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⊕ヒトのキョウカイ02⊕【未来から やってきた機械の神たちが造る 理想国家₋ユートピア₋】  作者: Nao Nao
ヒトのキョウカイ2 4巻 (Rabbit Wars-ラビッド ウォーズ-)
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02 (ハインリヒ・ワイズウルフ)〇

 1705年の秋…冒険者ギルド。

「子供 出来た見たい」

「は?子供?」

 ロウのいきなりの発言にナオ(オレ)は 思わず聞き返す。

「子供が出来たって…相手は?

 って分からないか…。」

 ロウは筋肉質で力強い男が好みで、ここ2年あちこちで ヤっていたので、当然と言えば 当然の結果なのだが…。

「う~ん 多分、クラウド?」

「あ~確かに仲が良いもんなアイツと…。」

 ロウは12歳でクラウドが 27歳だから15歳の年の差と言う事になる。

 現代の価値観だったら合意の上だろうと12歳の子供に手を出した時点で、強制わいせつ罪で確実に捕まるが、多産多死が当たり前の この時代では 普通に適正年齢だろう。

 と言うか、学校や収入のなんかの問題があるのだろうが、16歳とか18歳とか生物的に見て遅すぎだ。

 それで18から働いて30までに それなりの収入を得て、収入のある男を見つけて 結婚して子供を産む。

 これを10年でやるのは 相当なハードスケジュールになり、その過程で満足な収入が得られずに貧困層に落ちれば、金食い虫の子供を産もうとなんて思わなくなる。

 そうなると 貧困層が子供を産むチャンスは 社会を まだ知らない学生時代に利害が無い 純粋な恋愛と勢いで 子供を産む位しか無くなる。

 ただ それも世間的に難しく、よしんば生まれたとしても 今度は子供の手間と出費が家庭を圧迫(あっぱく)し、親の余裕が無くなって 家庭崩壊や毒親に繋がる。

 で、家庭崩壊や毒親を経験した子供は また毒親になるか、合理的に判断して子供を産まない事を選ぶ。

 日本が少子化になっているのは、徹底的に子供を産みにくい社会構造になっているからだ。

 そう言う意味では、それなりに収入があるロウの選択は正しいのだが…。

「取り合えずハルミの所に行こう…。」

 オレが男と言う事もあるが そっち方面は、完璧に専門外だし、ましてロウは遺伝子を最適化された 新人類である獣人だ。

「分かった。」

 オレは作業を中断してロウと一緒に診療所(しんりょうじょ)へと向かった。


「えっ…子供が出来のか…おめでとう。

 それじゃあ 検査して見るか…」

 ハルミはロウの腹に手を当てる。

 ハルミの手には 簡易検査機が内蔵されているので触れるだけで状況が分かる。

「あ~確かにいるな…。

 多分、男…成長具合からして3ヵ月位か?

