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魔眼と少女の冒険譚  作者: 利々 利々
第一話 冒険者のやりかた
3/3

第一頁 修道女ソフィア

 口元を(ぬぐ)っても赤くはならない。もちろん血の匂いなんかしない。(まぶた)を持ち上げて見えるのは、木製の天井だけだ。

 壁外町(タウン)でも安い旅人宿である。

 ルーシアが気絶した後、その場の空気に押された修道女(シスター)がここへ運び込んだのだった。

 当たり前だがベッドなんて高尚なものはない。()(じろ)ぎするだけで軋むがたがた(ヽヽヽヽ)の床板の上に、夏服くらいの厚さの布を敷いて寝かされている。

 すやすやと。

 ルーシアはまだ眠っている。

 魔力枯渇のせいだ。ルーシアは魔力の扱いがとびきり下手で、魔法をひとつ使っただけで倒れてしまう。魔力というのは車でたとえるとガソリンにあたる、いわば魔法を使うための燃料だ。ようするに、ルーシアの「下手」はその燃費が信じがたいほど悪いことを指している。

 致命的な問題だった。文字通りの意味で。

 この世界の人間は、魔力を使い尽くすと死ぬ。

 知った当時はぞっとした。「死ぬ気」が文字通りの意味を持つ世界だ。飢えも渇きも通り越して、刃も弾丸も必要なしに、自らの命をぽん(ヽヽ)と絶ててしまうということだった。

 しかもルーシアなら覚悟もいらない。なにせただ(ヽヽ)燃費が(ヽヽヽ)悪い(ヽヽ)だけ(ヽヽ)、魔法を使うだけで「ぽん」だ。

 が、それでは救った意味がない。アイリスはひとまず自分の魔力を補填に()て、気絶くらいで済むようにした。完全にフォローしないのはルーシアのためだった。いつか、ひとりでも生きていけるように。

 魔力制御は目下の課題。それまでは死なない程度にアイリスがセーフティ・ネットになる。進捗は、あまりよくない。

 それがルーシアの魔力事情だった。


 だからあと三十分は起きない。

 ならば誰がルーシアの口元を拭い、匂いを()ぎ、瞼を開けて、天井を見たのかといえばもちろん。

 じろり(ヽヽヽ)と視線を向ける。

 ルーシアの唇が動き、

「どこへ行く気だ?」

 アイリスは己のからだ――筋繊維ならぬ菌繊維を、ルーシアの全身に張り巡らせている。何年も引きこもっていた人間が何日も歩き続けられるし、獲物のとれない日には蓄えていた栄養を放出できるし、虫に刺されないし日焼けもしない。保湿クリームのように全身に纏うだけで、そんじょそこらの鎧より硬い。おまけに魔法も教えられる。なによりアイリスには人格がある。

 だからルーシアが眠りこけていたとしてもアイリスは動ける。

 窓から脱出しようとしていた修道服の女を呼び止めることだってできるのだった。

「……あら。起こしてしまいましたか?」

 このまま逃げてしまおうかとも考えたのだろう。一拍の間をおいて女が振り向く。

 賢明だ。

 それに、抜け目のない女だ。

 窓から離れずに、しかし宿の入り口からは見えないように、さり気なく姿勢を変えた。その間ずっと、視線はアイリスに張り付けていた。

 対するアイリスは寝転がったまま。しかもルーシアの寝相のせいで膝を立てている。腕を振り上げている。おへそも出ている。顔だけはキメている。流石に気まずい。

 薄布の上に座り込んだ。胡座(あぐら)をかいて、膝を机代わりに頬杖をついて、ふてぶてしい表情(かお)で視線を向けた。

 赤色の。

「悪いな、最初から起きてた」

「……それは、気付きませんでした。たぬき寝入りがお上手ですね」

 似非(えせ)シスターの視線がすらりと開く。

 金色の瞳。ルーシアの髪に似ている。といっても似ているのはうわべだけで、生命力がまるで違う。野生の草花のような力強さを秘めている。

「最初からと、おっしゃいましたね」

 アイリスは唇に笑みを作った。

 もちろん全部見ていた。

 ルーシアが寝ているあいだ――似非シスターに言わせれば「たぬき寝入りをしている」あいだ、アイリスはずっと、この女の所業を眺めていた。

 修道服なぞ着込んで、とんだ詐欺師だ。

 まず、ルーシアの服に手を突っ込んで金目のものを探していた。つぎに部屋の中を隅々まで調べて銅貨を二枚見つけた。もう一度ルーシアの服を確かめて、ひとしきり悩んで、最後に苦悶の表情を浮かべて諦めた。窓から宿の外へ脱出しようとした矢先に、アイリスに声をかけられた。

