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⊕ヒトのキョウカイ02⊕【未来から やってきた機械の神たちが造る 理想国家₋ユートピア₋】  作者: Nao Nao
ヒトのキョウカイ2 4巻 (Rabbit Wars-ラビッド ウォーズ-)
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04 (ニューロ コンピューター)〇

 1706年夏…冒険者ギルド。

「ナオ ニューロコンピュターの試作品が出たぞ」

「おお…速いな…」

  両手に抱えられる位の箱を持ってクオリアがナオ(オレ)に言う。

「早くは無い…。

 何せ、まともな半導体を作るのに3年も()かった。」

「まぁ半導体って如何(いか)に素材の純度を上げるかが鍵だからな…。

 普通は10年研究だ。」

 今回の半導体には炭化珪素(シリコンカーバイド)が使われている。

 これは不純物(ふじゅんぶつ)を限りなく0にし、炭素と珪素を極限まで正確に1対1の割合で 混ぜ合わせた最強の半導体だ。

 コレを作るには 当然手術に使えるレベルでの無菌室(むきんしつ)必須(ひっす)になり、(さら)に品質を上げるなら 細かい雑菌や(アカ)、フケなどを どんなに綺麗にしても(わず)かに付着してしまう人を工作室に入れず、完全に無人化するのが 一番良いと言われている。

 まぁ手作業じゃ この領域には 到底 到達しない粗悪品(そあくひん)なのだろうが、半導体の出だしとしては 十分だろう。

「で、性能は?」

「ノイマン型と単純な性能 比較は出来ないが、多分 6桁の四則演算が出来る位」

「と言う事は セグメントゲーム位は ギリギリ 出来るか?」

「教育次第かな…。

 ノイマン型と比べて単純計算は弱いが、画像や音声なんかの処理能力は高いからな。

 と言う事で教育を頼む。」

「教育?…とにかく ディスプレイとキーボードが無いと始まらないな。

 ブラウン管があるコンテナまで 行くぞ…」

「分かった。」


 バギーでコンテナまで たどり着いたオレ達は、クオリアが持って来たニューロコンピュターを設置し、ブラウン管に配線を繋げ、電源を繋いで2台のスイッチを入れる。

 画面全体が点灯して 真っ暗になり、左上のアンダーラインが点滅している…。

 ニューロコンピューター側からの映像を ちゃんと映し出せている見たいだ。


「さて…教育の仕方(しかた)は?

 オレの頭もニューロコンピューターで出来ているってのに全然 知らないからな」

 オレが隣に座っているクオリアに言う。

「まずは足し算の基本、1+1=?」

「よし…って…3が出たぞ、コイツはバカなのか?」

「ああ…まだ バカだ。

 ×(バツ)キーを押してくれ…不正解と言う意味だ。」

「よし、次は…Zだな…」

「それも×だな…。

 それを当たるまで繰り返してくれ。」

「そもそも、コイツ…数字と文字との区別が付いてないぞ」

「数字も文字の一種だからな…。

 多分、コンピューター側が何かしらの屁理屈(へりくつ)をこねれば、3にもZにもなるのだろう。」

「適当に文字や数字を返している様にしか見えないけど…。」

「これは、人間の脳の細胞を再現した大規模集積回路(LSI)だ。

 仕組み自体は 私達の脳の2世代前の仕組みになる。

 ジガの脳は この方式だ。」

「そんな技術を使っているのに こんなに バカなのか…」

 少なくとも いくらスペックが低いと言っても ノイマン型と同じく 単純な計算は出来ると思っていた。

 が、これは計算機として使いものになるのか?

「技術は同じでも品質と集積密度が桁違いだからな。

 私達は 量子が干渉(かんしょう)するレベルまで集積密度が高くなっているから ここまで やれているだけで、完全に初期化された状態なら似たような物だ」

「う~ん」

 オレが しばらく×を押し続けていると2と正解の答えを出して来る。

「おっやっと正解…〇だな…」

「そう…2が安定するまで 同じ問題を繰り返して…。」

「はいよ…。」

 1回正解が出たから なのか、次の正解は前より早くなり、その次の正解は(さら)に早くなる。

 そして1時間程で答えが2しか出なくなった。

「12回連続で正解だな…その次は1+2だ。

 多分2と出るだろうな」

「あたり、2だな…はい×と」

 また間違えが増えて行く…コイツ『取りあえず2を出しおけば 正解』だと思っていたのか?

