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六十八冊目「ラストエンペラー」

「府雨の読書日記」六十八冊目「ラストエンペラー」


「ラストエンペラー」

 音楽 坂本龍一


 一月十一日に、東京国際フォーラムのAホールで、「ラストエンペラー」のシネマコンサートを観ました。


 早稲田の学園祭に行った時に、地下鉄の早稲田駅で大きなポスターの広告があり、同僚と相談して、四人で。


 僕は溥儀の皇帝即位の音楽で感涙していたのですが。序盤も序盤。


 清末民初の時代は、世界史の中で最も好きな時期ですけれど、ラストエンペラーは観ていなかった。映画を観る習慣がないものでして。


 神保町の古本屋で、愛新覚羅溥儀『我が半生』を買って、本棚に差し込んでいたのを、いそいそと取り出して読む次第です。


***


 皇后の溥儀への裏切りについて。


 愛情が豊かで、溥儀を思うが故に、愛されないことへのわだかまりが不倫を生んでしまう。


 子どもが欲しいという皇后のせりふは、日本のありとあらゆる場所で生まれている悲劇の象徴で、男は「お前はアヘン中毒だから」とかいう理由で妻に冷たくする。


 アヘン中毒なのは、愛の欠落を埋めるためです。


 冷たくされた妻は、愛情の大きさ故に、矛盾した復讐心を捨てきれず、不倫してしまう。


 どこでも一緒なんですね。こわこわ。


***


 紫禁城にせよ戦後収容された更生施設にせよ。


 自由に外に出られないのは、溥儀の場合、自分の意思ではなく立場がそうさせていました。


 それは、皇帝という孤独な存在を、悲劇的にする最高の舞台装置で、見聞きするものが制限されることで、靴紐が結べないこと、服すら脱げないことを、当たり前のものとします。


 関東軍が作った満州のハリボテの城に入れるのは、彼の人柄も知性も関係ない、彼の血の利用価値から来るものです。


 何もできない人を推戴することで、関東軍は権力を簒奪し、溥儀は紙にサインするロボットになる。


 名ばかりの皇帝という立場への諦め。


 それは、ただ愛があればよかった皇后との関係を、塗りつぶしてしまう悲劇です。


 家庭教師のジョンストンが、「結婚するということは家族を持つことで、そこでは自由に物事を決められる」のだと言います。


 溥儀は野心を持って言います。「統治したい」と。


 人の幸せは位人心を極めることにあらず。愛を育むことにあるという、僕にとっての明確な教訓です。


 そういうのも、忘れてしまうのでしょうか。いやだなぁ。


***


 恋愛の風景も、結婚生活も、(側室がいるという謎な世界観ですが)ありふれた、特別な奇矯さのない、わかりみの深いものです。


 好きな人を顔で選び、その人と結ばれ、不和ののちに別れる。


 喜びの瞬間と生活の持続の対比が、皇帝にとっても僕と同じように展開していくのだと思うと、ため息が出ます。


 まあ、皇后が不倫するのは、そうだろうなと読めていましたけど、それはどちらかというと溥儀に責めが帰されるような気がします。


 男的には「後ろから刺すなよな」というところでしょうが、女性にとっては自分への寵愛が問題なのですから、関係ありません。


 ちなみに僕は、後ろから刺す人が嫌いです。その人が単なる「もの」になる感じがするし、そういう自分の心の動きも、自動的にインプットされていて嫌です。感情が働かなくなって、冷たくなるのですが、そうしようと思わなくてもそうなってしまうんですよね。不思議。


***


 しかし、そう思うと学校って紫禁城みたいですね。


 そこから出たい。


 しかし出ると世間の風は冷たい。


 自由というのが果たしていいものなのかどうか、近代以降の、封建社会が消え失せた世界が、果たして豊かなものなのか、少し戸惑いました。


 世界はどんどん良くなっていると、スティーブン・ピンカーなんかは言いますし、それに反対はしないですが、あの「家」と「土地」に全ての人が縛られた生活を、しばしば想像します。


 懐古主義じゃないですけど、家族や国を矮小化する教育を受けて、今、それをわざわざ外科的に摘出する必要があったのかと、思うようにもなってきました。


 それは伝統への回帰という文脈ではなくて、単純に家族に愛されることへの、情景のようなものなのかもしれません。


 自由とはかくも虚しいものかと、述懐する人は多いので。


 自由を原理に据えたことで、愛を自由で説明しなくてはならなくなりました。


 愛を説明することなんか、わざわざする必要もなくて、単に理解していればいいだけのことなのに。

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