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⊕ヒトのキョウカイ02⊕【未来から やってきた機械の神たちが造る 理想国家₋ユートピア₋】  作者: Nao Nao
ヒトのキョウカイ2 4巻 (Rabbit Wars-ラビッド ウォーズ-)
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06 (自由電子レーザー プロジェクター)〇

 1706年秋…硫黄の村の学校。

「先生…『(いただ)きます』と言う食事の前の言葉なのですが、これはエクスマキナ神への聖句(せいく)なのでしょうか?」

 生徒の1人がフック()に聞いてくる。

 確かに この文化は この国の独自の文化か…。

 とは言え これは ちょっと難しい。

聖句(せいく)とは 少し違う、と言うのもエクスマキナは、道具や知識を人に(さず)けてくれるが、食料はくれない。

 意味としてはLet's(レッツ) eat(イート)になるのだろうが、この(やく)はナオに怒られた。」

さあ(Let's)食べよう(eat)ですか…使うシチュエーションとしては合っていると思いますが…。」

「『頂きます』は『命を頂きます』本来の(やく)にするならI(アイ) will(ウィル) take(テイク) your(ユア) life(ライフ)になる。」

「私はあなたの命を頂きますって殺人予告ですか?」

「実際、食べ物になる動物を殺して私達の血肉にしている。

 感謝の対象は 神では無く、命をくれた自然や動物だな。

 Thanks(サンクス) for(フォー) the(ザッ) food(フード)…食べ物に感謝が一番近い」

「なるほど では『ご馳走様』は?」

Thanks(サンクス) for(フォー) the(ザッ) meal(メアル)

 食事をありがとう になるんだが…こちらは、調理師に対する感謝の言葉だ。」

Thanks(サンクス) to(トゥ) the(ザッ) cook(コック)ですか?」

「そう…重要なのは 感謝の対象が神では無く、人や動物だと言う事だ。」

「なるほど…ありがとうございます。」

「それにしても 細かい所に気付くと言う事は トニー王国語を話せるように なって事だな…。

 よし、時間だし 今日の授業はこれで終了する。

 お疲れ」

「ありがとうございました。」

 私は コンテナハウスの組み合わせで出来た教室を後にする。

 トニー王国に来てから3年…。

 ここに来た時は言葉が不自由だったので、万国共通である数学を子供達に教えていたが、今では私がトニー王国語を教える立場となっている。

 そして、私は ここで 私的な研究も続けさせて(もら)っている。

 この国の宗教『エクスマキナ』教では 特許などの技術の独占(どくせん)する行為は、技術の発展を停滞させる行為とされ 禁止されている。

 なので 私が研究、開発した物を 国に高額で買い取って(もら)い、その技術を必要としている組織に国が無償(むしょう)で提供される。

 その為、新技術の為に必要な情報が非常に集まり(やす)い…。

 トータルとしての儲けは あまりないが、研究者としては 非常に有難い環境だ。

「あっフック先生…荷物が届いてますよ」

 冒険者ギルド、硫黄の村 支店に入ると職員が言う。

「来たか…」

 クラウド商会は 各村へ バギーを使った物資輸送をしていて、最近は手紙や荷物の配達もしている。

 そして、その受取先が各村の冒険者ギルドだ。

 届いたのは ブラウン管に使われている電子銃と その設計図だ。

 先日、ブラウン管ディスプレイの仕組みを聞いた私は 研究の為に発注を掛け、設計図と共に無償提供された。

 早速、電子銃と設計図が入った箱を冒険者ギルドから、川の近くにある私の私室(けん)研究室に向かう。

 研究室は コンテナを2つ連結してある為、以前私がいたケンブリッジ大学の研究室より広い。

 近くの川では 大量のマイクロ水力発電機が発電しており、川の無い所では 200m程地下に掘られた井戸があり、半分程 水が入っている井戸の中に水力発電機が入れられている。

