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男が森の中を歩いている、目的の町、アイザルに行くには、この森を抜けた方が早いからだ。
道は多少の整備はされているので、俺には充分である。
汗が滴る、思いの他暑い、地元よりだいぶ気温が高いな、土地柄かそれとも精霊のせいか。
少しだけ嫌な予感がしてる、アイザルに近づくに連れ
精霊がざわついている気がするのだ。
こういうときの予感はだいたい当たるものだ。
予感は、その後すぐに現実のものとなった。
「わー! 助けて誰か」
子供の叫び声が聞こえる
声の方に向かうと、少年が木の化け物に襲われている、木の精霊獣だ。
精霊はこの世界に満ちている大いなる力だ、時に人を助け、時に牙をむく、そのさいたるものが精霊獣だ。
こんな町の近くで見かけるとはな。
木の精霊獣が草木を伸ばし、少年に襲いかかる。
俺は精霊に願う、力を貸してくれ。
俺も木の精霊の力を借り、近くの草木から枝木を伸ばし、精霊獣を食い止める。
どうか、おさまってくれ。
力はいらない、精霊を通して精霊獣の力の向きを変え、そしておさめてもらうだけでいい。
まともにぶつかったら、精霊獣に太刀打ちなど俺にはできないのだから。
精霊獣を抑えている間に子供の側による。
「さあ、今のうちに逃げるぞ、少年」
少年が俺の方を見るが、頷いて走り出した。
ふー、ここまでこれば安心だ。
森を抜け町が見えてきた。
「助けてもらって、ありがとうございます」
少年が頭を下げる。
「どういたしまして、でも何であんな所に一人でいたんだい、危ないじゃないか」
俺は注意を兼ねて少年に聞いてみる。
「実はですね、精霊騎士団が精霊獣を倒す所を見てみたくて森に入ったんですが、精霊騎士団が見つからず、精霊獣に出会ってしまって」
「精霊騎士団?」
聞き慣れない単語が出てきた。
何となくは想像つくが、あまり考えたくない想像ではある。
「精霊騎士団は、アイザルの市長が設立した精霊を討伐するための騎士団なのさ、カッコいいんだよ」
精霊獣を討伐するか、それはあまりよろしくないんじゃないかな。
精霊獣と精霊は本質的に同じものだ。
精霊獣を討伐すれば精霊の乱れに繋がり、また新たな精霊獣を生み出す悪循環になってしまう。
ただこれは今ではあまり一般的な考え方ではない。
昔は精霊も、精霊獣も神聖な扱いだったが、今は精霊はただの資源、精霊獣は処理すべき害獣みたいな扱いだ。
その考えは間違いではないかもしれない。その面も一部あるだろう。
しかし精霊という力を人の思うがままに扱えるなどとは、人の奢りに思える。
これが俺の考え、いや家の家系の考えか。
しかしキラキラした少年の目を見ると何も言えなくなってしまう。
そうだな、俺の考えが間違ってるかもしれないし、騎士団の話しも詳しく聞いてみないと判断はつけれないな。
その後少年を家に送りながら騎士団の話しを聞いてみた。
話しを聞けば精霊騎士団は町の英雄の様だ。
精霊騎士団に憧れてるのは少年だけではないようだ。
「俺もいつかは精霊使いになって精霊騎士団には入るんだ、お兄ちゃんも精霊使いでしょ、さっきの凄かったもんな精霊騎士団に入れるかもしれないよ、あっ精霊使いなら精霊石持ってるでしょ見せて」
少年は興奮して矢継ぎ早に話してくる。
「精霊石か、いいよ」
精霊石は精霊と繋がるための道具だ、これがないと精霊使いは始まらない。
というかこれがあれば一応だれでも精霊を使える。
俺は指輪にしている精霊石を少年に見せる。
「えっ!こんなに小さいの、精霊騎士団のは杖にでっかいのが付いてるよ」
少年は目を丸くしている。
「まあ、そうだね精霊を討伐しようとしたら、そのくらいいるかもね、俺にはこれで充分、というか大きいのは高くて買えない」
そう精霊石は高いのだ、それに精霊石も使い放題というわけでない、力を使いすぎれば壊れて買い直さないといけない。
「そうなんだ、でもこんな小さいのでよく精霊獣をとめれたね」
「まあ、それはちょっとしたコツがあるんだよ」
俺は少し自慢気に話してしまった。
実際にあれができる人間は少ないだろう。
というか俺しか知らない。
そんな事を言ってると少年の家に辿り着いた。
「ありがとうお兄ちゃん」
少年が笑顔でお礼を言ってくれた。
気分がいい。
「そういやお兄ちゃんの名前は、俺はレンカだよ」
「俺は、コウ、じゃあなレンカ」
俺は名前を言うとレンカに分かれを告げる。