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27 (引き撃ち)〇

 時は過ぎ 2年後の1705年。

 港の村(旧 竹の森の拠点)…。

「ジガ…敵です。」

 猛スピードで飛ばして来たのだろう…。

 バギーを冒険者ギルドの前に急停止させて切迫(せっぱく)した声で村人が入って来きて書類作業をしていた ジガ(ウチ)に言う。

「敵?」

「大型の木造船です。

 現在、海岸を占拠…人員と物資を降ろしています。」

 あり得ない…ここは死の海域の中だぞ。

 帆船(はんせん)辿(たど)り着くのは至難(しなん)の業だ。

 にも かかわらず、戦えるだけの戦力をまだ保有しているって…。

「まさか…」

 ウチは冒険者ギルドの外に出て まだ明るい空に微かに見える月を見る。

 半月(はんげつ)…波が一番穏やかになる時期だ。

 今の時期なら常に荒れている死の海域もギリギリ入れるレベルになっているのかもしれない。

 これを狙って入って来たんだな。

「その敵の装備は?」

「リボルバーライフルです。

 それと…敵の中に荷台を引いたバギーを見ました。」

「と言う事は、イングランド王国…。

 いやもう、イギリス(ブリテン)になっているのか?」

 ウチがケンブリッジ大学にいた時の技術が兵器転用されたのか…。

「被害は?」

「まだ出ていません。

 国民は大切な労働力ですから、無駄な損害を出す前に こちらに逃げて来ました。」

 トニー王国では 死人を出す事を極端(きょくたん)に嫌う。

 子供を産み、そこから教育をして立派な労働者にする為には 最低10年の期間が必要で、大変 金と手間が掛かるからだ。

「よくやった…良い判断だ…港は後で取り返す…今は 敵と戦わないで出方を見る。

 村人全員、リボルバーで武装。

 戦えるヤツは 冒険者ギルドの武器庫からM3グリースを装備…弾は1人150発だ。」

「分かりました。」

『緊急…こちらジガ…港の村から敵が上陸…。

 被害なし、装備からブリテンだと思われる。

 向こうの武器は リボルバーライフルにバギーを所有。

 すまん、ウチの技術が流出した見たいだ。』

『いや、想定通りだ。

 侵入者の出方を見つつ外交交渉に持ち込む。

 向こうも 終わりの無い殺し会いは回避したいだろう。』

『だと思いたいが…。

 異教徒に対しては、損害 度外視で皆殺しにする事も普通にあるからな…。

 よし、ウチが外交官として交渉しよう…』

 そもそも、ウチが ケンブリッジ大学に行かなければ この事態は 起きなかった事だ。

 ウチのわがままで起こる被害を最小限にする為にも出るべきだろう。

「よし…皆 銃を取れ…交渉に行くぞ」

 ウチが座っているソファーとテーブルをバギーの荷台に載せ、他の村人達は 別のバギーの荷台にガラス繊維の袋に砂を入れた土嚢(どのう)を次々と荷台に積んでいく。

 こちらの銃は、改良したM3グリース。

 後は ウチも含めた村人は 護身用の為にリボルバーを標準で装備している。

「殺し会いに発展しないと良いのですがね…。」

 村人はそう言い、集まった30名を引き連れ、ウチは交渉に向かった。


 海岸では2(せき)の船からの荷物を 大きな浮桟橋(うきさんばし)に下ろしている。

 その橋の下には テングサの金網が取り付けられて、降ろされた荷物は

次々とバギーの荷台に物資を積んでいる。

 だが、全員が乗る程の台数は無く、これは偵察や補給用だろう。

「船が大きいな…200人以上か…。

 手早くやれよ…。」

 ウチは海岸に外交用のソファーとテーブルを設置し、村人たちは その25m後ろに土嚢(どのう)の山を造って自分達の盾にしている。

「我が名はジガ…村の代表者だ!!

 異国の者よ、交渉がしたい…。」

 ウチは港で武器をバギーに積んで、今にも侵略して来そうな男達(ヤツ)に叫ぶ。

 男達は、こちらに銃を向ける。

 距離は25m…銃は 銃剣を付けたリボルバーライフルだ。

「銃を降ろせ…僕が交渉に応じる。」

 これは 予想外だ。

「ドライゼ…」

 そこにいるのは、青年となったドライゼだ。

 最後に会った時は ウチが火炙(ひあぶ)りにあった時で、当時は18歳。

 そこから5年と言う事は23歳だろう…。

「まさか生きているとは…お久しぶりです。

 5年も()つと言うのに アナタ顔は変わっていませんね。

 もしかして 不老不死(ふろうふし)なのですか?」

「いや…不老(ふろう)ではあるけど 不死(ふし)ではないね…。」

「そうですか…それは良かった。」

「良かった?」

 ドライゼが交渉用のソファーに座り、ウチも対面のソファーに座る。

「こちらの要求を伝えます。

 要求は この島の無条件降伏…。

 逆らう場合は武力を持って排除します。」

 ドライゼの目が動く…後ろの兵を指揮している聖職者を見ている?

