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09 (奴隷のような₋スレイブロイド₋)〇

「何だ 戻っていたのか?」

 竹の森にファントムを着地させ、ナオ(オレ)は機体を降りてクオリアの方向へ向かう。

「ああ…思いの外 早く見つかったからな…」

 クオリアは 川のすぐ近くで石を積んだ石窯(いしがま)が出来ていた。

「その石窯(いしがま)で まずは何を作るんだ?」

 石窯(いしがま)は1m程ある高さの筒型で、石の筒の上には 竹の板と真ん中に貫通させた竹パイプの煙突を突き刺して 簡易型の煙突にしている。

「ハルミから貝殻を(もら)ったからな生石灰を作ろうと思ってな。」

 隣では奴隷達が、石器で背負い(かご)の中の貝殻を粉々に砕いている。

「水を入れて消石灰にして砂と混ぜ合わせれば 石灰モルタルだったか…建築材の」

 オレがクオリアに言う。

「そう…それと まずは そのモルタルを使って この石窯(いしがま)を強化する。

 石窯(いしがま)には 断熱効果と強度を上げるモルタルが必須だ。」

「にも関わらず、そのモルタルを作るには石窯(いしがま)が必要と…実際 これで出来るのか?」

「ああ…ひたすら熱を上げていく事になる…。

 熱が石を(つた)って外に流れてしまうから非常に効率が悪いがな。」

 クオリアは磨製石器(ませいせっき)で 竹を縦に削りながら 細かい竹の繊維を束ねて綿状にして作り出している。

「竹の綿(コットン)だ。

 これを(つむ)いで糸状にして編み込めば、竹の繊維の服になる…。

 まぁ今は火種に使うだけだが…。」

 クオリアが縦に真二つに割った竹を十字になるように重ねる…。

 下の竹には 切り込みが入れられて、その部分に上の竹を かませてガイドラインにし、竹のコットンを下に引いて のこぎりで切るように前後に小(きざ)みに(こす)る。

「竹の繊維の向きは一方向だから こう交差さして、熱が逃げないように小(きざ)みに(こす)れば 効率良く摩擦(まさつ)を発生する事が出来る。」

 クオリアが 竹同士を(こす)り始めると、すぐに焼けたニオイがし始めた…。

「火種が落ちたな…。

 竹は油分を含んでいるから、竹のコットンが 燃えれば、すぐに燃え広がるはず…」

 クオリアは上下の竹をどけ、竹のコットンを手で(あお)いでいく…。

「普通なら 息を吹きかけて酸素を送る所だが、私達には肺が無いから手で(あお)ぐしなかない。」

 クオリアが火種の付いているコットンを(あお)ぎ、煙が出るが火が中々大きくならない。

「まぁ…理屈は分かっていても初見なら ここまでが限界かな…。

 後は ベテランに任せよう。」

 隣で見ていた奴隷が竹のコットンを持って、最初は短い息を吹きかけて 火種を消さないように気を付けつつ、煙が大きくなるにつれて、息の量を増やして行く…そして発火が始まった。