 そしていま、

 似非シスターは唇を固く引き結んだ。

 アイリスへ向けて、何事か言おうとするように息を吸い、

 動く。よりもコンマ数秒早く、ぴんと空気を張り詰めさせた。

 殺気だ。

 この感覚をアイリスは知っている。人を殺そうとする人間が放つ圧力。地球の頃はまるで分からなかったが――今では、殺気を(ヽヽヽ)出す(ヽヽ)のが(ヽヽ)早過ぎた(ヽヽヽヽ)ということさえ分かる。

「死――んぇうぐっ」

 言わんこっちゃない。

 とは言ってやらない。

 代わりに浅くため息をつく。アイリスは視線を落として似非シスターを見つめた。

 芋虫みたいだ。

 鉄の鎖で簀巻(すま)きにされて床に転がっている。殺気の瞬間に全身を絡め取られたせいで、一歩目さえ踏み出せなかった。

 ――のに、鎖の下で手が動く。バレていないと思っているのか。ばかめ、

星輪(せいりん)魔術(まじゅつ) 二式(ふたしき)七号(ななごう) 鉄縄(てつじょう)

 魔法を補強してやる。鉄鎖の数が四つから六つに増える。簀巻きの輪郭(シルエット)が細く()まって、女の肺から「ぐぎ」と潰れたような声が漏れた。魔眼にはすべて見えている。太もものベルトに仕込みナイフ、


 ――とは無関係の、宿の外に二人、一階に五人。外の連中に動きはないが、階下の五人組はどうやら押し入ってくるつもりらしい。受付で怒鳴っていた一人が階段を指差し、先導して歩き始めた。

 ゆっくりとお話している時間はなさそうだ。

(はがね)(みち) 焦熱(しょうねつ)(わだち)

 (ほろ)びの(ごと)(いまし)めを」

 今度は鎖が太くなる。とりあえずこれで、正規の発動と遜色(そんしょく)ない拘束ができたはずだ。

 アイリスは扉のほうへ向き直った。一応、立ち上がっておく。腕を組んでもいいが、一応、万全を期して腰に当てるだけに留める。扉はひとつ。廊下から階段へ繋がっている。敵が上がってくる。

 足音が部屋の前に差し掛かり、

「死ねやオラァ!」

 蹴破られた。

 嘆息。

 ――いや普通に開けろよ鍵掛かってねえんだから。

 と思うあいだに、侵入者の(けん)を切り裂いた。一人。二人。三人。入り口で折り重なって倒れる仲間の姿を見て四人目の足が(すく)む。知ったことか。五人目はもういい、階段を登りきったところで処理しておく。

 これで全部だ。

 もちろん魔法だった。同じ斬空閃でも練度が違う。詠唱はなく、精確に右足の腱だけを狙い撃ち、壁の向こうの標的さえも捉えてみせた。

 それに、まだ魔法が終わっていない。

 アイリスは残弾(ヽヽ)七発(ヽヽ)を維持したまま、もうひとつ斬空閃を発動させ、それからようやく最初の術式を解いた。

 追撃はない。

 ひとりが同時に発動できる魔法の数には限りがある。アイリスについて言えばほとんどないようなものだがそれはさておき、魔法使いを相手に、一番狙いやすい隙はそこだ。この「金髪の少女」を仕留めるなら、五人を処理した直後がベストだったはずだ。しかし追撃はなかった。

 代わりに、どたどたどた、と階下から宿屋の主が駆け上がってくる。

 ちょうどいい、

「お、お客さん、これは一体――」

「駄賃代わりだ、とっとけ。俺様たちはここを出る」

 店主の視線が動いた。倒れている男たちを見た。

 そう高くは売れないだろう。

 アイリスもそう思う。

 けれど次善ではある。ここで妥協しておくべきだ。

 アイリスはそうとも思う。

 ルーシア(アイリス)修道女(シスター)を奴隷商に売り渡すのは諦めて、ここに転がっている男五人でよしとするべきだ。

「しかし、」

「受付にドリンクがあるな。差し入れか?」

「は、はい! 妻が丹精込めて作っ」

 壁に叩きつけた。

 (はりつけ)にしただけで意識は保たせてやる。首から下だけを布団で包むような感じだ。完全に四肢を固めているという点を除けば、の話だが。

 銀嘯(ぎんしょう)(ろく)(ろく)百雪(ひゃくせつ)蕩楼(とうろう)

 好きな魔法だ。流体なのがいい。自分の身体を操る感覚で使えるし、これひとつで動きを封じやすい。こんな風に。

「お前が全部飲むなら、明日までは残ってやる」

 できるわけがない。もしも飲むなら、店主と男どもを奴隷商に突き出して終わりだ。目が覚めることには枷がついているだろう。

 押し黙った店主を尻目に、アイリスは鉄(ぐる)みの芋虫を拾い上げて部屋を出た。

「お前も飲むか?」

 ぐいと一息。宿屋の受付にあったドリンクを飲み干して、アイリスが(たず)ねた。

 飲みたいならもう一杯ある。ご丁寧なことだ。もともと気絶していたルーシアの分まで用意してくれていた。ルーシアと女を部屋に通したあと、そのまま流れるように奴隷商のもとへ使いを飛ばした店主本人の、手ずからの力作である。