 お相手は?」

「多分クラウド…」

「クラウドか…本人には?」

「まだ…今、クラウドは 硫黄の村にいるから…。

 ハルミに()て もらってから行くつもりだった。」

「そっか…それじゃあ、今日から保育院で寝泊まりな。

 後1週間以内に産まれるだろうし…」

「そんなに早いのか…」

 普通の人の子供は11ヵ月掛かると言われているが、獣人は たった3ヵ月か…。

「獣人の場合 腹に子供がいると自覚し 始めたら割と すぐに産まれる。

 腹もそこまで大きくならないから、多少太ったと思って 子供を産んでから 知るケースも珍しくない。

 人が自然のままだと難産になり(やす)いのに対して、獣人は すんなりと出て来るからトイレで出産して子供を便器に落として 慌てて 回収したなんて事も普通にある。」

「産まれて来るのは 全員 未熟児なんだろ…大丈夫なのか?」

「ああ…大体350gの超未熟児…大きさも手のひらサイズだな。

 人の場合 1kgあれば ほぼ100%助かるが、500g以下は 体温調節が出来なかったり、光に過敏(かびん)に反応して ストレスで簡単に死ぬレベルだ。

 正直、今の保育器の性能だと 付きっ切りで見ていても 半分の確率で死ぬ。

 だけど、ロウの育児嚢(いくじのう)は 保育器の性能を越える。

 人用に改造が入っているとは言え、元々は カンガルーの遺伝子だからな。」

「カンガルーの育児嚢(いくじのう)って そんなに凄いのか?」

「ああ…凄い 何せカンガルーは 親指より小さい2cmの状態で産まれて来るからな。

 その子供を育てられるように設計されている訳だから、普通に産まれて来る分には 十分に対応出来る。」

「そっか…子供の種族は?」

「獣人の方が優性遺伝子だから、どちらかの親が獣人なら産まれて来るのは ほぼ確実に獣人。

 ただ、ホモ サピエンスとは 遺伝子が違い過ぎて 交配出来るギリギリのレベル。

 だから ヤリまくっているのに 2年も掛かった訳だ。

 普通だったら不妊症(ふにんしょう)を疑うレベルだよ」

「なるほど…獣人の血は絶やさないでくれよ。」

 この時代にいる獣人はロウ1人だ。

 ロウがいなくなれば、獣人が絶滅する。

 それだけは避けないと…。

「分かっている。

 じゃあ…ロウは 保育院に行って大人しくしてくれ…。」

「分かった…ん?

 落ちた?」

 椅子から立ちあがったロウが止まって言う。

「え?」

「マジか…」

 オレとハルミが言う。

 ロウが椅子から離れると地面に転がっていたのは 糸の様な細いへその緒が切れた 手のひらサイズの獣人の赤ん坊だった。

 下着から落っこちて来たのか?

「今のが出産?安産過ぎじゃねぇ?」

「子供の重さで へその緒が切れたんだな。

 まぁ頭が大きすぎて 詰まる難産を解決する為の未熟児出産で、未熟児を生かす為の育児嚢(いくじのう)だからな。

 はいHello(ハロー) World(ワールド)…。

 ようこそ、この世界へ…私は あなたを歓迎するよ」

 ハルミは 産まれて来た赤ん坊にいつも言っている言葉を言い、タオルで 赤ん坊を軽く(ふく)く。

「よし、頭は打ってないな…。

 心拍、肺呼吸 問題無し…やっぱり獣人だからかな 未熟児にしては優良児…ロウ…」

 ロウがワンピースのスカートを上げて、ハルミが ロウの育児嚢(いくじのう)に新生児を入れる。

「取りあえず これでOK…。

 袋の中の掃除は1日1回、風呂には 入って良いけど ぬるま湯で、後は子供を袋に入れたままで 湯を入れて溺死(できし)させるなよ」

「大丈夫…」

「それじゃあ…オレはクラウドの所に行って来る。

 確か 硫黄の村だったよな…。

 まっ…急ぎだし 今回はファントムを使っても良いか…」

「分かった…保育院で待ってる」

 ロウの言葉を聞き、オレは診療所(しんりょうじょ)の外で ファントムを召喚してコックピットブロックの中に入り、安全高度までゆっくり上昇して音速で硫黄の村へ向かって行った。


「おっ如何(どう)したナオ…ファントムで来るなんて緊急か?」

 クラウド商会の硫黄の村支店の前にファントムを着地すると、音で気付いたクラウドが事務所から出て来て言う。

「それが、ロウに子供が産まれてな…」

「え?妊娠じゃなくて いきなり出産?」

「そう…獣人の子供って350gの超未熟児で出て来るから…直前まで本人に自覚が無かった。」

「あ~と言う事は 今は腹の袋の中か…」

「そう…で、ロウはクラウドの子供だって言っている訳だが…。

 覚えは?」

「あ~何回か…とは言え、アイツ子供を産めたんだな。

 てっきり悪魔付き だから子供が生まれないのかと…」

 手で頭をポリポリと()き、気まずい感じで言う。

 確か悪魔付きは、魔女と悪魔の間に出来た子供で、その実態は奇形児(きけいじ)…。

 悪魔には 男を性的不能(ED)にする魔法があるらしいから、それを子供に適応した感じか…。

 つまり、ロウが不妊症(ふにんしょう)だと思った訳だな。

「って事は 軽いノリでヤっちまったって事か…。」

「まぁな…アイツは、自分が気にいった相手と すぐにヤっちまうからな。

 オレもロウに気に入られて流れで…」

 この国は 1人を永遠に愛さなくてはならない 結婚の概念(がいねん)は無いし、年齢 関係無く何人とヤろうが 双方の合意がある限り自由だ。

 つまり、特定の相手を持たない乱交文化になる。

 なので、軽い気持ちでも特に問題無い。

「それで、クラウドは 父親になる気はあるのか?