 すぐさま、奴隷は 石窯(いしがま)の中の竹の上に燃えているコットンを放り、竹パイプで息を吹きかけて行き、とうとう竹に燃え移った。

 その上にある石の台に 石灰をそのまま乗せ、焼いて行く。

「これで少量のモルタルが作れる…。

 そのモルタルを使って今度は複数階層の(かま)を作って、その(かま)で効率良くモルタルを生成する。」

「最初から作れば良かったのに…。」

「私も やっては見たが、天井の石が重力に耐えられないで落ちた…。

 やはりモルタルによる補強は必須みたいだ。」

 クオリアが言い、炉を見始めた。


「熱量が足りないな…想定より 石の熱伝導率が高かったようだ。

 他の方法を考えよう。」

 クオリアは4人の奴隷が交代で竹パイプで石窯(いしがま)に酸素を送っている所を止め、砂を掛けて火元を二酸化炭素だらけにして窒息(ちっそく)消火をする。

「それじゃあ…明日はコイツを作ってみるか?」

 オレが川に指を向ける。

 そこには水車…と言うには かなり小さいが、竹の水車が見える…。

 人力で息を吹き込み続けるには限界があると思ったオレは そうそうに仕事を切り上げ、水車を作っていた。

 作りは非常に簡単で、主軸になる竹に4ヵ所の穴を開け、そこに竹の棒を取り付ける。

 そして その竹の先端を半分に削って 川から流れてくる水を受け取れるようにすれば完成だ。

 で、それを水面から浮かばせておく為に、2本の竹をXの形にして紐で結んだ物を2セット用意し、川底にしっかりと ぶっ刺して固定。

 その上に水車を乗っける事で 主軸が回るようになる。

 その主軸の先には 竹トンボが取り付けられていて、小さいが風を送り続けている…自動化の始まりだ。

 風力も少なくとも 人1人の息よりかは出ており、これを もっと大きく出来れば 業務用扇風機 位の威力は出せるだろう。

「水車か…。」

 こちらの技術に興味を持ち、こちらを見ていた クラウドが やって来て言う。

流石(さすが)に知っているか…。」

 水車自体は 紀元前2世紀からあるが 使い道が無かった為、あまり普及していなかった。

 本格的に普及して来たのは 1700年~1800年で 蒸気機関の開発によって廃れるが、ここでは割と最新技術のはず…。

「ああ これ、風も起こせるんだな…。

 小麦粉の買い付けの時に自動で動く石臼(いしうす)を見た。」

 この時代の水車の主な使い道は 重い石臼(いしうす)()く製粉作業の自動化だ。

 これにより、製粉の品質と作業効率が飛躍的に上がったと言う。

「これがオレ達の新しい奴隷だ。」

「これが奴隷?」

 クラウドは 意味が分からず聞き返す。

「そう、オレは奴隷制度を否定する気は無いが、奴隷ってのは 実は非常に効率が悪いんだよ…。」

 オレは 回転し続ける水車を見ながら言う。

「1人の奴隷を生み出すには 10年から15年の()()()()が掛かる…。

 そして、その 生命を維持する為には 大量な食料と綺麗な水…。

 しかも人は酷使(こくし)をすれば、不平不満も言い…最悪 反乱に繋がる。

 製造コストも維持コストも使用リスクも非常に高い。

 この時代の価値観的には 人数を増やす位しか 仕事量を増やす方法が無かったのは分かるが、少ない食料で働かされると 人は やせ細り、壊れる…非常に使いにくい労働力なはずだ。」

 オレは近くでハルミが面倒を見ている肋骨(ろっこつ)が見えるまで細った奴隷達を見る。

「私も『買って来た 奴隷が砂糖農園で頻繁(ひんぱん)に死ぬから出来るだけ長持ちする』環境を作るように言われ あの船に乗った。

 確かに航海中にも奴隷が死ぬし…効率も非常に悪かった。

 でも、奴隷は安く簡単に手に入るし、砂糖農園の利益率は30%を超えている…問題ないだろう」

「そりゃあ…奴隷業者も生まれた赤ん坊を大人になるまで育てて、奴隷にしている訳じゃないからな…。

 でも、誰かが その莫大(ばくだい)なコストを支払っているし、製造時間が長い上に すぐ死にまくるせいで、奴隷にする人自体がいなくなって、その内 奴隷1人辺りの値段が高騰(こうとう)し始める…。

 それが奴隷制度の終わりの始まりだな…。

 結局、採算が合わなくなるまで ずっと奴隷を死なせ続けていた訳だ。

 で、この水車の製造時間は3時間(4分の1日)で、息を吹きかけると言う仕事に対しては 大人1人の性能を同じ位。

 しかも、食事もとらずに夜も寝ないで ずっと動き続けられるし、不平不満も言わないし、反乱も起こさない。

 これはオレ達が望んでいた理想的な奴隷なんだ。」

「その内コイツらに仕事を奪われるのか…。」

「そっ…でも奴隷を管理をする人は 絶対に必要だし、働かなくても金が手に入るんだから問題ないだろ。

 まっ仕事の心配はしなくて良い…こっちは絶対数が少ないからな…。

 簡単な仕事は全部コイツらに任せて、オレ達は常に新しい仕事をやり続ける。

 機械とは違い、何でも それなりに こなせるのが人の最大の利点だからだな…。

 さて、今日の仕事も 終わりだ。

 行こうか…。」

「ああ…。」

 夕焼けの終業合図を受けて、オレとクラウドは 地面に竹の棒で大型風車の設計図を描いているクオリアと共に 食事の用意をしているハルミの元へ向かった。

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