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十一冊目『安全に狂う方法』

「府雨の読書日記」十一冊目『安全に狂う方法』


『安全に狂う方法』

 著 赤坂真理


 アディクションは、死を回避する方法であり、依存に耽る人は、決して不真面目なんかではない。


 不真面目か真面目かが、僕たちにとってとても重要なことなんだ。


 そうだよな。息苦しさが最初にあり、それを回避する術として、人は様々に「工夫」する。習慣には好ましいとされるものとそうでないものがあるけれど、その習慣に「耽る」という動詞に注目すれば、依存に「耽る」ことと大差ない。それがなければ生活の根幹がないわけだから。


 なるほど。


 アディクションはどこかで、どこかで肯定される必要がある。それも本気で。


***


 嘘をつくのが好きです。好きすぎて色んな話から、果ては物語まで考えてしまいます。


 病院にいられたら楽だろうな。疲れたなと思って、想像的に病気になって満足していたら、本当に狂っていたなんてことがあって、それから回復までには長い時間がかかって、回復の途上にあって、やっぱり狂わなくては、僕はやっていけなかったんだなって、読後改めて思いました。


 本当に思っていることがなくて、いつも形式にばかりこだわって、言葉に縛られています。


 だから内容はどうでもよくて、耳触りのいいお世辞ばかり口にします。


 たぶん、嘘はバレていると思います。浅はかな嘘ですから、中身がないことはすぐわかる。


 でも、真実を含むせりふのほうが、よほど嘘って感じがして、怖くなります。


 というか、真実に相当する概念が、僕の中にないんです。


 自分の気持ちがどういうものなのか、という問いよりむしろ、自分の気持ちがある場所に、位置しているものがあるのかが、疑問です。


 何かではなくどこか。空白の「位置」が定まらない。


「僕は、自分の思いを口にする人のことは、大概野蛮だと思っています。全然上品じゃない」


 こういう独白は本心じゃないのかって、思う方もいて不思議ないですが、確かにそうかもしれない。でも、それが他ならぬ僕の感情や思考の中で、重要な位置を占めているかと問い直すと、やはりどこにあるのかはわからない。


 どうでもいいことなのか、それとも重要なことなのか。とりもなおさず、僕が何を考えているのかわからない。いつも思考は対象であり、思考そのものになることが、できないでいるのです。


 そうするとだんだん孤独になってくる。


 周囲の人との相対的な位置で、自分の存在を確認する。


 嘘をつくことで本当の在処を確認する。直接在処を特定することは、なかなかできない。


 実際、こういう作文ですら、文脈の向く先で結論を変えることもよくある。何を考えているかが、全く重要ではない。


 普遍的な正しさを疑うように教育されてきた僕は、何かに肯定的に向き合うことができないように、なってしまったわけです。


***


 きっと、何かの器なのだろう。僕はそう思うことにしています。中身がなんであれ、映えある器でありたい。強固で美しい容れ物でありたい。


 何か、感情が注がれれば、きっとぼんやり光るのだと思います。


***


 言葉として「狂う」には対義語がないですよね。「正常である」とは、言語的に正対する関係にはありません。


 一度でも狂ったことがある人の人生に、正常が安住することはないと思います。狂いを忌避しながら、恐る恐る日常を乗り越える。


 少しでも無理ができなかったり、コミュニケーションで遠慮したり、怖くて仕方がないと思います。


 狂っていない、まだ大丈夫だ、とか思えないんです。もうダメじゃないか、おかしくなってるって、思ってしまう。たとえこれといって変なところがなくてもです。


 赤坂真理さんの『安全に狂う方法』に、言及されていたか、少しあやふやですが、狂う方法には「危険」と「安全」があるそうです。


 自分を含む人を傷つける「他害」は決定的に危険であり、心や体をやんわりと締めつける「自傷」は、他害に至らないための方策アディクションです。


 僕は嘘をつくことで自傷し、自分をこの上なく守っています。でも、もしできるなら、誰かの庇護のもとで、叫び倒して、安全に、泣きたくなるほど安全に、ザクリと、人を傷つけてみたい。


 きっとそれは楽しいんだろうなと思いながら、そういう話を考えてみたいものです。

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