「無条件降伏…。

 それは民族を根絶(ねだ)やしにされても文句が言えなくなります。

 その条件を飲めない事をアナタは理解しているはずです。」

「アナタはやり過ぎた。

 教会の権威は失墜し、統率が取れていた国内では 内乱が始まり、他国からの攻撃も受けています。」

「それは神からクレームが来る程、組織が腐敗(ふはい)しているからです。

 ウチは 言いがかりで大人しく殺される訳にも行きませんでしたし…。

 あなた方の目的は何ですか?金ですか?技術ですか?」

「両方です。

 我が国は度重なる戦闘で 貨幣鉱物が不足しています。

 この国は金を製造出来るのでしょう?」

「は?」

 思い返してみる…。

 確かに言った…が、ウチが言ったのは貨幣(かへい)であって金では無い。

 なるほど…教会はトニー王国が錬金術師の最終目標である 金の製造出来る国だと判断したのか。

 と言うか、その噂レベルの情報を信じて船を出す辺り、本当に財政がひっ(ぱく)している見たいだ。

「それに 未知の技術を持つトニー王国は 将来 我が国の脅威(きょうい)となるでしょう。

 なので、こちらが 対処(たいしょ) 出来る内に攻撃を仕掛けて戦力を落させます。

 確保した人材は 安価な奴隷として砂糖農園に送り、新しい技術を我が国が吸収して(さら)に強くなる…」

 安価な奴隷ね…。

 と言う事は とうとう奴隷の供給元のアフリカ諸国の人口が枯渇(こかつ)し始め、その希少性から奴隷の単価が上がって来たのか…。

「そんな事をしているから、文明が発展しないのですよ…。」

「……交渉は決裂(けつれつ)と言う事でよろしいですか?

