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⊕ヒトのキョウカイ02⊕【未来から やってきた機械の神たちが造る 理想国家₋ユートピア₋】  作者: Nao Nao
ヒトのキョウカイ2 4巻 (Rabbit Wars-ラビッド ウォーズ-)
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05 (車検)〇

 月の裏側の賢者の海には、直径6km、長さ20kmの円筒形の形の構造物が地中に()もれており、側面には『Hope!!』と大きく描かれている。

「地球に降りた以来 戻って来なかったけど…問題無さそうだな。」

 ナオ(オレ)はホープ号の側面を見つつ言う。

『休眠状態とは言え、防御用のシールドは生きてる。

 隕石が降って来ても運動エネルギーの大半を無力化 出来るだろうからな…。』

 クオリアが言う。

 前方の隔壁(かくへき)が開いて中に入ると 隔壁(かくへき)が閉じてファントム達にガスを吹き付けられ、1気圧になると内側の隔壁(かくへき)が開き、ファントムは歩いて駐機場にたどり着く。

 ファントムは床に座って足をたたみ、手を後ろに向けて床に()め込まれている固定用のバーを(つか)む駐機姿勢を取り、背中のコックピットブロックを後ろにスライドさせて外に出る。

 人のサイズの2重扉の中に入ると、広い半円状の部屋になっており、クオリアが 椅子に座り、キーボードを何度か押すと、真ん中にある映写機から光が放たれ、壁のスクリーンに当たって 夜空が映し出される。

「さて…まずはハルミからかな…。」

「私は 精密検査を受けるだけ だからな。

 セルフチェックだと6年後まで普通に持つ。

 それじゃあ行って来る。」

「その次は、ジガか?」

「ああ…メインが イエローだから交換しないと行けない。」

 オレ達のバッテリーは4つあり、脳にあるブレインキューブに取り付けてある緊急用のバッテリー、胸の辺りにあるメイン、サブのバッテリー。

 そして、骨の中に仕込まれているバッテリーだ。

 ジガは その内、メインのバッテリーが この数年使い続けた為 劣化し、注意の意味のイエロー表示が出ている。

 この表示がレッドに行ったら即交換しないと、義体の運用に支障が出て来るレベルになる。

 今回はメインバッテリーを交換して 次は サブバッテリーがメインとして使われる。

「なら、その次は私か…」

 クオリアは 脚の筋肉が長期間の歩行によって消耗(しょうもう)し、イエロー表示になっている。

 まぁ130cmの身体で体重80㎏を支えている訳だから、脚にダメージが入り(やす)いのだろう。

「で、最後にナオか…。」

「ああ…身長の上げないと 行けないからな。

 手術はジガに頼む。」

「分かってる…ナオの造顔師はウチだからな。」

 オレの140cmの この身体では、160cm位の身長を基準に作られている この時代の色々な道具を使いにくいと言う 問題が発生している。

 2600年では すべての物が150cm想定で作られていたが、ここでは160cm基準で作られており、(たな)に手が届かないと言った そこまで問題ではないのだろうが、気になる 色々な不便がある。

