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婚約者の貴方が「結婚して下さい!」とプロポーズしているのは私の妹ですが、大丈夫ですか?  作者: 初瀬 叶


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第23話


ミネルバは部屋に入ると、


「おかえりなさい、エリン」

と言って座っている私に抱きついた。


「……ええ……ただいま……」

おかえりなさい?ん?おかしくはないけど……何だかおかしい。


ミネルバは私から離れると、何の躊躇いもなく兄の隣の席へと座って、ジュードと微笑み合っている。……何なのこの甘い雰囲気は……?


私が目を丸くしていると、


「僕達、婚約したんだ」

と兄は少しはにかみながらそう言った。


「え?!お兄様とミネルバが?」


「そうなの。エリンに知らせようと思っていたところに、伯父様の事があって……バタバタしているうちに今日になってしまったの」

と私の問いにミネルバはちょっともじもじしながら答えた。


「二人がそんな話になっているなんて……思いもよらなかったわ」

私はまだ驚きが続いていて、口をポッカリと開けて二人を見ていた。


二人は見つめ合ってはニコニコして、もじもじして、赤くなって、俯いて……を繰り返している。まるで……恋人同士だ。


確かに、ミネルバも婚約者を決めていなかった事を思い出した。ミネルバはいつもアンソニーに婚約者が居ない事ばかりを私に愚痴っていたので、そういえはミネルバの婚約者について深く考えていなかった。……もしやミネルバって……お兄様が好きだった……とか?


「僕が伯爵を継いだタイミングで婚約したんだ。正直、僕は足が思うように動かないし、夜会に行くのも難しいかもしれない。そんな僕と結婚する人はきっと苦労するだろうと思えば、婚約者を決める気にもならなかったんだけど……ミネルバが僕を支えていきたいと……そう言ってくれたんだ」

お兄様はそう言うと、隣に座るミネルバの手を握った。


「エリンには恥ずかしくて言えなかったけれど、小さな頃からジュードの事が好きだったの。

でも、私達は従兄妹だし、ジュードには婚約者も居たし。諦めるしかないと思っていたのだけど、今回の事があって……。ジュードを支えて生きていけるなら、私はそれだけで幸せだもの」

ミネルバはとても幸せそうにそう言って微笑んだ。


……親友なのに、彼女の想いに気づかなかった。よく、私と一緒にお兄様の悪口を言っていたはずなのに。……なんだか申し訳なかったわ。好きな人の悪口を言ったりして。


「そうだったの……全く気づいていなかったわ」


「フフフッ。悟らせない様に気を付けていたもの。だから、エリンからマリアベル様との婚約を解消したと教えてもらった時は、嬉しかったし、ジュードが行方不明になっていた時は、心配で夜も眠れなかったの」

ミネルバは少し眉を下げて、私にそう言った。


「そうだったの?」

私は驚き過ぎて上手い言葉も出てこないが、


「大切な事を言うのを忘れていたわ。おめでとう」

と二人に向かって微笑んだ。

足の不自由な兄を支えていくのは、やはり困難な時もあるかもしれない。

しかし、幸せそうに微笑むミネルバに、それ以上の言葉は不要だと思えた。

だって、とても幸せそうだし。


すると、レナード様も


「ジュード。何かあったらいつでも言ってくれ。……婚約おめでとう」

と深く頷いた。


「二人ともありがとう。これからはこのストーン伯爵を力を合わせて守っていくよ。そこで……だ。実は僕達二人、伯爵領へと越すつもりなんだ」

と兄はミネルバと目を合わせると二人で頷いてそう告げた。


「王都を離れるの?」

と尋ねれば、


「さっきも言った様に、夜会に出てダンスを踊るのは難しいだろうし、ミネルバも社交は苦手だって言うんだ。

僕が父上の様な立派な領主になるにはまだまだだ。それなら、せめて領民の側に居て、直接彼らの声を聞く領主になろうと……そう思ってね」

と言う兄の言葉に、


「私は長閑なストーン伯爵領が好きなの。子どもの頃……ほら夏なんてよく遊びに行っていたでしょう?蛍がたくさんいるあの沢も、リスがたくさんいるあの森も大好きなのよ。もちろん最低限の社交が必要なのは分かっているから、その時には王都へ来るつもりよ」

とミネルバも続けた。


「お母様は……それで良いの?」

私はつい父の面倒を看るのが母一人の負担になるのではないかと心配になって、母にそう訊いてしまった。


「ええ。ジュードの決意を聞いた時には驚いたけど、良い考えだと思うのよ。私達が結婚した頃はお義父様達が領地を治めていらっしゃったし、お父様がストーン伯爵を継いだ時にはジュードが既に学園に通っていたから、私もお父様も王都に居を置くことになったけど、領地に居て領地を治める。それはとても大切な事だわ」

と母は微笑んだ。


「父上の看病を母上一人で……と悩みはしたんだが、母上も『そんな事は気にせず、領主としてきちんと務めあげて欲しい』って後押ししてくれたんだ。それに……一応ナタリーも居るしな」

私はそこで、ナタリーの事を改めて思い出して尋ねる。


「そう言えば……ナタリーとハロルド様の婚約が保留になったと聞いたけれど?」

つい小声になってしまうのは、許してほしい。


「ああ。実はそれで困った事になってるんだ」

兄の声も何故か小声だ。まぁ、あまり聞かれて楽しい話ではない事は想像に容易い。


「ナタリーが癇癪を起こしていると……」


「酷いもんさ。部屋で暴れたお陰で鏡台の鏡は割れたし、枕もカーテンも破れてしまったよ。ドレスやワンピースも随分と被害にあった」

兄が顔を顰める。よっぽどだったのだな……とその表情からも窺えた。



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