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六十五冊目『『保守思想』大全』

「府雨の読書日記」六十五冊目『『保守思想』大全』


『『保守思想』大全』

 著 適菜収


 合理的であるというのは、とても難しいと思います。


 不合理なことが実は合理的だということは、世の中にはたくさんあるし、人間は完全合理性に反していることは、間違いないことですから。


 そもそも、合理性を求めるのは、多く、文字面だけのことに終始するのが普通です。言葉は往々にして私たちの心を裏切りますし、合理性のために親しい人を傷つけることも、実にたくさんあることと思います。


 論理的でないと否定する論理自体は論理的〜、とか、多様性を否定する人を否定することは多様性を認めていない〜、とかいうのは、論理性や多様性を信じていない(愛していない)人の言葉です。論理性は矛盾を包摂しますし、多様性は認められなくても、否定されるべきものではありません。


***


 この本について思うことといえば、引用の一貫性ですが、残念なのは、こうまでしてもたぶん、本書で否定されていた「保守=バカ」には、言葉は届かないということです。


 内輪で楽しまれるものとしては一級ですが、おそらく火中の栗を拾うような、そんな本ではないです。


 バカという言葉は、何も包摂していないから。


 意見は人ではないというのは、かなり昔から言われている、あえて引用することでもない当たり前のことですが、たとえどんな意見を持っている人でも、その人を否定することはできない。


 バカという言葉は、感情のこもった侮蔑ですが、侮蔑する必要がどこにあるのでしょう。


 筆者の主張する「真の保守」を理解する人が、僕は少ないとも多いとも思いません。それは押し引きする潮のようなものであり、少ない時も人口の何%かは、自分を保守と任じるでしょう。


 常識的な意見を持つ人が少なくなっているという危機感に、僕は賛同しません。出版される本は多くがきちんとしたもので、もし仮に「大衆に迎合する」本があるとするなら、そしてそれが一部の人に読まれているという事実に反応するなら、おそらく僕は、大多数の人がその本を読まないことに保守の勝利を確信します。


 啓蒙しなければというのなら、それは重要なことです。広義には教育によってしか人は知性を開発できない。でも、本で変えられる世界というのも、それはそれで狭い気がするのです。


 自説を確認するために書かれた本だと思ったわけです。面白かったですし、いい本ですけど、やはり本で「バカ」と書くのは、あまり良くない。


 全ての「バカ」が「嘆かわしい」わけじゃないし、非論理性も矛盾理論も万人に受け入れられるわけじゃない。


 説明を怠ってきた。突き放してきたというのが事実ですし、言葉はお互いを否定するためばかりに使われてきました。


 意見が違えば仲間ではないというのは、しばしば反抗期の子どもが考えるユートピアの裏返しで、その理論で子どもは親を否定します。


 友達だけが自分を理解してくれるという、生ぬるい理想に、閉じこもってしまうのです。


***


 合理性や論理性や決して外在化されたものではなく、私たちを含むがゆえに、わずかばかりねじれて、微かに複雑になっている。それが「気持ち悪い」という理由で、合理性に固執するのは、少し違う気もします。


 でも、少しくらい複雑でないと、こちらもやる気を失ってしまう。答えがわかったゲームほどつまらないものはない。


 知や情報が外部にあるというナイーブな信念に基づいた世界理解より、「三体問題」のように、細かくシミュレーションして理論のない、でも世界自体がそうである見方を持つのは「つまらない」ですけど面白いことです。それは答えがないわけですから。

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