安全地帯
男の隠れ家は高層マンションの地下にあるシェルターだった。高層マンションと言っても10階程度しかなく、10階には焼け焦げたような跡があり、それより上は無くなっている。
「ここら辺じゃシェルターがある建物はここぐらいだ。」
そう言って男はハッチを開けて梯子を下りていく。
俺もそれに続いて下りていく。3メートルほどと地面に着いた。上を向くとナナも梯子を下りようとしていた。
「最後にハッチを閉めてくれ。」
それを聞いてナナはハッチを閉めようとしたが、重くて動かせなかった。
見かねた俺がハッチを閉めるためにもう一度梯子を上ることになった。
梯子を下りるとナナが申し訳なさそうにしていたので頭をポンッと叩いた。
男はさらに鉄の扉を開けて奥へ入っていった。俺とナナもそれに続いた。
男は扉の先の小さな部屋で白いカッパのような服を脱いでいた。そこで初めて男の顔を見た。
男は色素の薄い茶髪のような髪色で、長さがそろっていない短髪だった。あごには無精髭が伸びており、頬はコケている。
「あんなところで人と遭遇するとはな。もう人間はいないと思ってたが…。」
男は俺たちの方を見ながらそう言った。
「俺の名前はタムラ レンだ。お前は?」
男は唐突に自己紹介をしてきたので俺もとっさに返す。
「俺はアキラ…。こっちは妹のナナ。」
ナナの方をちらっと見るとナナは俺の一歩後ろに隠れている。
「腹減ってるんだろ?飯にするか」
白い服やガスマスクをロッカーに押し込んで、入口とは反対にあるドアを開けようとした。
「どうしてそんなに良くしてくれるんだ?」
俺はタムラにずっと思っていた疑問を投げかけた。
タムラは振り返るとふっと笑って
「お前らみたいな子供がさまよってたら助けたくなるのが普通だろ?」
そう言って扉を開けて奥に進んでいった。
扉の奥は大きな部屋があり、使い古されてはいるが、机やソファなどの家具が揃っていた。タムラは飯を用意すると言って暗い部屋に入っていった。
俺とナナはどうしたらいいか分からず、立ちすくんでいた。
倉庫から出てきたタムラは、缶詰やビスケットのようなものが入った袋を両手にいっぱい抱えていた。「よいしょ」
両手に抱えていた食料を机の上に置き、
「変なものは入ってないさ。多少賞味期限は切れてるがな。」
と言って、ハハッと笑いながら近くにあった木箱を引っ張ってきて、その上に腰かけた。
「早くしないと食っちまうぞ。」
タムラは缶詰を開けて食べ始めた。
ゴクリ…。
勝手に唾を飲んでしまう。
俺は食欲に勝てなかった。机の上に置かれた缶詰を適当に掴んで開けて中の肉団子みたいなやつを頬張った。ナナもそんな俺を見て缶詰を開けて頬張っていた。
久しぶりに満腹を味わった。その日はタムラが貸してくれた毛布にナナと二人でくるまって眠った。久しぶりに深い眠りにつくことができたような気がした。