24 (一生に一度の宇宙旅行)〇
緑色に輝く神が フックと 所々 皮膚が焼けて黒くなっている全裸のジガは 神の大きな腕に包まれて、空を飛んで行く。
『ジガ…寮に着く…。
パイロットスーツとキューブを なるべく急いで、あ~『40秒で支度しな…』だったか…。』
「流石に40秒は無理かな…。」
神は2階のジガの部屋の窓に手を出し、全裸のジガが窓から部屋に入った。
ジガが私室の中で 見た事も無い奇妙な服に着替え、手の平に収まる程のサイコロ…そして銃が入ったホルスターを腰に付ける。
最後に顔を覆う程 大きい兜を頭から被り、窓から地面に飛び降りる…。
「なっ…」
落下中なのに緑色に光るジガの身体が 減速を始め、ゆっくりと着陸…。
そんなの 自然哲学的に あり得ない。
神は膝をついて私を下ろす。
『ジガ…皮膚の張り替えの為にホープ号に戻るのだろう…フックは如何する?
私が連れて言っても良いが…』
「ウチが 連れて行く…。
フックは これから一生、トニー王国から出れないからな。
その前に宇宙を見せて おきたい…。」
『分かった。
私はトニー王国に戻る…』
神は 寮の前にあるジガが乗っていたバギーに手を かざす事で消滅させ、そのまま飛び上がり、物凄いスピードで雲を突き抜け、天に帰って行った。
「ジガ…キミ達は一体何を…」
「行っただろう…ウチは神の家系だって…。」
ジガがサイコロを地面に置くと サイコロを中心に しゃがんだ光る巨人が現れる。
さっきのジガを助けた神と同じ見た目だ。
そして、ジガの発音も町娘の様に砕けた感じになり、細かな態度も変わって来ている。
「それじゃあ…乗ってくれ」
「乗る?」
ジガは神の背中に飛び乗ると背中が広がって穴の中に入り、神の手が動き、私を掴むとジガと同じ穴に入れる。
背中が前にスライドし、私は 真っ暗な狭い部屋に閉じ込められた。
前の椅子に座るのは ジガ…私は 後ろの椅子に座る。
「はい…シートベルトをお締め下さい。」
ジガがそう言い 私の身体を椅子に拘束する…。
ジガは 前の席に座り 自分をベルトで身体を固定すると、私の周りの壁が光だし、外の風景を映し出す。
「なっ…」
だが、視点が多少高い…多分…神の目の位置だ。
「各システム異常なし…よし動ける。
ダイレクトリンクシステム始動…。」
神が歩く…多分、ジガが動かしているのだろう。
「一体これは?」
「戦う乗り物?…名前はファントム」
「亡霊か…」
「そ、さて…一生に一度の体験だ。
思う存分 楽しんでくれ」
「おおっ」
神…いやファントムが飛び上がり、一気に雲を突き抜ける…馬や鳥なんか比較にならない位に速い!
雲の上には 神の世界など無く、更に上昇して行く…。
「ジガ…何処に向かっているんだ?
トニー王国か?」
「いんや…宇宙船で通じるか?
焦げた ウチの身体を直さないといけないから…」
「宇宙を進む船…。
と言う事は この巨人は宇宙に行けるのか…。」
「そ…」
どんどんと地上から離れ…地図でしか見たことが無い 陸の形もはっきりと見える。
やがて昼間なのに空が暗くなり、夜空が見え始める。
下には丸く青い星…。
「あれが 地球なのか?
この目で観測した!やはり平面じゃなかった!」
「あら…まだ信じられていたのか?
地球平面説…」
「いや…とうの昔に否定されているが、私達は 直接 地球がどの様な形か見る事が出来なかった。」
「それじゃあ…丸かった事が分かった所で 宇宙船がある月の裏側まで行くよ…。
地上から見るより…良く見えるはずだ。」
「月…月に行くのか…。」
「そ…よし、もうベルト外して良いよ。
月までは1時間程度…」
私はベルトを外す…。
「うわっ身体が浮かぶ。
地球の引力は ここまで届かないのか…。
なぁジガ…外に出ても良いか?」
「いやいやいや…外は真空…空気が無い。
外に出れば、10秒で意識を失い…1分で死ぬ。
ウチ見たいな服を着ていれば、問題無いんだけど…フックは生身だからな」
「真空…そうかトリチェリの真空か…。
じゃあ星が止まらないのは、引力も空気も無い所を移動しているからか…。」
「まっここでも多少は引力がある。
じゃないと太陽の周りを周れないからな…。」
「ふむ…やっぱり、引力は重さの力なのか?」
「ああ…1921年にアインシュタインが、発表するはずだ。」
「218年後か…。
重さの力だと言う事は確信していたが、数式で表現出来なかった。
それで、キミは何年から来た?」
「2601年…そう言えば ウチが未来人だと良く分かったな…。」
「錬金術師なのに行動に迷いが無い。
答えが分かっていて、それを隠して私達を誘導している見たいだった。
それにしても…今から898年遠いな…」
「基礎理論は2050年位に出来てる。
それからの暗黒時代が長かったからな…。」
「それでキミ達は、何故この時代に?」
「2600年に起きる太陽系の消滅を回避する為さ…。」
「つまり、過去にさかのぼって その原因を排除する事で未来を変えると言う事か?
だが、過去を変えてしまったら未来との整合性が合わなくなる。」
「おっタイムパラドックスだな。
ただ、この世界は上書き式…。
ウチらが干渉した時間より、未来は書き換えられない。
変えられるのは、過去の世界だけ?」
「ん?分からないな…。」
「う~ん…何て説明するか…。
時間は『今』と言う一瞬が過去と未来に無数に広がった状態だ。
で、それが一定のスピードで過去から未来に進んでいる。
ウチらが書き換えている この一瞬は、未来からは過去になるから通れない。
だが、過去の世界は ウチらが書き換えた道を通って進む…だから過去には干渉 出来る。」
「ふむ…それじゃあジガが頑張っても 太陽系の消滅を回避する術はないじゃないか…。」
「そう…ウチらがいた世界で起こっている事は変えられ無い。
だが、まだ事件が起こっていない この世界なら変えられる。」
「キミ達の世界には 何のメリットも無いのにか?」
「そ、そのメリットの無い時間のループを何十周もやっているから、人類の絶滅が避けられたんだ。
多分…次の世代はもっと、良い世界になるだろうな…。」
「長い話だな…。」
「まぁな…でも やる価値はある。
前のウチらがやって来たようにな…」
地球を出てから1時間…。
ファントムが 減速して月の軌道に入り、月の裏側が見えて来る。
「よし…見えて来た賢者の海だ。」
「海…これが?」
海とは言っているが、そこにあるのは巨大な穴…で、地面には巨大な筒が半分まで埋まっており、側面には『Hope!!』と大きく描かれている。
「希望か…」
「そ…さぁとっとと直して、トニー王国に戻るよ。
まぁ1日は掛かるんだけど…。
終わるまで宇宙旅行を楽しんでくれ…」
「ああ…一生分の思い出になりそうだ」
私は そう言い、ファントムは ホープ号の中に入って行った。