 今後は30分程で正解し、また答えが安定する。

「次は また1+1…2が出なければ、また1+1から…」

「4か…あ~やり直し。」

 だが、今度は すぐに2になり、1+2も3と出て正解。

「次、1+3…」

 また間違え続けるが…。

「確かに成長している…1回間違った答えは除外する様になって来たな」

 次は10分程度で正解を出し始めた。

「次、1+4…」

「おっ…1発で正解…あ~次はダメか…。

 ってオイ…0から順番に総当(そうあ)たりを始めたんだが…」

「正解の数が文字番号の始めに(かた)っていると言う事を学んだんだな賢い…正解が早くなるぞ…」

 1+5…クリア…1+6…クリア 1+8…クリア

「1+9は…と、+か…。」

「文字番号では、9の次は+だからな…。

 さて如何(どう)出る?」

 クオリアは抱える程に大きいサーバーを見て言う。

「0から総当(そうあ)たりを始めたな…。

 だけどコレZまで行っても正解は無いんだよな。

 今まで 答えが2桁になる問題は 出していなかったし…」

 予想通り、Zまで行って そこから数字や文字がバラバラになり、悩んでいる事が分かる。

 今までコイツは 最初から答えを1文字で出していた。

 と言う事は コイツの頭の中では 答えは1文字と考えている。

 いや…1文字以外の答えは存在しないと思っているのかもしれない。

「これ超えられるのか?」

 オレはクオリアに聞く。

「普通に超えられるはず…文字はフレームの問題で6文字以内になっているが、それ以外は特に制限を設けてない。」

「学習 時間が まだ足りないって事か?

 はぁ…辛抱強(しんぼうづよ)くやって行くしかないか…。

 そう言えば、このコンピューター 如何(どう)言う仕組みで学習しているんだ?

 計算機にしては あり得ない位に間違えるし…」

「ニューロコンピューターは大規模集積回路(LSI)1セルで、隣のセルとの通信、CPU、メモリを内蔵している。

 つまり、ほんの少しだが 1セルだけで 記憶や考える事が出来て、そのセルの膨大(ぼうだい)な組み合わせで全体として脳として機能している。」

「なるほど…単体でのセルは 付近からの情報や記録や処理して、別のセルに情報を送っているだけで、そのセルの集まりである ネットワークが算数の問題を解こうとしているとは思っていないのか…。

 中国語の部屋だな」

「そう、それで ナオがやっている×は、その間違った結論にたどり着いた シナプスの結合(けつごう)を低下させる効果がある。

 〇は逆にシナプスの結合を強化する役割だ。

 これを繰り返して行けば、〇を入力した配線が強化され、×を入力した配線は使用頻度の低下からメモリを消されて 新しいセルとして、〇を獲得出来そうなデータを入れられる。」

「重み付けか?ディープラーニングの」

「そう…っ…ナオ…」

「おお…突破した。

 これエラーじゃないよな」

 まだ正解では無いが『ZZZZZZ』と表示され、その次は6桁のランダムな文字列が表示される。

「複数の桁を使う事を覚えたな。

だが、1桁42文字で6桁だから54億8903万1744通りのパターンがある。

 総当り計算だと174年掛かるから実質、計算不可能だな。

 これが、ノイマン型なら処理を止めて スペックが上がるまで待った方が良いが…。

 ニューロ型なら×の頻度(ひんど)からある程度の学習が出来る。

 よし、桁数が減ったら〇を押してくれ」

「間違った答えだぞ」

「分かっている。

 でも、シナプスを強化するなら、少しでも近い答えには〇を付けた方が良い。

 向こうも何が良いのかの指標が無いからな。

 後で また足し算を教え直せば良い。」

「分かった。」

 それからは、ひらすら先が長い…。


 早朝からやり始めた この作業は、昼辺りで繰り上がり計算に入った事で、夕方を超え1晩ひらすら〇と×それにエンターを打ち続け…翌日の昼…繰り上げ計算に引っかかってから おおよそを12時間。


