましたわ。あ~私もお二人の様にハリソン様と仲良くなりたい!」


ミューレ様は見た目の可憐さに似合わず、なかなか素直で明るい性格だった。

ミューレ様とハリソン様の婚約が整った後、ミューレ様から『折角義理の姉妹になるのですから仲良くしましょう!!』と定期的にお茶に誘われる様になった。

もっぱらミューレ様がこの辺境伯邸に来ているのは、彼女がハリソン様となるべく一緒に過ごしたいと望んだが故だ。


仲良くなるにつれ、ミューレ様は自分の気持ちを私に正直に話してくれる様になり、私としても嬉しい限りだ。

貴族というのは腹の探り合いばかりで会話をしていても疲れるものだが、ミューレ様との会話はミネルバを彷彿とさせて心地良い。


ミューレ様はハリソン様の事が大好きなのだと言う。


「ハリソン様は少しいじけ虫な所がありますけど、そこがまた、可愛らしいのです」

ミューレ様は恥ずかしげもなくそう言うと、いつもハリソン様がどれだけ自分に優しくしてくれるのか、どういう所が好きなのかを、熱く語ってくれるのだ。

ミューレ様は私より一つ歳上の十九歳。ハリソン様は今年で二十六歳となるので、七つも歳上なのだが、既にミューレ様の尻に敷かれ気味だ。


『ミューレ様は伯爵令嬢。子爵に嫁ぐ事に思う所はありませんでしたか?』

私は少し意地悪な質問をしてみた事がある。だけどミューレ様は逆に

『ではエリン様は人を好きになるのに、肩書で好きになるのですか?』

と質問されてしまった。もちろん私の答えも

『いいえ。偶々レナード様が次期辺境伯であっただけです』

と言う私にミューレ様は満足そうに微笑んで

『貴族という狭い世界の中で好きな人に出会えた奇跡を私も神に感謝しています』

と胸を張って答えていた。

ハリソン様の言う通り、ミューレ様はとても素敵な女性であった。



私がユラに乗って何とかゆっくりと馬場を一周出来る様になった頃。


「もうあと一週間もすれば、ナタリー様の結婚式ですね。……でも良かったですね、妊娠はしていなくて」


「そうね。婚前に妊娠していたなんて……パトリック伯爵の神経を逆撫でするだけですもの。妊娠はめでたい事だけど、さすがにね」


母からナタリーの月のものが来たと聞いた時には、申し訳ないが安堵してしまった。これ以上パトリック伯爵の気分を損ねるのはナタリーにとっても良くないだろう。

私とバーバラはそう言って胸を撫で下ろした。


レナード様もあと半月もすれば辺境伯の爵位を継ぐことになっている。お祝い事続きだが、どうしてもナタリーの結婚について、なんとなく先行きが不安である事は、口にしなくても誰もが感じるところであった。


「エリン様、ご実家からお手紙でございます」

執事が私の部屋へと現れたのだが、どうも表情がさえない。私は父に何かあったのではと心配になった。


「どうも、早馬でのお手紙のようで……」

執事も只事ではない雰囲気を察したのか表情は硬い。

私は震える手で、手紙を開いた。


「え?!ナタリーが!!」

という私の言葉にバーバラと執事が反応する。



「何かございましたか?」


「ナタリーがいなくなったって……」

そう言いながら、私は二人の方へ兄

からの手紙を差し出した。


「早馬だと王都から此処まで二日程……。ではナタリー様が家を出られてから二日以上……」

と言う執事の言葉にバーバラは、


「家出……なのですよね?」

と恐る恐るといった風に私に尋ねた。


「ええ。手紙にもそう書いてあるわ。書き置きがあったって」


「結婚が嫌になったのでしょうか?」


「詳しい事は書いていないけど……」

手紙にはとても簡潔に『ナタリーが書き置きを残して家出をした。探してはいるが、結婚式に穴を空ける様な事になれば、パトリック伯爵家とは絶縁する羽目になるだろう』とだけ書かれていた。兄としてはストーン伯爵家とパトリック伯爵家が縁付く事に意味があるとでも言わんばかりの内容で、ナタリーを心配している様子は窺えない。


「これ以上パトリック伯爵様を怒らせる様な事にならなければ良いのだけど」

そう言った私の言葉にバーバラも執事も首を縦には振らず、曖昧に笑って誤魔化すのだった。


その日の夕食時。この日はミューレ様も一緒に晩餐を楽しんでいたのだが、私の心の片隅にはナタリーの事があり、なんとなく気が晴れないでいた。


「気になるか?」

私のそんな様子を見かねて、レナード様に声を掛けられる。


「申し訳ありません。つい……」


「謝る事はない。気になって当然だ」

私とレナード様の話に、辺境伯様も、


「心配だろう。心当たりなどは?」

と尋ねてくれる。


「あの子に親しい友人がいたと言う話は聞いたことがありませんし……近しい親戚は兄の婚約者の家でもありますので、そこにノコノコと顔を出す事はないと思うのです」


学園でナタリーは男子生徒に囲まれている事はあっても、女生徒と仲良くしている様子を見た事がなかった。……まさかどこかの子息を頼って……なんてそんな馬鹿な事はいくらナタリーでもしないわよ……ね?






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