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七十二冊目『アフター・カルチュラル・スタディーズ』

「府雨の読書日記」七十二冊目『アフター・カルチュラル・スタディーズ』


『アフター・カルチュラル・スタディーズ』

 著 吉見俊哉


 同僚と、乃木坂、新国立美術館のテート美術館YBA&BEYOND展にちょっと前に行きました。


 午前中に行ったからか少し空いていて、一つ一つの展示に二人でコメントしていきながら、二時間くらいかけて観覧しました。


 とても楽しかった。


 そこでカルチュラル・スタディーズの話になりました。


 同僚は僕より四歳くらい若いのかな。僕が文学哲学なら彼は社会学政治学で、面白いように物の見方が違うので、話題に尽きないし、お互いの洞察を交わすのは、結構面白いです。


 ミッドタウンでチキンカツを食べ、別の同僚の昇任祝いを買い、三時くらい。


 で、その後池袋のサンシャイン水族館でクラゲを見て、丸善に寄り本書を買い求めました。


 目につく本がなくて、困っていたのですが、新国立美術館の展示との絡みもあり、本書『アフター・カルチュラル・スタディーズ』をとりあえず選びました。


***


 まずね。社会学嫌い。


 社会系の同僚には悪いですけど、つまらない。


 一番苦手なのは「アメリカ」とか「日本」とかのまとまりを自明のものとして考えているところです。(それが社会学か)


 個別的な差異を無視して、総合的抽象的に語るのが、理解できない。それは単に名前であって、内実はそれと一致してないでしょ。


 僕は「厳密じゃない」と言っているのではなくて「そんなことない」「間違っている」と言っている。


 地域的なまとまりは確かにあるかもしれないけれど、もっと根源的なところに「人」っていうものがあり、そちらの方に力点を置く方が誠実なはずです。「アメリカ」とか「日本」という語り方の怖いところは、政治がもはや国の名前であって、僕らの手元にないということです。


 カルチュラル・スタディーズの眼目がなんなのかは検索してもよくわからなかったのですけれど、社会を文化が反映しているという理論なら、それも間違っていると思います。


 社会を反映していない文化的作品もたくさんあります。そういう無限の作品の中で、社会の影響が濃いものを取り上げて云々するのは、ずるくないか? あまりに恣意的。


 僕には文化事情が社会を反映しているとは思えない。反映しているとしたら、それはかなりねじれた影響関係にあるはず。分析できる程度の結びつきなわけがない。


 無意識とかそういうことが言いたいのではなくて、アート(芸術作品)が反映する社会も、表現としての表象も、そんな簡単に言語化できるはずがない。


 テート美術館展のアートは、もしかしたら本当に「社会を反映」している。社会の風潮や趨勢を反映している。だとしてなんなのか。


 それをアートの役割と割り切っていいのか。僕にはわからない。


 もう少し言うと、反映しているのは当たり前だし、真のアートの切り口は世界の見方そのものです。


 でも、アートはそれとともにアーティスト(表現者)個人のもので、それはとても大切なものです。個人的なものだったはずです。


 社会的なものか、個人的なものかは、つまり社会との影響関係の濃淡は、芸術作品一つ一つに対して個別的で、総論として「日本の文化」「アメリカの文化」とは。決して言えないはずです。


 でも簡単にひとくくりにする。芸術作品の無限の可能性は常に未来の先取りで、過去の分析と現在の指標のために使われるべきではないと、心から思います。


 新国立美術館の展覧会も、ただ目にいいかどうかが、僕にとっては重要だったので、社会の風刺なんて切り口があるとしたら、ちょっと気取ってる感じがします。


 本自体は、つまらなかったですけど三分の二を読了しました。


 社会学や政治学がマスを扱って、個人を捨象するのは昔からですけど、全く本質的でない表面的な「関係」(表面的でないとしても)だけを扱うのが気に入らないのです。


 文学は個人に還元されます。だいたい書き手と読み手の間柄で成立します。マスの動向なんて、正直僕の幸せには、何の関係もありません。


 そう言うと必ず「いや関係あるでしょ」と言う人がいますが「かかわり」はあっても、関係しているのは「目の前の人とだけ」です。


 アメリカや日本と僕は、かかわりはあっても関係はない。


 もちろんそれは「アメリカ」「日本」が単なる名前だからです。


***


 その日の締めくくりは池袋のはずれにある台湾まぜそば。はぁ。うまっ!

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