「そろそろだな…」

 6桁のランダムの文字が5桁、4桁、と減り続けて12時間…(つい)に2桁になり、出力される文字が数字だけになる。

 そして…。

「来た…10!」

 すかさず オレは〇を押す。

 その後も数字のブレがあるが、すぐに10しか出さなくなる。

「収束したな…お疲れ…」

「本当にな…」

「それじゃあ…1+1から足し算をやってみようか…。」

「OK…」

 1+1~1+9まで一発でクリアする。

「次は2+1だ。

 1+2と2+1は 左右反転しても同じ結果になると教える。」

「分かった。

 あれ?3…合ってる。

 クオリア…次は3+1だよな」

「ああ…」

 3+1、4+1、5+1、6+1、7+1、8+1、9+1と…すべてクリアして行く。

「既に理解しているな次は?」

「2+2~2+9まで」

「理解している。」

「次、3+3~3+9」

「OK…出来てる。」

 4+4~4+9、5+5~5+9、6+6~6+9、7+7~7+9、8+8~8+9、9+9、10+10。

 全部、答えが合っている…最初の珍回答が嘘のようだ。

「なら次は 0+1…0は1種の難問だ。

 何も無いと言う状況は、人が便宜的(べんぎてき)に付けた概念(がいねん)だからな。」

「いや、もう普通に0を理解しているんだが?」

 オレが入力しながら言う。

「もしかして12時間も時間が かかったのって…」

「0を理解しようとしていた?

 ん?まてよ、9+1で桁数が急に6桁になった時に ZZZZZZだったよな。

 もしかして、コイツは 54億8903万1744と言いたかったのか?

 つまり42進数での最大の文字…無限大。

 無限大の解が出る可能性がある計算って…」

「ゼロ除算だな…何かの数字を0で割ったんだ。」

「おいおい例外処理を一切しないで、0除算をクリア出来るコンピューターって…。

 くそっ…あの時に×を押したから混乱したのか…。」

「と言う事は、桁数が一気に増えた理由は ゼロ除算で無限の表現を如何(どう)するかを考えた結果と言う訳か…。」

「あ~バカと言ったけど、裏では高度な事を考えていたんだな。

 あれ…待てよ…割り算が出来るって事は、掛け算も引き算も出来るはずだよな。」

 割り算の計算は、コンピューター上では マイナス いくつを掛ける計算として処理出来る。

 マイナスは0を基準として減算すると加算される数。

 これはマイナスの記号を付けた足し算だ。

「回り道をしている様に見えて、最短で数字を理解しようとしていた訳か…。

 となると、この質問が出来るな。

 ナオ…1-?=-1だ。」

「なるほど…-1って言う答えを先に出して、マイナスの概念(がいねん)を学ばせるのか…」

「そう…既に引き算が出来ているなら、マイナスの記号の意味を教えれば、すぐに応用して来るはず」

 新な問題を出された事でしばらく、不正解を連発するが、数分で-の記号の意味を理解して、2を叩き出す。

「次*(掛ける)をやって見るか…」

 先ほどと同じで、程無く 理解。

「次/(割り算)

「おっ…計算は正しいけど、小数点が付いてい無いな」

 1/2の問題に対して05と答えている。

 少数も理解出来ている。

「小数点を教えよう。

 ?/2=0.5だ。」

 そして、この問題を解いて学習させ小数点を学習。

 ちなみに割り切れない計算の場合 このコンピューターは 7桁目を切り捨てる事で対応している。

「問題無いな…さて、0は如何(どう)出るかな?」

 まずは0*1=?と入力して行き、答えには全部0が返って来る。

 これは正解。

「それじゃあ 1÷0をやって見るな。」

「ああ…」

 1/0=?と入力する。

 これは、ゼロ除算の1つ『不能計算』

 1個の物を0人で分けろと言う問題だ。

 過去に米海軍が 艦の試運転した所に、入力ミスによりゼロ除算が発生してしまい推進システムが麻痺(まひ)、2時間半も海上で停止しまった例がある悪魔の計算だ。

 その事から ノイマン型の電卓では 専用の例外処理が掛かり『0で割る事は出来ません』と表示される。

 つまりノイマン型が計算出来ない不可能問題の1つで、多分コイツはそれに引っかかってZZZZZZ(無限大)と表現した。

 さて、如何(どう)出る?