 温泉地帯の地下200mの地熱で温められた水が、水蒸気を作り 水力発電機を動かして電力を発生させる。

 水蒸気は天井にある先が細くなった屋根に当たり、外気で冷却されて再び、地下に落ちて行く。

 温泉地帯の地熱を利用した 地熱発電だ。

 これで川の近くで無いと発電が出来ないと言う制限を破る事が出来、私達が住める範囲が(さら)に広がって行く。

「よっ…レーザーを作るんだろ。」

 私の隣の家に住むジガが言う。

 彼女はライムライトに替わる新たなライトの研究をしている。

「ああ…実験の機材に必要だからな。」

「手伝うよ」

「助かる…」

 ガラスに 硫黄の村の周辺で取れた銀を使った 銀メッキ、銅メッキ ガラス塗料を塗って作った鏡を作り、中心部に小さな穴を開ける。

 穴の空いた2枚を合わせ鏡にして、大量の永久磁石を2列でS極、N極を交互になる様に配置し、それをガラス繊維の箱に入れて筒の状態にする。

 そして、入り口には電子銃…出口には少し距離を置いてブラウン管の画面を設置する。


 計算上で結果ではこれで良いはず…。

 とは言え、その計算も まだ実証されていない私の理論を使っている。

 私が計算が合うように都合の良い計算をしている可能性も捨てきれない。

 今回の実験は それが現実で起きるかの実証試験だ。

「それじゃあ、電気を流すよ」

「ああ…頼む」

 ジガがバッテリーの(つま)まみを回して出力を上げる。

 電子銃から放たれた電子が中心のスリットを通る。

 筒中の磁石の中を電子が進む事で 確率の波 状態の光が生まれ、容器内で反射を繰り返して確率の光同士で (さら)に衝突を繰り返して行く…と言う無限連鎖が起きる。

 つまり、ごく短時間ではある物の 一時的に光を()められると言う事だ。

 そして スリットを抜けた時には 確率が一点に収束(しゅうそく)して真っすぐな光、レーザーとなり、蛍光塗料(けいこうとりょう)(はさ)まれたブラウン管の画面に照射され、点が表示される。

「映ったか?」

「来た…ゆっくりと出力を上げてくれ」

「はいよ」

 スクリーンに映し出された点が紫から赤色に変わって行く。

「色が変わった。

 やっぱり、色は光の波の強弱(きょうじゃく)で変わるのか…。

 よし、条件を変えて見て このレーザーの特性を見よう。

 もしかしたら、これで画面にカラー表示が出来るかも知れない。」

「おお、カラーディスプレイか…。」

 ジガがそう言って 紙を取り出し、私と一緒に必要な条件を書き込んで行った。


 ジガ(ウチ)が コレステリック液晶を避けて ブラウン管を進めたのは、フックにレーザーを作らせる為だ。

 記録に残っていたフックの資料では 量子力学の初期で(つまず)いていたが、実際のフックは 量子力学を高度なレベルで理解している。

 ならと、ウチは 彼の研究分野にあえて手を出さず フックに協力している訳だ。

 ウチ的には レーザーをコントロール出来れば それで良かったのだが、フックが 作ろうとしているのは レーザーディスプレイだ。

 液晶ディスプレイを使わず、レーザーディスプレイが主流の社会か…。

 それは それで面白い。

 ナオ達にも言って 開発計画の軌道修正をさせるか…。


 そして 3ヵ月後の1707年、年明け…。

 研究室には改良されたレーザー発振器があり、壁の硫酸カルシウム(石膏)塗った白いガラス繊維の布にレーザーを当てる。

 壁のスクリーンに 虹色の横線と縦線を使った 様々な模様が映し出されている。

「やっと出来ましたね…。」

「ああ…結構、色を出すのに苦労したな。」

 通常は間に カラーフィルター(はさ)んで色を出す所だが、フックは 光の周波数である電磁波を変更する事によって この模様(もよう)を表示させている。

 まだ制御の精度の問題で 細かい色合いを出せてないが、精度が上がれば、原理上 可視光(かしこう)網羅(もうら)出来るだろうし、フックは気付いていないが、電磁波の周波数を操れるなら 長波にすれば 人には見えない電波になり、短波にすれば エックス線やガンマ線も扱える事になる。

 通信や電子レンジ、レントゲン撮影まで扱えるとなれば、非常に優秀な発明だ。

「さて…雪が融ける前に論文を書いて ()けたらアトランティス村に論文を出して 国中に広めよう…」

 今は1月でまだ雪が積もっている状態なので、トニー王国は例年通り 物流を停止させて 1ヵ月程の冬休みになっている。

「ああ…ジガの論文も出さないとな」

 ウチの研究は ライムライトに変わる新しいライトで、白熱電球だ。

 仕組みは ()し焼きにした竹のフィラメントの両端から電気を流すと電気抵抗でフィラメントの熱が上がり、光り出すと言う単純な現象だ。

 ただ、竹のフィラメントの熱が上がると 空気中の酸素と反応して 一瞬で燃え尽きてしまう為、酸素がない状態にする必要だある。

 そこで、フィラメントを ガラスのケースの中に入れて 空気を抜いて真空にする事でフィラメントが燃えなくした。

 が、今度は内圧と外圧の差でガラスが割れやすいと言う欠点が露呈(ろてい)する。

 この対策として丸い球体のガラスケースにする事で 力の分散(ぶんさん)(はか)り、割れにくくして完成したのが、白熱電球だ。

 で、ウチの場合は より高純度の炭素である炭素繊維のフィラメントを使い、容器内は真空にせず、不活性(ふかっせい)ガス…つまり窒素(ちっそ)を容器内に充填(じゅうてん)させる事でフィラメントが燃え尽きる事を防いだ。

