07 (子育てツラいよ)〇
1706年秋…冒険者ギルド。
「うわあ…子育てってキツイな…」
テーブル席で倒れているの クラウドを別のテーブル席で作業しているナオが見る。
1年程前に 第1子である男の子であるハインが生まれ、現在クラウド商会と保育院を掛け持ちで仕事をしている。
「クラウドは良くやってる。
メス同士のギスギス感が無くなった。」
ロウがハンバーグとサラダが 乗せられた 料理皿をクラウドのテーブルに置く。
「よくやってる~」
ロウの育児嚢から顔だけ出しているハインが言う。
ロウは 子供が生まれた事で 食肉解体の仕事は一時 休業し、今は保育士と冒険者ギルドのウエイトレスの掛け持ちをしている。
そして、ロウとクラウドの子供のハイン…生後1年…。
産まれた時は手の平サイズだったハインだが、重量が3㎏まで成長し、髪の毛も整い 最近は周りが喋っている言葉を意味は まだ理解していないが オウム返しする事が多い。
出産時には 産声すら あげられない程、声帯器官が発達していなかったのに、驚異的な成長速度だ。
ハルミが言うには 袋の中にいる期間は1年で、体重3㎏を越えると外に出始めるとの事…。
つまり そろそろ袋から出る時期になる。
「何がキツイんだ?」
オレがクラウドと同じ テーブル席に座る。
「派閥や階級かな…。
優秀な結果を出す男とヤって子供を産むと階級が上がるらしい。
それで、優秀な血を持っている子供は 階級が上の女が育てる。
そうすると 優秀な子供を育てた実績が手に入る。
これで更に階級が上がる。
階級が下だと、成績が低い男の 子供しか育てられない。」
「うわっ血統主義か…。
そこは 男も女も変わらないんだな。
それで、ハインは?」
「ハインはクラウド商会の社長の私と、家畜全般のエキスパートで、唯一 生殖可能な神のロウの子供だからな。
ロウの階級が いきなり一番上になって 既存の派閥を破壊しちまったから大変な事になってる。
で、階級が下の娘が私との子供を欲しがるんだよ。
最近 アプローチの数が半端じゃないと言うか…。
私も軽いノリでも互いが好きだと思っているならヤれるんだが、女側が 自分の階級を上げる為のトロフィーとしか見てくれないからな。」
「でも、子種の独占も危ない。
私がクラウドの子供を産む度に階級が上がって行くから…。
それに 私は子供を産める数が少ない。
クラウドの血を持った子供が増えるなら、私はそれで良いと思う。
もちろんクラウドが交尾を拒否しているから『無理やりはダメ』になるんだろうけど…。」
「まぁ娼館に行く感覚で ヤってれば それなりに楽しいのだろうけど、今度は私が男に恨まれる。」
「旦那の年収自慢は、集団育児にしても治らないか…。
それで、男側は?」
オレはため息を吐きつつ言う。
「子供を残せているかは 別として 女に不足している様子は ないな。
ただ、娼館が少し不自然しい。」
「?」
「普通なら借金とか 金絡みで身売りする事になるのが大半なんだが、男を見つける場になっている所だな。」
「そりゃあ 金に不足 してない だろうからな…。」
つまり、金を稼ぐ手段から出会いが目的になって来ているのか。
マッチングアプリや出会い系サイト的な役割をしているのか?
オレは 経済が成長して 裕福になったら、娼館が潰れるかもしれないと考えていたが、如何やら問題 無いみたいだ。
多分 ジガが手を回したのだろう…。
「それで、私は如何すれば良い?」
ロウがオレに聞いて来る。
「そうだな…階級が下のヤツに積極的に声を掛けて見て、ロウの派閥に取り込む事だな。
で、そこが一番安全だと周りが理解すれば自然と寄って来る。
そこら辺のコントロールは、クラウドに聞けば出来るか?」
「まぁな…あ~子育てってツライな…」
「それって子育てじゃないから。
オレが想像していたより マシの方だよ…。
オレが生身の時にいた国じゃ、男の保育士は 幼女に手を出す 性犯罪者予備軍として扱われるからな。」
「うわっ…それって女と一緒に保育士の仕事が出来るのか?」
「難しいね…男の失業率も高いし、てっきりクラウドも そんな感じになると思っていたんだけど、今までオレの耳に 女絡みのトラブルが 入ってこないって事は、上手く立ち回っているんだろう?」
「まっ私は商人だからな…。
人間関係を円滑にして誰にも恨まれないのが一番損が無い。」
「なら、そのまま立ち回ってくれ…仕事を辞めるなら止めないけど…。」
「いや…やって見るよ。
ロウがいるしな…」
クラウドがロウの肩に手を乗せる。
「はい…おめでとさん。
人の命は短いから 今を楽しく生きろ」
「分かってるよ」
「ハインも~」
「オマエ分かって言ってるのか?」
「??」
「ロウ…彼氏との会話は良いけど、3番さんに料理を運んで」
「おっ…分かった。」
ロウが食堂のおばちゃんに そう答えて料理皿を受け取りに行き、オレ達は それぞれの仕事に戻るのであった。