 まぁ いても いなくても子供は保育院で一括(いっかつ)で育てるから、将来は安泰(あんたい)なんだが…」

 成人した後の子供の収入は 親が子供の時にどれだけ金を使ったかで決まる。

 なので、この国で一番金持ちの政府が 子供を一括(いっかつ)で育て、子供が望む限りの教育を与え続ける。

 それが優秀な労働者を作る為の一番の近道だからだ。

「確かに軽いノリだったけど、ロウが好きなのは確かだよ。

 それに 仕事が忙しくって結婚を先延(さきの)ばしにして もう そろそろ30だ。

 商会も(まか)せられる様になって来て 落ち着いて来たから、嫁と子供が欲しかった所だ。

 まぁロウは 私に対して 永遠の愛は誓ってくれ無さそうだけど」

「そうか…クラウドも1人を永遠に愛せとは言わないから ロウと子供を大切にしてくれ…」

「分かった。

 うん そうだな…私も子供を育てて見るか…。

 商会をメインにして副業で子供を育てる事は出来るか?」

「子供を育てる保育士になりたいと言う事か?」

「そうだ…子育ては 女の仕事になるが、成り行きとは言え 私の子供だからな…育てて見たい。」

「別に性別で仕事を分ける気はないが、面倒を見るのはロウの子供だけじゃないぞ。

 それに 女だけの職場に男が1人の状況は色々と苦労する。

 それでも良いなら止めないけど…」

「ああ…覚悟はしている。

 それじゃあ、ちょっと待ってくれ…仕事を引き継ぎして 私の拠点をアトランティス村に移すから」

「ああ…引継ぎが終わったら乗せてく。」

「助かる」

 しばらくして、リュックを背負ったクラウドがファントムに乗り、アトランティス村に戻って行った。


 保育院

「おお…この子か…やっぱり子供は 獣人になるんだな…。

 それにしても小さい…」

 クラウドがロウの手の平に乗る獣人の赤ん坊の頭を指で()でる。

 腹部には、ロウと同じ小さな育児嚢(いくじのう)があり、カンガルーの場合 袋が付いているのは メスだけだが、獣人は男にも付いている。

「はい…その辺にしとけ。

 今はちょっとの事で死ぬからな…」

 ハルミが言い、ロウは また育児嚢(いくじのう)の中に赤ん坊を入れる。

「それで、ロウ…この子の名前は?」

 オレがロウに聞く。

「うーん『ハイ』…。」

YES(ハイ)?」

「あ~Low(ロウ)High(ハイ)か…」

 クラウドが言う。

「そう…この子は 私を超えて強くなるから」

「う~ん…ロウって 狼の意味なんだけどな…でもハイか…語呂が悪いな…」

「じゃあ ハイン…ハインリヒ ドイツ人の名前になるが…」

「ハインリヒね…」

 クラウドの言葉に オレは苦笑いを浮かべる。

 ハインリヒ・ヒムラー…。

 ナチスの親衛隊で ヒトラーがやったとされる悪逆非道は 大体(だいたい) コイツが部下に指示した物で、戦時下だと言うのに敵国人ではない ユダヤ人を絶滅させる為に 軍から貴重で優秀な人材を惜しみなく親衛隊に移籍(いせき)させ、ユダヤ人の死体を燃やすのに 貴重な石油資源を大量に消費させて ドイツの兵站(へいたん)をボロボロにし、(さら)に完全に素人だと言うのに軍の指揮しまで始めて、国を敗戦に導いた戦犯だ。

 正直、そんな名前を付けて欲しくはないんだが…。

「確か、ハインリヒは 家と力強いが合わさった言葉だよな。」

 知ってか知らずか、ハルミが言う。

「そう…そこまで意味が 外れていないだろ…」

「分かった…オマエは今日からハインだ。

 ヨロシク ハイン…。」

 ロウが腹に手を当てて赤ん坊…ハインに そう言った。

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