28 (救える命は救う)〇
港の村は、3階建てのコンテナが村を囲む様に積み上げられている。
これは家もかねているが、敵からの攻撃に対して盾の役割も兼ねているので野生動物からの攻撃に対して完璧な防御力を発揮する。
その屋上に 土嚢を積み上げ、こちらが運んで来た戦闘員12名はしゃがんだ状態でM3グリースを構え、敵を待つ。
ナオは 寝そべり 弾のテストで愛用していた アメリカのM24狙撃銃モドキを構える。
『こちらナオ…ポイントに付いた。』
オレはスコープを覗く…。
『こちらクオリア…上空監視に入る。』
クオリアは 上空を飛んで敵の位置の観測情報を送ってくれる。
「よし、試射行くよ…」
オレは弾が12発入っているマガジンを入れてボルトハンドルを引いて戻す。
新しく作ったマガジン機構は問題無く作動している。
使っている弾は 7.62x51mm NATO弾のトニー王国仕様。
通常、M24は800mの射程を持っているのだが、600m位が限界となっている。
とは言っても、向こうのリボルバーライフルの射程が50mだと考えれば、これでも十分だ。
パンッ…よし、スコープの十字に正確に当たっている。
だが、やっぱり 弾道軌道を使わず 真っすぐに飛ぶのは この位までだろう…。
オレはボルトを引いて排莢…ボルトを戻し、マガジンから次弾を装填…閉鎖。
この狙撃銃は ライフル弾を使っているので威力は高いが、45口径の拳銃弾を使っていて連射が出来るM3グリースの方が総合性能では上になる。
『ジガが戻って来る…誤射に注意』
『了解…』
上空のクオリアにオレは答える。
『こちらジガ…ナオ見えるか?
ウチの後ろに敵のバギー…多分 偵察用。
拠点の位置を部隊に伝えさせるので、発砲はしないでくれ』
『了解、泳がせる…ジガは負傷兵と共に退避しろ…。』
『いや…引き撃ちに徹したから 負傷兵は出ていない。
弾の補給が出来れば まだ戦える。』
『了解…弾薬は積めるだけ持って来ている。
弾をケチって死なない様に注意しろ。』
『了解…』
ハルミと30人がバギーで戻って来て村の中に入って行く。
『クオリア…上空から敵の指揮官は見えるか?』
『見える…部隊の動きから指揮系統を推測…高価値 目標をマークする。
データを送った。』
『受け取った。
この分だと後30分は掛るか?』
『私もそう見ている。
意外と速いペースだ。』
『こちらハルミ…ジガの言った通り 負傷者無し…。
殺すなとは言わないが、こちらの手間を考えてくれ。』
『ナオ、了解』
つまり、重傷者を作る位なら ちゃんと殺せと言う事か…。
敵を殺してしまえば放置されるが、負傷だったら仲間に背負われて 後方の野戦病院に送られる。
つまり、相手を負傷させる事で 後方に持って行く為に数人の戦力が削れ、医薬品の負担や病院の設備の強化など、相手国の経済に揺さぶりを掛ける事が出来る訳だ。
とは言え、今回は向こうの兵の野戦病院は無いし、国に帰して情報を送られる事を阻止する為に 自国民として迎えるしかない。
そうなると、労働力として使えるかが重要になって来て、手足の欠損位は与える仕事次第で如何にでも なるが、脳がやられると本当にお荷物にしかならない。
救うには救うだけの見返りが無いと難しく、善意や人道を守るだけの余裕はまだこの国には無い。
『ターゲットが来る』
『分かっている「来るぞ、銃を構え!」
オレが仲間に言い、各自がM3グリースを構えて狙いを付ける。
「先頭との距離が50mに入ったら撃て…。」
50mまで引き付ければ、最後尾まで射程内に収まる。
300…200…100…50!!