「1が出たな…クオリア如何(どう)見る?」

「正解だな…多分、余りが1だと言っている。

 2÷0の答えが2なら、余りの計算だな。」

「2…余りで確定だな」

 3、4と増やしていくが、最初の数が表示される。

 つまり 1個の物を0人で分けろと言う問題に対して、0余り1と計算した訳だ。

「よし、余りの記号(三点リーダ)を教えよう。

 ?/0=0…1だ」

 程無くして余りに(三点リーダ)を付け始める。

 そして、割り切れない数に対して切り捨てでは無く、より正確な(余り)を使う事で対処し始めた。

「最後だ…0/0=?」

 これはゼロ除算のもう1つ『不定問題』

 0/0=?の方程式は、?×0=0に出来るので すべての数がこの?に当てはまる。

 通常 計算は答えを1つにする事だが、答えの解答が無限に発生してしまう。

 つまり、コイツの場合 6桁上限の54億8903万1744通りだ。

「さて、答えは…6桁のランダムな文字列…。

 クオリア…間違いか?」

「いや…〇を押し続けて見てくれ」

 何度も計算し直してもランダムな文字列にか見えない。

 42進数から10進数に頭で変換して見るが規則性は無いよな…。

「なるほど、ランダムが答えか…。

 6桁の上限で文字をランダムに表示させている。

 54億8903万1744通りの1つの解を表示しているんだ。」

「って…疑似乱数じゃなくて真乱数って事か…。」

「そう、桁数を制限して行けば、普通に乱数として使える。

 私達が何度も同じ問題を出している事を学習して、複数回の計算でランダム性を表現しようとした…と言った所か…。」

「賢いな…20時間みっちり教えれば、四則演算と未解決問題を扱える様になる訳だからな。」

「とは言え、これ位が限界だろうな…。」

如何(どう)して?まだまだ 行けそうだけど。」

「今は質問に6変数しか使えない。

 1+1=?で5変数になるな…1変数辺りの文字は6文字。

 まともな分を作るには24変数は必要だ。」

「あ~散々苦労したと言うのにデータ消しちゃうのか?」

「いや…データの移行は出来るから、次の試作品に今回のデータを使う。」

「あ~データを移せるのか…。」

「さて…私がやる。」

「はいよ…」

 クオリアが入力した文字は『kontro lu ĉiujn ĉelojn(すべてのセルを確認)』だ。

「うわっ」

 ブラウン管の画面には、ズラーっとセル番号とセルの中の数字が上から下に流れて行く。

 クオリアは表示がし終わると キーボードの上下キーで操作しつつ、紙に丁寧(ていねい)に記入して行く。

 画面を見た所、細胞が256個ある見たいだ。

「復活の呪文かよ…てか、luって間違っているだろうuだ。」

「仕方ないだろう…文字数に引っかかったんだから…。

 それに電源が切れるとデータが飛ぶかもしれないからな…念の為だ。

 よし終わった…電源を消してくれ」

「ほいよっと…。

 さてと、オレは寝に部屋に戻るぞ、今日は休みだ。」

 外は昼を過ぎて3時頃になっている。

「分かった…それじゃあ、お休み。」

「おやすみ~」

 オレはクオリアが発電機をコンテナに入れる中そう言い、自分のコンテナハウスへと戻って行った。


 数日後…冒険者ギルド。

「おっいたいた…ナオ…。」

 ジガが冒険者ギルドの中に入って来て言う。

「ん?リュック?

 また何処(どこ)かの国に行くのか?」

「いや…月に行く。」

「月…あ~車検か…今日だったのか」

「そっ…クラウド…最大で1週間位 ウチらがいなくなるから、ロウと一緒に上手くやってくれ」

「大丈夫…頼り切っていた昔と違って 今は他国に攻められても1週間は普通に持つし、食料の備蓄(びちく)も1年分は普通にある…。

 自分達が(きた)え上げた国民を信じてくれ 十分やっていけるさ…。」

「信じるよ…それじゃあナオ…着替えて荷物をまとめて来てくれ。」

「ああ…」

 いつも着ているジャージ姿のオレは 2階のオレの部屋で パイロットスーツに着替え、荷物を持って それぞれのファントムに乗り、クオリア、ジガ、ハルミと共に月の裏のホープ号へと向かった。


 クラウド()とロウ、それにハインの3人が夜空を見上げる。

 月は綺麗な満月になっており、緑色の線が月に吸い込まれる様に消えて行く。

「行ったか。

 信じろとは 言ったものの…島の守り神がいなくなると言うのもキツイな」

 彼らと一緒に この島に たどり着いてから、何度も彼らの力に救われている。

 それは技術であったり、単純な力であったり、人を使う統率能力だったりと色々だが、どんなに祈っても 何もしてくれない神より、神様の仕事をしてくれている。

 これまで ナオ達が他の村に行って不在の時は、何度もあったが 今回は連絡の届かない場所で不安だ。

「大丈夫…私のファントムは ここに あるし、使わなくても もう皆、十分に強い」

「だいじょうぶ」

「そうだと良いんだがな…。」

 私は不安混じりの手を2人の頭に乗せ、自分を落ち着かせる様に優しく()でた。

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