 芋虫改め、吊り下げられて鉄の蓑虫(みのむし)になった女はカウンターの上を一瞥いちべつし、表情(かお)を歪めて、

「いりません」

 アイリスはただ、「そうかい」と愉快げに笑って宿の扉を押し開ける。


 視線。視線。視線。

 ふんと鼻を鳴らす。口を()の字に曲げて、いかにも不機嫌そうな表情を作って見せる。見えているはずだ。はずなのに、視線は外れない。

 観察されている。

 宿を出た途端にこれだ。

「おい似非(えせ)修道女(シスター)。擦り合わせだ。いま何人に見られてる?」

 蓑虫は吊り下げられたままため息をついて、

「五人。それと『似非』はやめてくださいませんか? これでも、」

 同じだ。どうやら間違いはない。

 宿のすぐ近くで張っていた連中――押し入りの仲間二人はもう処理したが、まだ(のん)()にこちらを観察しているつもりの間抜けが五人も残っている。魔法が届かないくらいの距離をとって。すぐには手を出す気がない距離、とも言い換えられる。

 いずれにせよ不愉快なことに変わりはない。

 が、

「そちらにはいませんが」

「これでいいのさ」

 アイリスは、まっすぐ敵には向かわなかった。

 路地に入る。

 南に高く輝く太陽が、あっという間に見えなくなる。道というより建物と建物の隙間だ。狭過ぎて日の当たる場所がない。ひっくり返せばムカデでもゴキブリでも這い出てきそうな物陰の奥へと、靴音高く歩み入る。

 鎖が鳴る。壁に反響した金属音が、(いざな)うように表通りへと散っていく。

 ぴた。

 足を止めた。鎖の蓑虫だけが宙ぶらりんに揺れる。

 ちょうど曲がり角を二つ無視して、三つ目に差し掛かったところだった。視線が背中に突き刺さっている。ちゃんと()いてきたらしい。

 一秒。

 二秒。

 三秒。

 四秒、視線が違和感に揺らいだ、

 すぐさま駆け出す。角を左に曲がる。

 そして壁を滑り(ヽヽ)上がった。

 魔法の流体がアイリスを運ぶ。

 そのまま身体を壁に固定し、鎖の隙間を埋めて音を隠す。似非シスターをぶらりと提げたまま、蜘蛛おとこ(ヽヽヽ)になったような気分で壁に座り込んで敵を待つ。

 静寂。

 の、中に足音が五人分。固まっている。魔眼でも確認した。互いに目配せをし合っている。

 お前ら仲間なのかよ。

 アイリスは心の中で舌打ちした。だったら最初から集まっておいてほしかった。それなら路地を歩く必要もない、一網打尽だったのに。

 ため息をつきたくなるのを(こら)えて魔法を発動する。

 風の刃をひとつ、胸くらいの高さで、

 一撃で殺しきった。

 ふう。

 今度こそ、ため息をつく。

 血飛沫を避けるように跳躍し、血だまりから離れた場所に着地する。着地の瞬間に膝を曲げたせいで鎖が余り、女がえび反りになって「うぐ」と声を上げた。(とっ)()に顔面を守ろうとしたらしい。

「……これでも、聖職者なのですが」

 金色の視線がアイリスを見上げている。

 アイリスは、その訴えを「はん」と退けて、

「目が開いたままだぜ、似非シスター」

 頭巾を取り払う。紫銀の髪がはらりと落ちる。頭巾の中に収まるように、肩までの長さで切り揃えられていた。

 まったく、よく考えたものだ。

 教会の人間ならば瞳を隠せる。修道女なら髪まで覆える。それにあちこち渡り歩いても怪しまれにくい。いい隠れ蓑だ。

「生死不問なんだってな。……こがね(ヽヽヽ)(ひとみ)しろがね(ヽヽヽヽ)の髪。領主館に『侵入未遂』だったか――本当にそれだけならギルドにまで手配書が出回るわけがねえ」