「撃て!」
50m先の敵に対しての射撃…全弾命中…。
3階から敵の頭を狙った角度を付けた射撃の為、肉壁の戦略は使えず効率良く相手を削って行く。
パン…次…パン…次…。
2秒に1発…狙いを付けて正確に敵の隊長の鼻に弾を当てて行く。
オレが狙っているのは、鼻の奥にある脳幹…。
頭の中で ここが 一番重要な部分で、破壊されるとストンと眠る様に落ち、心臓や呼吸が止まり そのまま永遠に眠る。
オレがまだ生身で現役だった時、通り名が『鼻破壊師』と呼ばれていたが、これが理由だ。
兵を統率していた隊長や指揮官が次々と倒れて行き、兵の中で混乱が広がり、それぞれが 好き勝手に動き始める。
逃げる者…逃亡者を殺す者…銃を撃ちまくる者…色々だが、統率が崩れれば、どんな大部隊だろうと大した事は無い。
コンテナの下では 敵の銃剣突撃をさせない様に火炎放射器を持った戦闘員が配置され、酸水素ガスを燃やした炎を吹き出し、敵も下手に近づけない。
これで こちらが苦手な接近戦を回避出来る。
『ジガ…最後尾の聖職者?6人…アイツは指揮官か?』
『ああ…そう見たいだが…』
『捕虜達を大人しくさせるには 宗教上の指導者が必要か?』
残って銃を撃ち続けているのは10人程…。
聖職者は撤退して来た人物を殺して恐怖で統率を維持しようとしているが…。
『あ~やっぱり殺されたな…如何する?殺って良いのか?』
『ああ…構わない』
パン…パン…パン。
怒鳴り声を上げている聖職者が次々と大人しくなり、地面に崩れる。
それを見た敵兵士達が 叫びながら 一斉に逃げ出した。
『片付いた…射撃止め!』
『こちらクオリア…敵は統率を失い、逃走…。
船で逃げる気だろうか?』
『ナオからクオリアへ…。
人員が削られた中で船は急に出せない。
掃討戦に移行…。
上空から敵の位置をマークしてくれ』
『了解した。
木造船だと思っていたが、船体がガラスコーティングをされていて動力機関も見つけた…これは 機帆船だな。』
「うわ~アメリカ独立 出来るかな~」
1775年に起きる当時アメリカと呼ばれていたアメリカとグレートブリテン王国の戦争がアメリカ独立戦争な訳だが、海上戦力が強化され、銃も強化されるとなると勝てるかどうか…。
もしかしたら 植民地側にも武器供与をしないとダメかもな…。
『よし、オレ達は 捕虜を確保しに行く。
ハルミは 医療班を率いて負傷者の回収と治療を頼む。』
『了解…とは言え、ロクな応急処置もしていない みたいだから どれだけ救える命があるか』
銃で撃たれた人の死因の約半数は失血による血圧の低下であり、これは兵士自身や衛生兵による適切な応急処置をすれば助かる命だ。
ちゃんと止血していれば良いんだが…。
よくも こんなに死体を作ったなと感心してしまう位の地獄の光景が広がってる。
「よし、動けるヤツは紐で拘束…止血も忘れるな。
動けないヤツは軽傷者から手当…。
応急処置を終えたら拘束して運び出せ」
「はい!」
「ウッ…」
1人の研修医が死体の山に吐き気を感じている。
「すまんな、こんな実地訓練で…。
だけどな医者は どんな兵よりも強靭な精神を持っていないと行けないんだ。」
そして ハルミは医師で衛生兵…絶対に あきらめる訳には行かない。
私は私の戦闘服である白衣を着る。
背中には 赤い十字架マークが描かれ『救える命は敵味方関係無く救う』と言う赤十字に誓った時から身に着けている。
私は手早く作業に取り掛かる。
ダメ…ダメ…ダメ…。
出血で大量の血を失い、顔が青白くになっている兵士が多い。
すぐに輸血が必要だが、コイツらの血液型が分からないから入れられないし、血圧低下で血管が縮んでしまい点滴も難しい。
「よし…見つけた」
布で縛って応急処置をしているが、太い血管をやられたのか それでも大量出血している兵士を見つける…まだ助けられる。
私は傷口を小型の酸水素バーナーで炙り、血を炭化させて止血。
火傷状態になるが、今は 血を止める事の方が優先だ。
バギーの荷台に彼を載せ、血管に針を挿して点滴を入れる。
成分は水1ℓに対して9gの食塩を混ぜた生理食塩水だ。
これで血圧を維持する事によって、血が生成されるまでの時間を稼ぐ。
更に 血圧が低下すると血管がしぼんで針を挿せなくなるので、生理食塩水を入れて血管を膨らませていれば その後に状況に合わせて薬剤を入れる事も出来る。
まぁ今はブドウ糖液 位しか無いんだけど…。
「これで良し…と次…。」
血圧を見て 助けられるか、手遅れかを見極め、助けられるなら 傷口を焼いてバギーに載せて点滴に繋ぐ。
弾が身体の中に入っているヤツも取りあえずは傷口を焼く…。
これは体力が回復した後で摘出手術だ。
この作業をひたすら繰り返す…。
死因の大半は失血死…ちゃんと自分で応急処置が出来ていれば 撃たれた半数は 助かった命だ。
次々とバギーの荷台に拘束された負傷者が積まれ、港の村に向かって行く。
私も点滴スタンドを取り付けた3車両分のバギーが一杯になった所で、港の村に戻らせ、負傷者を置いて戻って来たバギーにまた点滴スタンドを取り付ける。
残りの数からして後3台と言った所だろう…それで満足するしかない。
私が育てた医師達には 怪我の対処方法は散々叩き込んだが、今まで 大規模な負傷者が出来る事は なかった。
向こうでは、相当な修羅場になっているだろう…適当な所で見切りを付けて戻らないと…。
私は重傷者をバギー3台の荷台に載せた所で残りを切り捨て、次の戦場である診療所へと戻って行った。




