26 (子供に銃)〇
アトランティス村。
ファントムから放たれる ソニックブームの音で 冒険者ギルドにいた ナオ達は外に出る。
空を見ると緑色に光る人が空中で静止し、降りて来る…ファントムだ。
ファントムのコックピットブロックが後ろにスライドして、パイロットスーツを着た老人とジガが ファントムから慎重に降りる。
「ロバート・フックだな。
ようこそ、トニー王国 アトランティス村へ…。
オレらはアンタを歓迎するよ。」
「子供か?」
フックが言う。
「まっそう見えるけど大人だよ。
今年で一応 24かな…。
転生したり過去に行ったりしているせいで、定義によって歳が変わるんだが…。
ここでの代表…一応 オレらは 神と言う事になっている。
ナオ・エクスマキナだ。」
「キミも未来人なのか…。」
「そっ…。
で、こっちがクオリア…17歳だったか?」
「そうなるな。
クオリア・エクスマキナだ。
よろしく頼む。」
「ああ…よろしく
ん?その声…ジガを救った神か…」
「そうだ。
すまないな…神の名を騙ってしまって…。
ジガに対する 教会の対応があまりにもヒドイから 穏便に助けるには この方法しかなかった。
一応、宗教観を狂わす発言は していないはずだが…。」
「確かに教会も まさか神からクレームが来るとは思って無かっただろうからな。
神の名を借りて好き勝手していた教会には良い罰になっただろう。」
「で、ハルミ」
「ハルミ・サカタだ。
この国の医師を担当している。
で、しばらくは 私の診療所で入院しながら この村の勉強だ。」
「ジガから聞いているよ…。
名前にエクスマキナが入ってないと言う事は未来人では無いのか?」
「いや未来人だよ。
ただ、私は熱心な信者では無いが 一応カトリックでね…。
流石に神様は裏切れなかった。
ちなみに救出の作戦を立てたのは私…。
で、最後ロウ」
「ロウ・ワイズ ウルフ」
「悪魔憑きか…」
「むう…ロウ、狼」
ロウはマイクロマシンを入れて翻訳アプリを起動しているので フックが何を話しているのか理解出来る。
が、ロウは狼語が母国語でトニー王国語も話せるが、英語は話せない。
フックがマイクロマシンを入れていれば、母国語同士で話が通じるんだが…。
「そういや、結局 悪魔憑きって何なんだ?」
オレはハルミに聞く。
「元々は 奇形児の事…。
人の形から外れて産まれて来た子供が悪魔に見えたのが始まりだな。
で、母親と一緒に殺してしまう事によって、奇形児を産む遺伝子…まぁこの時代だと血か…。
を後世に残さないように淘汰する…それが本来の目的。」
「で、今は?」
「主に教会に逆らう人の事かな。
魔女が悪魔と契約をして魔法を使って貰うのに対して、悪魔憑きは悪魔と魔女のハーフだから単体で魔法を使える。」
「確かにロウに当てはまるな」
「むう…。」
「人の構造を変えちまう 遺伝子組み換えは 確かに悪魔の所業なのかもしれないが…。
ロウは獣人…品種改良をした人だ。
種族の性能は かなり高いぞ。」
「そうか…失礼したミス・ロウ…」
「許す」
フックとロウが握手をする。
「そんじゃあ…フックはハルミと一緒に行ってくれ。
話せるようになったら数学と科学の先生にするつもりだから。」
「分かった。」
……。
「さて、異文化交流は 文明の発展に必須だが、フックを生かした事でトニー王国に何が起きるか…」
オレは フックを見て そう言うのだった。
1ヵ月後…診療所。
薬をこの1ヵ月飲み続けて 定期的に血を抜かれて検査された フックは、ハルミの診療所の隣にある病室で生活し、この国の事を勉強しつつ 毎日 診療所に通っていた。
「はい…治ってるね。
これで完治かな…薬は後1週間 飲んで終わり」
「やっとか…。
そう言えば なんで治ったのに薬を飲み続けるんだ?」
私がジガに聞く。
「せっかく殺しつくした菌が、薬に耐性を持ち始めるかもしれないからな。
そうなると 今度は この薬が効かなくなる。
で、そんな菌が他の人に感染したら 今度は薬が効かなくなった状態で戦わないといけなくなる。」
「私の薬の飲み忘れで国が滅びるかもしれないと言う事か…。」
「まぁそう言う事…だから、治ったからって気を抜いちゃいけないんだ。
