土曜休日
三題噺もどき―さんびゃくごじゅうよん。
ふいに、身が震える。
ここ最近、ようやく秋めいた日々が続くようになった。
昨年の秋が果たしてどんなだったかは覚えていないが、今よりは温かかったかもしれない。
「……」
けれど、テレビによると来週はまたあの暑さが戻ってくるかもしれないと言っているのだから……何とも。
別に季節の変わり目に弱いとか、気温の激しい変化とかで体を悪くするほど敏感ではないのだが。
ここまで振り回されると倒れたくなってしまう。
「……」
10月半ばの静かな土曜日。
ありがたいことに、紆余曲折を経て、土曜日曜が安いの仕事をしているので、今日は休みだ。
転職をして迎え入れたこの生活だが、あのころとは比べ物にならないほどに良質な暮らしをしている気がする。
やはり、サービス業というのが根から合わなかったのだろう。まぁ、それだけでなく、以前の職場は荒みが酷かったからなぁ。
今はこんな風に言えているが、働いている頃はあれが当たり前だったんだから恐ろしい。外部から指摘がないと自分では気づけないものなのだ。
「……」
今は過去の事なので、仕舞い込むことにしよう。
休日は、休むべき日である。
家庭を持っているわけでも、パートナーがいるわけでもない独り身だ。何かに急かされることはない。
サボればすべて自分の返っては来るが、全部自業自得で済む話だ。
「……」
だから、というか、まぁ……。
今も1人。
ベッドの上に寝転がって、何をするでもなく、時間を浪費していたりする。
洗濯を回したり、掃除をしたり、食器を洗ったり。
すべきことやりたいことは、それなりにあるが、今日はどうにも動きたくないが勝る。
こういう時は変に動かない方が吉と、少し前に学んだ。
「……」
スマホをいじる気さえなれず、ぼーっとしているだけ。
ときおり、ふるりと身が竦む。
やっぱり寒いなぁと思いつつも、足元にある毛布を引き寄せる気にならない。
天井を眺めつつ、頭の中で何かを考えているが、それもすぐに別のことに切り替わる。
「……」
そういえば、目覚めてから時計というものを一度も見ていない。いったい今何時なんだろう。
薄手のカーテンから日差しが差し込んでいるあたり、昼間かそれよりも前の時間という感覚はしているんだが。
残念ながら、こういう時の自分の感覚はあてにしてはいけない。大きく外れていることが多々だ。
かと言って、正確な時間を把握する気には、さらさらならない。
「……?」
ふいに。
眺めていた天井から、カタ―と物音がした。
続いて、ギシ―ギシ―と、何かが歩く音。
コト―コト―と何かを置く音。
大き目の何かを置いたのか、次はゴト―と低めの音が鳴る。
足音は言ったり来たりしているのか、それとも複数いるのか。
ギシ、ギシ、ギシ、ギシ―と軋み続けている。
ときおり、ガチャン―!という玄関が絞まるような音もするが、その都度静かに開く音もしている。
騒がしい物音は、止まることなく続いている。
「………ぁ…」
にわかに心霊現象か何かと思ったが、そういえば、アパートのおばさま方が話しているのを耳にした気がする。
近々何号室に人が入るみたいよーとかなんとか。全くそんな情報どこからとも思うが。そういえば、自分の住んでいる部屋の上の階だなぁとぼんやり思った気がする。
「……」
今日がその引越し日だったのだろう。
ならばこの騒がしさも納得だ。少々騒がしすぎる気もしなくはないが。
きっとこの土曜日日曜日で完全に引越しを終わらせようと大勢で行っているのかもしれない。こんな中途半端な時期なのは少し珍しい気もするが。
「……」
ここで、ひょいと気まぐれでも起こして、自分も動いてみようかとか、出かけてみようかとか思えばよかったんだが。
残念ながらそんなことはなく。
そもそも気まぐれで動けたら、もっと早くに動いている。
「……くぁ…」
むしろ眠くなってきた。
たいして何もしていない。
ただ起きてからさして動かず、ただぼーっとしていただけなのに。
外からの日差しのせいか、ぼんやりと温かくなりだした部屋が、その眠気に拍車をかける。
「……」
ゆっくりと瞼を落とす。
これに抵抗する術も必要もない。
まどろみに身を任せて。
騒がしい引越しの音はまだ続いている。
それすらどこか心地のいい音となっていく。
「……」
少し遠くなり始めた騒音を、惜しく思いながら、意識は深く沈む。
「……」
今日は休日。
10月半ば、静かでどこか騒がしい土曜日。
「……」
何もせずに、ぼうっとしていただけ。
「……」
それでも眠くなるんだなぁと。
「……」
少し不思議に思いつつ。
お題:引越し・気まぐれ・まどろみ