 鉄縄から手を離す。

 拘束が少しだけ緩んだ。まだ逃げ出せるほどではない。呼吸が楽になる程度のものだ。案の定、埃まみれの空気を深く吸って女が咳き込む。

 バカめ、

 アイリスは屈んで顔を覗き込んだ。不良が因縁をつけるときにしかやらないような体勢だ。頭巾を剥がして髪でも掴んでやればもっとらしい(ヽヽヽ)かもな、なんて考えつつ、

「なあ、似非シスター。お前本当は何をやらかした?」

 鎖が擦れる。路地を覆う薄い壁の中に、小さな金属音が溶けていく。その中にひとつ、唾を飲む音が混じる。

 シスターは金色の瞳でアイリスを見上げて、

「言うよりも、見せたほうが早いかと」

「ほお」

 立ち上がる。見下ろす。シスターを修道服が包み、その修道服を鉄縄が包んでいる。アイリスは人差し指の背中で顎を撫でた。

 はったり。だったら都市(シティ)行きだ。アイリスは懸賞金を受け取る。女は言いたくなかった秘密を「アイリスには」言わずに済む。なるほどWIN-WINだ。

 そこまでバカではないだろう。

 だったら、本当に見せられる。

 いま持っている。

 ――面白い。まさかもの(ヽヽ)があるとは思わなかった。

 そのままの意味だ。アイリスは、この似非シスターがまだ何かを隠しているとは思っていなかった。なんならいまも疑っている。魔眼には何も映っていない。

 どうやって、とは問わない。代わりに魔法を用意しておく。嘘かもしれない。逃げるかもしれない。向かってくるかもしれない。どの場合でもまず足を落とす。そう決めてアイリスは鎖を――

 (いや)

「じゃあ動いていいぞ。とりあえず、鎖を解くところまではな」

「……感謝します」

 もぞり、と女が動き、

 間違いない。

 アイリスは見ていた。まばたきひとつしていない。していたところで、魔眼には網膜も水晶体も必要ないのだ。

 だからそこには何もなかった。

 はずだ。

 いきなり、小さなペンダントが現れた。

 服から出てきたようにも見えない。女の手はずっと外に出たままで、修道服にもそれらしい反応はなかった。

 どこからともなく現れたペンダントには、親指と人差し指で丸を作るくらいの鍵付きロケットがついている。中身は粉末の入った巾着袋で、鍵の機構と袋の厚みを差し引くと粉末自体は指先に積もるほどの量しかない。さすがに粉末の正体までは判別できなかった。

 しかし間違いない。

 このロケットペンダントはマジック・アイテムだ。

 そこから先はアイリスにも分かる現象だった。ペンダントが赤く光り、鉄縄に伝染して広がり、そして弾けた。「ばきん」と音を立てて連環がことごとく砕け散った。

 五秒かかった。

 ペンダントが光り始めてから鎖が壊れるまで、きっかり五秒。それに破片のほとんどは撒菱(まきびし)のように女の背中の上に残っている。大したアイテムには見えない。けれどシスターは、すぐには動かなかった。

 しびれを切らして「おい」と声を掛けようとした、

 その瞬間だった。

「侵入未遂」だなんて、見栄っ張りもいいところだ。今度はアイリスが唾を飲む番だった。鎖の破片が修道服に沈み、代わりに、女の背中にもの(ヽヽ)が現れる。

 ひとつは腕輪。もうひとつは短剣。最後のひとつは、杖。紳士が使うステッキではなく、長槍から穂先だけを切り落としたような形状(シルエット)だった。腕輪と短剣はいい。いやよくはないが、それにしたって杖が長過ぎる。女の身長だって低くはないのに、そこからさらに頭ふたつ長い。絶対に服の中には収まらない。

 どこから出てきたんだ。

 そんなのは決まっている。修道服の中しかない。魔法の痕跡が見当たらないところをみると、ついでに修道服を着ていることも鑑みると、おいおいまじか、本物の神官様である。

 珍しい。

 おまけに盗人だ。貴族のお屋敷からの。

「――ほお」

 アイリスは、人差し指の背中で鼻の頭を撫でた。顎は代わりに親指でなぞる。ソフィアはそんなアイリスを見上げて、

「これで全部です。領主様の別邸から盗みました。……すべて差し上げますから、どうか、」

「いらねえ」

 ばっさりと切り捨てた。

 そんな宝物(もの)よりも有用なものが、目の前に転がっている。指名手配もされるわけだ。どこのバカ貴族かは知らないが、領主館から三つも盗んで五体満足。どれもこれもマジック・アイテム。生死不問の意味が分かった。こんな奴を野放しにしてはおけない。そう考えたのだろう。

 死んでもらっては困る。こんな奴を野放しにしてはおけない。

 アイリスは、そう考えた。

 再びうんこ座りに屈む。そして困惑顔の修道女(シスター)を覗き込み、

「お前、しばらくルーシアと一緒に行動しろ。この身体の元々の持ち主のガキだ」

 シスターの顔が引き()った。

「ルーシアに身体の使い方を教えろ。走り方から剣の取り扱いまで、順序も内容も問わねえ。報酬はその期間分の『目』だ」

 アイリスが自分(ルーシア)の瞳を指差す。赤色から青色へ、そして金色に変わって、また赤に戻る。

 この世界の人相書きはすべて手書きの手写しだ。流石に職業柄、へたくそが混じることはそうないが発行者の私情は多分に含まれている。それから写し屋の偏見と横着も。平たく言えば「使える」人相書きのほうが少ない。