 この仕組みだと、ガラスの筒の形を自由に変えられるので蛍光灯(けいこうとう)などの形にも加工が可能になる。

 まぁこの技術は『ジョゼフ・スワン』と『トーマス・エジソン』の白熱電球を追加の実験をしつつ アレンジした物で、ウチが発明したとは言えないのだが 論文を書いて 国中に広めないと この技術は死ぬ事になる。

 特許取得に(うるさ)いエジソンだが流石(さすが)に産まれる前の発明までは 文句を言わないだろう。


 雪が()けた春…。

 2人の論文は クラウド商会の郵便配達を利用してアトランティス村の冒険者ギルドに投書で送られる。

 受取人は『ぎじゅつ かいはつ ぶ』だ。

 ここはトニー王国での技術を全部集めて 実験 開発をしている所で、優秀な人材が集中している。

 ここで まとめられた技術は その技術を必要としてるトニー王国の各企業の元へ行き、(さら)に最適化されて製品になる仕組みになっている。

 参加しているメンバーは 色々といるが、トップは ナオとクオリアだ。

 早い話、ナオとクオリアの無茶と思える研究開発を手伝ってくれる部署で、メンタルが強い猛者達(もうじゃたち)が集まっている。


 論文は1日でアトランティス村に届き、1日で論文の評価や方針を決め、次の日の昼に冒険者ギルドに手紙が届き『詳しい説明が聞きたいので 必要機材を まとめて来るように』と招待状が送られ、ウチとフックはバギーに乗ってアトランティス村に向かった。


「よっ久しぶり…」

「直接会うのは半年ぶりか?

 ジガは ずっと硫黄の村にいたからな…」

 冒険者ギルドに入って来た ジガにナオ(オレ)が答える。

 ジガは 新しく来た住民達が武装蜂起(ぶそうほうき)を やらかさない様にトニー王国 言葉や習慣、法律などの国民としての教育をしてる。

 具体的には、

 ①既存の神を捨て エクスマキナ神を信じよ。

 ②自衛、他衛以外の目的で人を殺しては ならない。

 ③双方合意の無い性行為を しては ならない。

 ④物を盗んでは ならない。

 ⑤嘘をついては ならない。

 の5つで、モーセの十戒(じっかい)が 意外と治安に対して的を得ていたので、アレンジして採用している。

 ジガの定期報告だと、このルールを守りつつ 大人しく仕事をしている との事で、そろそろ 他の村の住人とも 交流を増やして見て 上手い所 同化させて見ても良いかもしれない。

「それで 論文の内容なんだが…実演 出来るか?」

 オレはフックに聞く。

「大丈夫だ。

 ちゃんと持って来ている。」

 フックがバギーの荷台から降ろした物は 両手に抱える位の大きな箱で、()き出しの電極とカメラのレンズが付いている。

 川の水力発電機から流れる過電流を防ぐ為に 間にバッテリーを入れ、それとは別に基板を ワニクリップの付いた電線で次々と繋いで行く。

 電線は炭素繊維を使い その上からガラス繊維で被覆(ひふく)された物になる。

 コイルに使う為の銅線は 磁力を発生出来る銅しかないが、電気を伝える電線では、炭素繊維の方が銅に比べて2倍程 効率が良く、未来では主要な電線の素材だ。

「まだ、記録出来る技術が無いから 基板で入力した一枚絵になるんだが…」

 そう言い、フックは電源を入れる。

 壁に映し出されたのは、虹色の七色が横に向かって光っている画面で、虹の中に様々な模様(もよう)が組み込まれている。

 オレの目を高フレームモードで見て画面を見ると、光の周波数の切り替えと光のオンオフを高速でやっていて、映像を映し出している基板は ブラウン管の基板を流用した物だと分かる。