 交渉に応じて(もら)えれば、政府の要人だけは 裕福な生活を保障出来ます」

「国民がいなくなった国で ウチらが快適な生活を送った所で無意味です。

 ウチには 国を守る義務がありますから…」

 ウチは立ち上がり、港を見る…船は2隻…。

 数は 上から下まで合わせて240人が戦列を組み始めている。

 予想より多い…400人の奴隷船よりかは少ないが、それでも相当船に詰め込んだな…。

 騎士服にローブを着た聖職者が人達が作戦の指揮を取っている。

 対して 今こちらにいる戦力は30…戦力差は8倍。

 国内で戦闘が出来る兵を含めても80人程度なので、3倍の戦力差だ。

 明らかに分が悪い。

 ウチは25m後ろにある土嚢(どのう)の壁を造って盾にした味方陣地に たどり着く。

「ご無事で…それで作戦は?」

 皆をまとめている臨時(りんじ)の隊長の村人が聞いて来る。

「ウチの指示でM3グリースで発砲…弾を節約しつつ 適当に撃って当たれば良い。

 その後は ウチらは無傷で()()()バギーに乗って村まで撤退(てったい)する」

「なるほど…5km歩かせるんですね…。」

 向こうは 歩兵全員を移動させられる程のバギーは無い。

 当然 移動は徒歩になるだろう。

「そっ…バギーの準備と作戦の伝達を頼む。」

「分かりました。」

 ウチはM3グリースで 敵に狙いを付ける。

 やっぱり、高価値な指揮官は 兵士の後ろから指示を出していて狙えない。

「悪魔を召喚する狂信者(きょうしんしゃ)達を殺せ!」

「殺せ!」「殺せ!」

 兵達が叫ぶ。

 あ~結局 悪魔認定されたか…。

 実際、アレが ウチらの演出だったから問題無いが、本当に神様だったら如何(どう)する気だよ。

「結局、自分達に都合の良い神様しか信じないって訳か…あ~一神教なのに…。」

「進め!!神の裁きを…太鼓を鳴らせ!!」

 太鼓とラッパで演奏される音楽が鳴り始める。

「おいおいおい…まさか…」

 白地に赤の十字が描かれた旗が(かか)げられる…。

 英国(ブリティッシュ)擲弾兵連隊行進曲(グレナディアーズ)…。

 つまり、相手は 軍服を着ておらず 私服ぽかったが、海賊の類では無く 統率(とうそつ)された正規軍と言う事か。

 個人の能力自体は低いが、(はがね)統率力(とうそつりょく)で制御された射撃は非常に脅威(きょうい)となる。

 しかも先込め式のマスケット銃では無く、ある程度の連射が効くリボルバーライフルだ。

『こちらナオ…非戦闘員の回収部隊と戦闘員と共に港村に向かっている。

 到着まで30分…持ちそうか?』

『十分だ。

 こちらは適当に撃って拠点(きょてん)まで撤退(てったい)する。』

『分かった。

 それじゃあ30分後…。』


 ザッザッザッザッ

 行進曲に合わせて兵士が一糸乱れない動きで歩き始める。

「ヤツらは、有効射程に入るまで絶対に撃ってこない。

 撃って来る前に敵を(けず)る…銃 構え!撃ち続けろ!」

 バババババッ

 味方側からのM3グリースで発砲…。

 戦闘員30人が各6発の弾を撃ち、合計で180発の弾が敵の戦列歩兵に向かって飛んで行く…命中…。

 最前列の兵士が 次々と撃たれて倒れる。

 が、後列が仲間の死体を踏み潰して欠けた列の穴を埋め、音楽に合わせて行進を続ける。

 死の行進(デスマーチ)だ。

 向こうもライフリングが付いている訳だから この戦術は悪手のはず…。

 だが、武器が良くなっても戦術は 昔のまま見たいだ…好都合。

「距離を詰められる前に有るだけの弾を撃ち込め!!」

 2射目…だが、行進は止まらない。

 この行進のペースだと4射までが限界だろう。

 3射目…だが、まるでゾンビの様に止まらない。

 こちらの射撃は 命中はしているが、死体に複数発 命中してしまい殺傷している数は、思っている程 多くない。

 確かに効率は良いのだろうが、この作戦を兵に強要している時点で 相手の方が(はる)かに悪魔だ。

「4射目を撃ち終わったら撤退(てったい)するぞ」

 4射目…残りのマガジンの弾を撃ち尽くし、敵の音楽が止み、兵が銃を構える。

「皆 撤退(てったい)だ!!」

 ウチが叫び、敵軍の発砲命令の(はた)を持っている隊長の頭を撃ち抜く。

 (はがね)統率力(とうそつりょく)を持つ兵士の弱点は 自己判断で動けないと言う事…。

 これで ほんの数秒だが時間を稼げる。

 味方達は バギーが引っ張る荷台に乗り、敵から距離を離しつつ荷台から撃ちまくる。

「うわっ…」

「うおおおおおお」

 こっちが撤退(てったい)したからだろう…。

 少数の勇敢(ゆうかん)で無能な兵士達が、敵の統率(とうそつ)が崩れたと判断して、勝手に銃剣を構えて掃討戦(そうとうせん)に移行…。

 銃はリロード時間が掛かる為、接近戦に弱く…最終的には銃剣で刺し殺して 決着が付くのが この時代の常識だ。

「あ~クッソ!」

 敵は こちらに銃を向けるが 射線に味方がいる為 撃ち殺す訳にもいかず 発砲出来ない。

 そして 仕方なく 勇敢(ゆうかん)で無能な兵士の後に続き、津波の様に走って来る。

 だが撤退(てったい)スピードはこっちの方が速い。

 こちらは 上手い具合に引き撃ちをしつつ、相手に撃たせない。

 当然 荷台から撃っているこっちの 命中率が下がるが…それでも撃ち続ける。

 大量の銃弾が放たれた事で無煙火薬の煙が煙幕となり、銃剣突撃の動きを阻害(そがい)し、こちらが逃げ易くなる。

「面白い具合に引っかかってくれたな…。

 速度、そのまま…敵との距離は 25m以上を維持しろ…」

 敵が有効射程だと思っている距離は25m…。

 それ以上引き離してしまえば 撃ってこない。

 しかも、バギーを追いかけつつ 走りながら撃つのは ほぼ不可能だろう。

「残弾レッド…そろそろ弾が()きます。」

「よし、全速力で引き離せ…港の村で補給を受ける。」

 ウチはそう指示し バギーを アクセル全開で加速し始め、港の村に向けて行った。

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