 アイリスだって、目と髪を見なければシスターが盗人だとは分からなかった。

 目が変われば誰にも分からない。

「わかりました」

 シスターは思量の(ひま)もなく条件を飲んだ。

 決まりだ。

「準備するから少し待て。……あー」

 ルーシアにはなんと説明していたっけ。

 ああ、そうだ、魂がどうとか、

 ――しかしこいつはまずいよな。

 思う。

 ルーシアのときは緊急事態だったし、見えていなかったから嫌悪感も少なかったのだ。それに、アイリスの嘘をまるっきり信じ込んでいた。今もまだ信じている。

 だがシスターは違う。いくらアイリスが「俺様は魂だけの存在だ」と(うそぶ)いたところで、腹の中からウーズ(スライム)が出てきたら、それを飲めと言われたら、賭けてもいい、絶対に抵抗する。いま成立したばかりの契約など関係ない。

「ぶち殺すぞ」と脅してもいいが、ルーシアに体術を教えてもらうつもりだ。できれば穏便に済ませたい。センス次第では長い付き合いになるだろうし。

 それに、ルーシアにとっては塔の外でできた初めての知り合いだし。

 仕方ない。

 ひと芝居打つことにした。

 自分の胃の中で魔法を使う。

 ようは、スライムには見えないような登場の仕方をすればいいのだ。

 用意する分体は直径3サイル(約3センチ)ほど。「浮遊(レビテーション)」で自在に動かせるサイズに留めておく。()うのも(うごめ)くのもまずい。シスターの体内に入るまで、使えるのは浮遊と重力だけだ。さらに分体の一部を発光細胞に組み換え、光が漏れ出る程度の(もや)を纏わせて、下拵(したごしら)えは終わり。食道を逆行させ、呼気に揺られる軌道を描いて唇の間から送り出した。

 シスターが目を丸くする。アイリスの「たましい」はホタルのようにふらふらと彷徨(さまよ)い、ゆっくりと掌上に降り立った。

 なかなか神秘的なもんだ。

 自分でもそう思ったのなら成功だった。

 靄に包まれたまま光は勢いを増し、(まぶた)を閉じていても視界が白むほどに、路地の日陰をあまさず飲み込もうと輝きはじめる。――というのはもちろん演出で、本当に重要なのはこの後だ。神々しいまでに膨らんだ光は急速に(しぼ)み、最後に懐かしさを覚える物体が残った。

 白色の半透明で、どろりと粘り気があって、葛餅のようにぷるぷるとしている。

 そして中心が赤色に――


 ……桃色に、輝いていた。


 桜あんの水まんじゅうだ。

 自分でも失敗したと思う。欲張り過ぎた。アイリスの目が赤だから、心臓部を赤くしておいたほうがいいと考えたのだ。休むに似たり。半透明と重なって、雛祭りみたいになってしまっている。

 しかし、お出ししてしまった以上はこれで通すしかない。

 もう後には引けないのだった。

「こいつはな、俺様の魂の欠片だ」

 へにょりとシスターの口元が緩んで、

「ずいぶんと可愛らしいのですね」

 ぶち殺すぞ。

 ……深呼吸。

 さっき殺した出歯亀どもの、血のにおいが鼻を突く。気を取り直した。

 そういえばシスターは、拘束が解けてもまだ這い(つくば)っている。座れとも立てとも言っていないからか。律儀な奴だ。……仕方がないな。

 アイリスは、せめて食いつきやすいように「たましい」を指の先に乗せてやり、

「お前にはこれを飲んでもらう」――


 飲めと言ったのに、しっかり(かじ)られた。

 感想は「思ったより甘ったるいですね」だった。


   ◆◆◆


 ほどなくして、ルーシアが目を覚ました。

 まず、アイリスが「起きたか」と言い残して引っ込んだ。

 本当にいきなりだった。と思うのは、直前まであまりにも普通に話していたからかもしれない。いきなり過ぎて、アイリスが人格を裏に引っ込めたことも、「オキタカ」という言葉の意味さえもすぐには飲み込めなかった。そこからはあっという間だ。ソフィアが目を白黒させている間にすべての始末がついた。

 赤い瞳が青く染まり、油断も隙もない表情がぽかんとした間抜けづらになり、ルーシアがにへら(ヽヽヽ)と笑って「よかったぁあ〜」と抱きついてきた。


 ソフィア・シェイドリング・ゼファーは〝日喰(ひるばみ)〟アルトラ・クシオンに仕える戦巫女である。銀髪に金瞳の十八歳で、女性にしては172サイルと長身で、教会番号はクラウディール修道院正892番で、これまでに盗んだ宝物(ほうもつ)は三桁に上る。

 指名手配も盗みが原因だ。

 あの夜、ソフィアは公爵家の別邸に忍び込んで、屋敷の隅に追いやられていたマジック・アイテムをかっぱらった。いつもどおりの仕事のはずだった。夜が明けたら売り飛ばし、領外に出て修道院を巡るつもりでいた。