 色もちゃんとカラー表示されていて ピントが合っていないのか 多少ぼやけては いるが、本体サイズもブラウン管に比べて小さく、プロジェクターとしては 十分な性能だ。

「これ基板で書いたのか?」

「ああ…こちらはジガにやって(もら)った」

 フックが答える。

 外付けされている基板は 画像を表示をする為の命令を基板と銅線で再現している物だろう。

「白黒になるがキーボードも使えるぞ。」

「となるとニューロ型にも繋げるのか…。

 よし、取りあえず この技術を200万トニーが買うから こっちの技術者に教えてくれ。

 教える報酬は別払いで払う。」

 今の価値だと 散財(さんざい)しなければ 月5万トニー程で快適に暮らせるので、40ヵ月…3.3年分の収入になる。

 まぁ3年後には 物価の上昇もしているだろうが、研究材料などの経費が全部こっち持ちの状態なら十分な金額だろう。

「分かった。

 それとニューロ型をくれないか?

 次の研究に役立てたい。」

「まぁ もうそろそろ、次の試作機が出来るから、データさえ写しちまえば いらなくなる んだろうけど。

 精密部品の(かたまり)な上、完全に手作業だから作るのに3ヵ月は掛かるんだよな…」

「とは言っても、次の試作機は量産用の設計だろ」

 ジガがオレに言う。

「あれを量産と言うならだけど…。」

「ナオ…次の試作機が出来たぞ…」

 クオリアが冒険者ギルドの中に入って来て言う。

「あっ来た…コレが量産型だ。」

 オレが外に出て クオリアが乗って来たバギーの荷台に指を差す。

 そこにあるのは、荷台に乗せれたコンテナハウスだ。

「デカイな…。

 これが全部ニューロコンピューターなのか」

 フックがコンテナを見上げる。

「そっ…小さくする事を諦めて、手作業が出来る範囲で大きくした試作機」

 中に使われている材料である半導体を除けば、ニューロコンピューターのセル自体は単純な構造だ。

 大きくすれば 特別な技術がいらないので、人海戦術を使って大量生産も出来るだろう。

 まっそれを買ってくれる需要(じゅよう)が無いのだけれど…。

「だが、大型化した事で 扱えるセルの文字数も容量も飛躍的に上がっている。」

「512セルだっけ?」

 セルはニューロコンピューターの脳細胞の事で、これが多ければ多い程複雑な演算が出来る。

「そっ…これで、3D処理が出来る。」

「使う側にとっては 有難いんだが…いくらかかったんだ?」

「500万トニー位だろうか?

 初期のスパコンの開発費と考えるなら かなり安いぞ。」

「プレステ2が500万か…」

 まぁ…この国は銀行から無制限に融資(ゆうし)をして(もら)えるので金に不足する事はないのだが、マンパワーが(けず)られて行くのは結構な問題だ。

「小型化すれば もっと高性能で安くなるんだが、人の手では無理だからな…。

 おっそれは、ジガが言っていたプロジェクターか?」

 クオリアがフックが作ったプロジェクターを見て言う。

「ああ…自由電子レーザーのプロジェクターらしい。

 名前までは考えて無かったんだが…」

 フックが言う。

「ふむ…自由電子レーザーか…良いな…。

 次の課題はスペックは そのままで 小型化だな。

 レーザーを操れるなら 製造の自動化も出来る。」

「レーザーマシリングセンターか…。

 処理能力は足りるか?」

 オレは少し考えてクオリアに聞く。

「ああ…十分だ。

 ナオには また教育を頼む。」

「はいはい…今度は もっと早くなると良いんだけど。

 それとフックが旧型機を欲しいと言っているんだが?」

「ああ…使ってくれて問題無い。

 アレが有れば十分だ。」

「それでウチの電球は?」

 ジガが言う。

 おっと…レーザーディスプレイが画期的で すっかりと忘れていた。

「あ~…しばらくは、硫黄の村の照明を()えて テストしてくれ。

 今、工業村は電力不足になり掛けていて 川の拡張工事中だ。

 水力と地熱が使える硫黄の村から 電気を引っ張って来れれば 良いんだが…」

「それには電線を作らないと行けないんだよな…。

 分かった…硫黄の村を電化させて見る。

 電線の設置は それからだな…。」

 ジガがオレに答える。

「よし…自動化が見えて来たな。

 それじゃあ…失業率90%を目指して頑張ろう」

「「お~」」

 笑顔で言ったオレの言葉に ジガとクオリアがそう言い、それぞれの作業に戻る。

「失業率90…何をやるつもりだ?」

 こちらの意図が分からないフックが言う。

「ん~働かなくて済む社会?」

 オレはフックにそう答えた。

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