1週間後に また血液検査だな。
言っとくが…」
「『ヤるな』だろう。
確かに最近 元気になって来たんだが…」
「薬で菌が死んだからだな。
もし ヤっちまった場合は、相手の名前を私に言う事。
感染初期なら相手に迷惑を掛けずに普通に治せるから…。」
「分かった。
それじゃあ、学校に行って来るよ」
「はい、お大事に~」
ジガがそう言い、私は今の職場である学校に向かった。
私の職場である学校は、乳幼児を育てる保育所の隣にあり、子供から大人、黒人、白人、関係無く授業を受けている。
私も この1ヵ月間 ここに通った生徒だ。
トニー王国語は 日本語がベースに 物の名前が英語の為、比較的 覚えやすい。
今もカタコトではあるが 意思疎通は 出来ており、数学の教師としてある程度の講義は出来ているだろう。
と言っても この国の数学のレベルは 非常に低く、四則演算が出来る位で高度な計算が出来ない。
まぁそれでも 国民の全員が文字の読み書きと簡単な計算が出来ると言うのは非常に凄い事なのだが…。
学校の講義の中で驚いたのは 錬金術…ここでの科学に対しての理解があり得ないレベルで高いと言う事。
生活に必要な各種素材の入手。
薬品の調合や製鉄などの鍛冶。
燃素 事、酸水素にガスタンク。
建築など ありと あらゆる事を教え、教師は実際に現場で仕事をしている人で、生徒は 大抵 実際に作って見る事も出来る。
そして、学んだ生徒達は 職場で働き、仕事が暇になると また学校に戻って来て 学び始める。
この為、卒業と言う概念はあまり無く、私は聞いた事が無いが 国が金を出している無料の職業訓練学校と言うべき形になっている。
「本当に優秀な人材は優秀な教育によって生まれるんだな。」
パァン…パァン…。
銃声が鳴り響く、今日は銃の授業だ。
生徒達が持っているのはジガも持っていたリボルバーで、それを両手でしっかりと持ち、12m先の狂暴なポーズを取っている動物の絵に向かって撃っている。
その隣では ナオ達が正しい銃の扱い方を教えている。
弾の装填や撃ち方は当然だが、銃口を常に下に向ける銃口管理を徹底している。
これは誤射で味方を巻き込まない為だろう…。
そして 生徒の半分が子供だ。
「よーし、射撃止め…薬莢の回収だ。
6発撃ち切っている事を確認しろ…。」
ナオがガラス繊維の袋を持って来ながら言う。
生徒達は それぞれ6発の薬莢をナオが持つ袋に入れる。
「OK…的の回収良いぞ」
リボルバーの残弾を空にした状態で、生徒達は鉄で出来た的当て用の看板から熊などの猛獣が描かれた紙を剥がして、次の紙を張り付けて行く。
そして、撃ったチームが その場から離れた事を確認して 次のチームが 撃ったチームからリボルバーを受け取り、弾を装填し始める。
「よーし、急ぐな…ゆっくりと狙え…」
今度はジガが射撃チームに指示をして、またそれぞれ撃って行く。
「なあナオ…何で女子供にまで銃を撃たせるんだ?」
私は遠くから じっと射撃場を見ているナオに聞く。
「何か問題か?」
「女子供は 戦わないだろう…守られる存在だ。」
「ふむ…じゃあ聞くが、この銃弾には 年齢や性別を認識して避けてくれる機能でもあるのか?」
ナオが銃弾を私に見せながら言う。
「……。」
「無いよな…銃のトリガーを引いて、弾が当たれば 肌の色、歳、性別関係無く 誰でも死ぬ…銃弾は差別をしない…正しいの意味でのフェミニストだ。
差別するのは射手であるヒトだ。
なら もし、女子供が殺される状態になったら如何する?
女子供は 抵抗せず、大人しく殺されるのが正しいのか?」
「それは…」
「別に子供達に『銃を持って敵兵を撃ち殺しに行け』とは言わないさ…。
でも、森に行けば野生動物が普通に殺しに掛かって来るし、下手に教えないで 子供達が殺される方が怖い…。
だから、もしもに備えて訓練をさせている訳さ…安全管理を徹底してな。
って…オイ…撃つ寸前までトリガーに触るな!
暴発したら足を撃ち抜くんぞ!」
射撃場から目を離さずにいたナオが射撃場まで走り出す。
「出来れば、殺しなんて させたくないんだが…。
私が あまいのか…」
私はそう言い、ナオに叱られている子供を見た。