 が、公爵家の手は早かった。

 たった一夜だ。夜が明けたときにはもう、ソフィアは公爵領にいられなくなっていた。公爵家付きともなると絵師まで練度が違う。頭巾をかぶって目を()じていても、ソフィアには不安が拭いきれなかった。

 おまけに、マジック・アイテムには公爵家の刻印があった。

 簡単な話だ。「重代物(じゅうだいぶつ)」と呼ばれるある種の宝物には必ず、なにかしら家と結びつくしるし(ヽヽヽ)が施されている。ある種の、とはつまり先祖伝来の品だ。こちらは何代目が竜を(ほふ)ったときの剣で。ああそちらは何代目が陛下をお助けしたときの盾で。自家の重代物くらい語れねば貴族は張れない。ようするに、家の由緒正しさを示すための小道具である。公爵家ともなるとそれが別邸の屋敷の片隅に置いておくくらいの数、存在したというだけの話だった。

 八方塞がりだ。

 なにせ公爵家重代物である。絶対に高値で売りたい。けれど市場がない。

 まともな価格で取引できる大店(おおだな)ならまず露呈する。通報、捕縛、処断。冥府の出世街道が待っている。かといってしょぼい店ではそりゃあ売り値も相応だ。割に合わない。こちとら公爵家の警備をかいくぐって屋敷に忍び込み、あやうく殺されかけたのである。技術料に危険手当も乗せないとやっていられない。どうせ路銀にするのは最低限だけで残りはそっくり修道院にばらまいてしまうくせに、安く売るのは気に食わないたち(ヽヽ)なのだ。

 そこでソフィアは考えた。

 この宝物を一番高く買ってくれるのは、おとなり帝国の侯爵家だ。理由など分かりきっている、うちが王国でおとなりが帝国だからだ。その最前線が公爵と侯爵で年がら年じゅう睨み合っているからだ。互いに相手が邪魔で邪魔で仕方なく、隙あらば顔面に泥を塗りつけてやりたい気持ちでいっぱいなのである。

 そんなところに公爵家の家宝を持ち込んだら。

 高く売れるに決まっていた。

 といって、明日から「じゃあ帝国へ」とはいかない。

 公爵家と侯爵家は睨み合っているのだ。最前線に国境など存在せず、「ここよりこちらにお前らは住むな」を舌の代わりに剣に乗せて争っているだけだ。人が住めるように(こしら)えられた屋敷に忍び込むのとはわけが違う。国境を越えられるのは軍と、商人の隊列しかない。そして軍人ではない以上、ソフィアが国を渡るには商街道の関所を通るほかない。

 人相(かお)さえ割れていなければ、の話だ。

 だったら、ほとぼりが冷めるまで待てばいい。

 盗み出した宝物の価値は、公爵家の名が担保してくれる。対するソフィアは指名手配のことなど忘れられてから、ゆるりと帝国の地を踏めばいいのだ。

 なあに。別にその間、他のことができないわけでもない。とりあえず公爵家の手が届かないところで過ごしてみよう。ちょっと長いこと待つかもしれないが、旅をするにはいい期間だ。

 そう思った。

 その「ちょっと長い」を、

 ソフィアは三年と踏んでいた。

 公爵家は三代(ヽヽ)睨むつもりだった。

 そして、そんなことは露も知らぬまま。

 ソフィアは東へ向かい、

 アイリスに捕まり、


 ――ルーシアに抱きつかれている。

「……あの、そろそろ離していただけると、その……ありがたいのですが」

「むふ〜〜〜、やわらかぁい」

 ルーシアは、ソフィアの胸に顔を(うず)めていた。

 少女の姿(なり)でも大魔道士(アイリス)の器だ。

 だからだろうか。とんでもない膂力(りょりょく)を発揮してソフィアを捕まえている。このまま続けば身体が変な方向に曲がってしまうかもしれない。

 いちおう、ソフィアの修道服だってアルトラ・クシオンの神秘呪文で編み出されたものだ。まがりなりにも神誓品(レリック)である。が、戦や鍛冶に連なる神ならいざ知らず、こうなってしまえばただの布にしかならない。もはやルーシアのほっぺに「すべすべしてて気持ちいい」を供与するだけの存在となり果てている。

 修道服は防御能力を持たない。代わりに、二つの能力が備わっている。

 ひとつは暗視。

 神にはそれぞれの属する領域がある。アルトラ・クシオンの場合は「夜」だ。元から闇を見通せる種族であれば、あるいは違うものが備わっていた可能性だって……なくはない、と思う。けれどソフィアの神誓品(レリック)に備わっている領域能力は暗視だけだった。夜の眷属(けんぞく)が夜に動けないなんて格好がつかない、ということかもしれない。