 なので、10cmアップの150cmまで身長を伸ばす事になる。

 手術自体は割と簡単だが、見た目の違和感が出ないレベルで細かな調整があるので、オレの義体整備師であるジガの力が必要だ。


「そう言えば、意識のある手術って初めてだな…。」

 ナオが皮膚を剥がしているジガ(ウチ)に言う。

「まぁ毎回全損に近かったからな…。」

「義体化すると 能力が上がった万能感で無茶な事をする…だっけか?」

「そう…ナオは仲間の為に自分を犠牲にする傾向(けいこう)がある。」

「そりゃあ、脳以外なら 壊れても 取っ換えが利くオレとは違って、生身はそれだけで価値があるからな。」

 義体の背骨を外して胴体と下半身を分断…5cm分の背骨を追加して繋ぎ直す…次は脚だ。

「ウチらも人から目的を(もら)わないと さとり病になるからな。

 よっと…うん、ちゃんと上手に使っているな。

 負荷が最小限に抑えられている。

 後6年は十分に持つな」

「そりゃあ、ワームみたいな大規模戦闘は無いからな。

 自前の銃で全部 対処(たいしょ) 出来ているし…それに…。」

「それに?」

「神様は 指導者であって実行者じゃないだろ。

 あくまで国民の為の国で オレらはサポートする側。

 と言っても 建国してから6年も経つのに ケンカ以上のトラブルが発生した事が無いんだが…」

 脚は太いパイプと細いパイプが重なって繋がってるだけなので、伸ばして行けば良い。

「それは ナオの考えが正しかったと言う事だろ。

 『犯罪者は 金の不足から始まる』だっけか?」

「そっ…金が十分に無くて 節約の為に生活を切り詰めれば、物資不足や未来の不安からストレスが掛かり、次第に余裕が無くなって来る。

 余裕が無くなれば 八つ当たりなどの暴力が始まり、長期的な利益より今を生きる為の短期的な利益を優先する 場当たり的な行動を取る。

 と言う前提で 考えると犯罪者は 本当に悪いのか?と言う問題になって来る。

 本当に悪いのは 国民に金を不足させる政府じゃないのかってな。

 だからオレは 金や食事、家を不足させない様にしている。

 それが 結果的に 一番 安上がりな 治安維持方法だからだ。」

 脚の人工筋肉を取り外し、サイズを調節して筋肉を張り直す…よし…。

「と言っても 法執行機関が無いのも問題だろ。

 軍が警察を兼任(けんにん)するとしても、軍は必要だろ…」

「軍は国民だろ…その為に皆に銃を持たせている訳だし…。

 実際 300人しかいない状況で 専門の戦闘要員を確保 出来ない。

 90%失業するまで待ってからでも遅くない。」

「まぁそうなんだけど。

 90を達成するには 後10年位掛かるかな。

 っと良し、筋肉を繋ぎ終わった。

 皮膚を付け終えたら1時間は動けないぞ。」

「分かってる」

 人工皮膚を元の位置に戻し、切開した傷口は ワニクリップで(はさ)んで電流を流す。

 そうすると皮膚の自己修復機能が働き、癒着(ゆちゃく)が始まる。


「お帰り…アレ?パイロットスーツは?」

「大きくなったから 調整範囲外…。」

 いつものジャージ姿に着替えた ナオ(オレ)がクオリアに言う。

「オーダーメイドのパイロットスーツは 余裕がないからな。」

「そっ…今 ドラムに作らせてる。

 最大6時間だって…。」

「そうか…」

 真空中で活動する事を前提にしているパイロットスーツは、隙間(すきま)があると内圧と外圧の差で手袋が膨らみ、作業が出来なくなる事もある。

 その為、緊急用の宇宙服とは違い、パイロットスーツは ぴっちりサイズにする都合上、サイズの調整が利かないと言う難点がある。

「それで、ハルミは?」

「ハルミはドラムのお使いだ。

 月の砂を1トン程 欲しいらしい。

 今 ファントムで外に出ている。」

「レゴリスは 珪素、アルミ、カルシウム、鉄だっけ?」 

「そう…後、月の氷からも色々と取れる。

 ただ、炭素は(ほとん)ど取れない。

 取れれば 月の開拓もラクになるのだが…。」

「月の開拓は まだまだ先の話だからな。

 今 気にしても仕方無いだろう。

 オレは クルー用の個室に入って寝るから、後よろしく。」

 トニー王国を出たのが夜の7時位で、今が深夜の1時位だ。

 やっぱり時計を見ないと時間の感覚が分からないな。

 そう思いつつ、オレは個室に向かった。


 翌日は、ホープ号のチェックだ。

 ホープ号で使われている電気は 小型核融合炉から供給されており、普通 のコロニーに使われている核融合炉の燃料には 重水素と三重水素が使われているのだが、この核融合炉は 重水素とヘリウム3を使っている。

 重水素は月の極地点にある氷を持って来る事で熱で融かして水にし、電気分解する事で生み出せる。

 ヘリウム3は地球では (ほとん)ど存在しないが、太陽の大気には大量のヘリウム3が含まれており、太陽から飛んで来たヘリウム3が月面に大量に存在している。

 この材料を回収してホープ号内のプラントに入れば、後は ドラムが加工して燃料保管庫に入れられる。

 そして、プラントの稼働と同時に 小型核融合を動かして 船内の待機電源である大量のナノカーボンバッテリーの充電を始める。

 これは ホープ号の保守作業用のドラムの為の電力だ。

 (さら)に電力を無制限に使える今の内に大量のドラム達が 各物資の生成、製造が行われ、非常時の備蓄を増やしていく。

 そして24時間の充電の後、満充電になった事で 次々と生産施設が停止して行き、最後に核融合炉が停止し、再び ホープ号が待機モードに入った。

 帰宅は その1日後だ。


 4日間の宇宙旅行を楽しみ、オレ達は再びファントムに乗って月を出て地球に向かい 北大西洋の真ん中 少し上位の位置にあるトニー王国のアトランティス村の冒険者ギルド前に降りる。

「おっ戻って来た…早かったな。」

 外に出て来たクラウドが言う…隣には ウエイトレス姿のロウと腹から顔を出しているハインが見える。

「よっと…状況は?」

 オレはコックピットブロックを後ろに下げて飛び降り、ヘルメットを外してクラウドに言う。

「一応 各村に警戒は させていたけど特に問題無し…。

 ナオやクオリアがいなかったから 技術部からの報告書や書類が()まっている位だ。」

「あ~緊急の書類は?」

「無いな…向こうも ナオ達が いない事を知っていて置いて行ったから、ゆっくり片づけて大丈夫だ。」

「了解…」

 皆のファントムが量子光に包まれて 手の平サイズのキューブを残して消える。

 オレ達は それを拾いリュックの中に入れ、各部屋に戻って行った。

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