 そしてもうひとつが、物体の収納だった。

 修道服の黒い布部分を扉代わりに、物体を異空間に収納することができる。異空間は数メイル四方の面積(ヽヽ)を持ち、奥行きや高さという概念がない。2メイルを超す長杖も直径数サイルの「面積」ひとつに変えてしまえるすぐれものだ。出し入れにかかる時間は一秒から。収納面積と実物の体積に応じて時間が延びる。たとえば紙きれ一枚をぺらぺらの断面で収納しようとすると数十秒かかる。よく使う道具は、できるだけ「面積」を費やしておく必要があるわけだ。

 ソフィアはたっぷり十秒かけて、公爵家の短剣を再び修道服の中から取り出した。

 聞くところによるとルーシアは冒険ものの創作が大好きらしい。ならばマジック・アイテムはどうか。冒険者たちが(うた)う財宝の代名詞と言ってもいい。

「ほ……ほ〜らルーシアさん、どうですか? とっても貴重な魔導具ですよ」

「――えっ! 魔導具!? ほんと!? ほんとだ! すごい! きれい!」

 覿面(てきめん)だった。

 全長たった50サイルの短剣である。ソフィアの手には軽い。めいっぱい腕を伸ばし、できるだけ身体から離してゆらゆらと揺らす。

 視線が釘付けだ。ルーシアはぱか(ヽヽ)っと口を開けて、身を乗り出して、目を皿のようにして観察している。抱擁(拘束)も緩んだ。これなら振りほどくのはたやすい。が、

「よければ差し上げましょうか」

「いいのっ!?」

 今度はこちらを見た。青い瞳にソフィアの顔が映る。しかし興味の根っこはやはり短剣らしい。誘惑に揺れる心のまま、ちらちらと視線が引っ張られている。

 一応、自分がこれから面倒を見ることになる相手だ。わざわざ悪い印象を与えることもない。ソフィアとしては、腕輪が残ればそれでいい。短剣ならば他ふたつよりずっと安い。長杖なら五倍から十倍、腕輪には最低でも三十倍の値がつく。効果が弱いわけではなく、単に、まつわるいわく(ヽヽヽ)が弱いというだけだ。それにしたって子供だましには高価過ぎる代物だが。

 そのほうがいい。

 ルーシアだけでなく保護者(アイリス)の存在もある以上、自分が盗んだものにも頓着しない姿勢を見せておくのは有効だと判断した。

 ソフィアはにっこりと笑みを浮かべて、

「構いませんよ。この剣も、誰かに使っていただいたほうが喜ぶでしょう」

 その言葉が、最後の(たが)を外した。

「やったあ!」

 ルーシアは飛びつくように短剣を抱き込み、いちど鞘に頬ずりをした。それから思い出したように、ソフィアに向かって花の咲くような笑顔で「ありがとうお姉ちゃん!」、短剣に向かって正座して「これからよろしくね」、そして、さっそく剣を抜い

 がちゃん。

「あれ?」

 ……がちゃん。

 抜けない。

 ルーシアは焦りを隠そうともせずに何度も剣を引っ張った。でも抜けない。そりゃあそうだ。いったい何をしているのだろう、と思って、

「魔導具ですから、魔力を込めないと抜けませんよ」

 がちゃん。

 今度は剣が落ちる音だった。

「魔力を……込める……?」

 ルーシアは、愕然とした表情でソフィアを見た。

(そういや、魔導具のことは教えてなかったな)

 頭の中にアイリスの声が響く。本当に、別人が喋っているみたいに聞こえる。ソフィアは内心で驚きながら、

(魔法は使えるのに、ですか?)

 至極当然のことを()いた。

 つもりだったのに、

(あん? それと魔導具が使えないことになんの関係があんだ)

 心底わからない、という感じだ。六千年前とは常識が違うのかもしれない。

(だって、まずは魔導具で練習するでしょう? 魔力の認識と制御は、魔法使いになるなら必須の才覚です)

 ほお、とアイリスがうなる。反応はそれだけだった。

 ソフィアは無性に心配になって、

(あの、では、ルーシアさんにはどのように教えられたのでしょう)

(はあ? そんなもん決まってるだろ。腹にグッ、だよ)

 えっ。

 言葉が出なかった。アイリスは意味が伝わっていないとでも思ったのか、

(へそに力を入れてな、でかい声で詠唱を)

「――そんなことをしたら死んでしまいますっ!!」

 思わず立ち上がっていた。

 がちゃん。

 また短剣が落ちた。

 魔力を込めるってどうやるんだろう、と眉根を寄せていたルーシアだった。驚いたように短剣を見つめ、それからソフィアを見上げて、

「し、死んじゃうの……?」

 空色の瞳が不安げに揺れている。

 ソフィアはすぐさま屈み込み、ルーシアと目線を合わせて、

「大丈夫ですよ、ルーシアさん。アイリス様のやりかたでは危ない、というだけです。なにしろ魔法の全盛期ですからね。そんな時代を参考にしたら、いまの人間はみんな死んでしまいます」

 じゃあ、とルーシアは短剣を拾い上げる。

「練習すれば、私も使えるようになる?」

「もちろんです。――ふふふ、実は、こう見えてわたくし、修道女(シスター)なんですよ」


 修道院で育つのは聖職者だけではない。

 現代、平民上がりの魔法使いは、ほとんどが修道院出身だ。

 理由は簡単。魔導具である。

 魔導具とは、マジック・アイテムの中でも魔導(スイッチ)()(こう)を持つものをいう。ようするに外部から魔力が流れないと動作しない。ルーシアが剣を抜けなかったのもそのせいだ。が、そんなことは些細な問題だった。

 なによりもまず、魔導具はマジック・アイテムなのだ。

 貴族でも宝物として扱う代物である。そう簡単には手に入れられない。となれば魔力を扱う練習ができない。平民から自然発生できる魔法使いは、極々ごく一部の天才だけになってしまう。

 それでは困る、と考えた連中がいた。

 バリエーションは求めない。総合力が低くても構わない。必要なのは最低限の火力だ。ただ、ただ「魔法を使える人間を増やす」、それだけを目的とした養成。彼らが目を付けたのは神官たちだった。もちろん魔法使いとしてではない。そもそも増やそうとして増えるものでもない。神の恩寵(おんちょう)を人為的に(たまわ)る方法など存在しない。

 しかし、神官を利用して魔法使いを増やす、これならできる。

 貴族たちが求めたのは、神秘の呪文がもたらす神誓品(レリック)だった。


第三(サード・)呪文(スペル) ダーク・アピアランス」

 ソフィアの手の中に、ひとつのメダリオンが現れる。

 あえてアイリスの語彙(ごい)で言うなら、「真っ黒な金メダル」だ。形状はコインと同じで、直径は手のひらの横幅くらいで、表には神の肖像が、裏にはその印章が描かれている。ということが分かっているのは、ソフィアだけだ。

 メダリオンが現れた瞬間にルーシアの表情(かお)が引きった。言い知れぬ不安感に襲われているのだ、と思う。ソフィアも最初はそうだった。

 きっと「メダリオン」であることさえ認識できていないだろう。空中にぽっかりと穴があいたように見えているはずだ。物体が一片の隙もなく光を完全に吸収すれば、わかるのはいちばん外側の輪郭だけである。(ひる)の瞳に映るのは、不気味な黒い円形だった。

 闇降る(ダークボーン)メダリオンという。アルトラ・クシオンがもたらす神誓品(レリック)のうち、初歩中の初歩、修道服よりも前に手に入れる、もっとも基本的なアイテムだ。

「どうぞ、ルーシアさん」

 メダリオンを差し出す。反応は予想通りだった。

 ルーシアはびくりと肩を震わせ、「黒い穴」を本当に穴があいてしまうくらいに凝視して、

「……か、噛まない?」

 本当に「穴」に見えているだろうか。

 逆に不安になる。とはいえ、この際どういう受け取り方をしているかは関係ない。ソフィアは爪の先でメダリオンを叩く。こつこつと硬質な音が返ってくる。当たり前だ。神が造ろうがメダリオンである。

「ただの大きなコインですよ。見た目はおそろしいかもしれませんが、それだけです。ルーシアさんも持っている金貨や銀貨を、ちょっと大きく、重くしただけです」

「ほんとに? ほんとになにもしない? 痛くない?」

 臆病な顔をしたルーシアの質問に、ソフィアは嫌な顔ひとつしない。

 落ち着いた声で、安心させるように、

「痛くないですよ。お金を払うときも、おつりをもらうときも、ひんやりとしているだけで痛くはなかったでしょう? コインですから、これも同じです」

 ルーシアがうなずいた。

 では、とソフィアはじつに演技がかった咳払いをして、

「はい、お客様。おつりですよ」

「あぅ。……ありがとう」

 さすがに給仕から受け取るときと同じ手つきでとはいかなかった。

 が、ようやく、ルーシアの手はそろそろとメダリオンに伸びて、

「ひぅ、」

 触れた。

 指先が、輪郭をなぞった。

「……ほんとだ」

 触れてしまえばコインと変わらない。ソフィアはすかさず説明を加える。

「このメダリオンは魔導具です。つまり、魔力を流しているあいだだけ、マジック・アイテムのように効果が出ます」

 神誓品(レリック)は構造と理屈こそ神秘のそれだが、魔導具にきわめて近い「魔力を込めることで効果を発揮する」特性を持つ。そして、闇降る(ダークボーン)メダリオンは最初の(ファースト)神誓品(・レリック)の例に漏れず、作り出した神官以外でも扱える。

 基礎の基礎にはうってつけだ。

「いまは見えないでしょうが、表と裏に、わたくしが仕える神の肖像と印章が描かれています。魔力を込めてそれを確かめ、これから渡す紙に書き写してください」

 ――それができるまで、魔法はおあずけです。

 アイリスにさえ有無を言わせぬ口調で、ソフィアは言った。

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