表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/339

23 (神からのクレーム)〇

 3日後…死刑執行日(しけいしっこうび)

 周りを埋め尽くす程の人が見える。

 教会が馬車を出したのか、近隣の村からも わざわざ来た人もいる。

 最前列には 見せしめだろう…フックやニュートン、(りょう)のメンバーもいて こっちを見ている。

「魔女、ジガを前に…」

「ハッ!」

 手を後ろにしてロープで(しば)られている ウチは 男2人に引っ張られて行き、手を広げた状態で 十字架に金具で固定される。

「集まった敬虔(けいけん)なる信者よ…。

 これより『魔女 ジガ』の処刑を始める。

 彼女の罪状は 異教の神を信じ、貴族のメイドに毒を売り付けて 主人を殺させ、(さら)に不老不死の薬と偽って 薬を渡し、神の代弁者(だいべんしゃ)である大司教を毒殺した事だ。」

 あ~アイツ大司教だったのか…。

 司祭がでっち上げた、詳しい経緯を信者たちに話して行く。

 そして ウチが独房に入れられている間に新たな罪状も増えた。

 ウチがリシン中毒で 多臓器不全(たぞうきふぜん)になっているフックを助ける為に作った薬…。

 それは 寿命の限界と言われている 多臓器不全(たぞうきふぜん)を治した事で、疲れて死に掛けている臓器(ぞうき)を若返らせる効果があると思われた。

 錬金術の最終目的の1つ…飲めば 不老不死(ふろうふし)になれると 伝えられる霊薬である エリクサーだと 大司教様は 盛大に勘違いした。

 その後、薬のテストの為にフックと同じく 多臓器不全(たぞうきふぜん)になっている何人かのリシン中毒者に飲ませ、回復してしまった事から、大司教様の勘違いは(さら)に強くなって行く。

 如何(どう)やら、貴族の家では 使用人が気に食わない主人をリシン中毒にさせて殺す事が流行(はや)って いるみたいで、医師側に寿命だと思われていたのは、高齢の貴族に発症する数が多過ぎる からだった。

 確かにリシンを知らずに統計で調べれば、寿命の限界に見えてしまう…。

 そして、それが この毒が発覚されず、完璧な暗殺が出来る理由になる。

 あのウチがトウゴマの実を買った闇商人は 相当 手広く商売をしていたらしい。

 で、大司教様は フックが生きている事に 文句を言っているにも関わらず、大司教様は 不老不死(ふろうふし)とされる薬を飲んで永遠の命を得ようとし、エリクサーを服用し続けた。

 ただ 成分的には 水で(うす)めた漂白剤(ひょうはくざい)だ。

 リシン中毒には効くが、用法用量を守って 正しく使わないと毒物にしかならない。

 と言う訳で 大司教様は 勝手に持ち出して、勝手に勘違いして、勝手に飲んで、消化器官と呼吸器系の不調から勝手に死んだ。

 訳だが、ある事 無い事の責任は 全部ウチに来た…。

 弁護士はいなく、裁判官、検察(けんさつ)陪審員(ばいしんいん)該当(がいとう)する人物は 全部 教会の人なので、ウチは悪魔と契約をしている魔女として認定され、聖なる炎による火炙(ひあぶ)りの刑で、悪魔を浄化するらしい。

 キリスト教での価値観では、死体を土葬(どそう)して保存される事で いつか来る最後の審判(しんぱん)で復活を果たす時に魂が入る肉体となる。

 それを火葬(かそう)して肉体を無くしてしまう事は 帰る場所が無くなる事を意味し、かなり不名誉(ふめいよ)な事になる。

「最後に言い残す事は?」

 司祭がウチに聞いてくる。

「そうですね…。

 私の名前はジガ・エクスマキナです。

 まず、私は、魔女ではありません…錬金術師です。」

 ウチは 高らかに信者に向けて言う。

「黙れ!悪魔と契約をした魔女がぁ」

 最前列で民衆(みんしゅう)(あお)る サクラが ウチに対して罵倒(ばとう)を上げ、一般人も次々と同調して、ウチに罵倒(ばとう)を浴びせ続ける。

 この時代の魔女とは 悪魔に赤ん坊を生贄(いけにえ)に捧げたり、悪魔と性交渉する事を代償(だいしょう)に様々な魔法を悪魔が使ってくれる。

 例えば 嵐を呼ぶ魔法。

 男を性的不能(ED)にする魔法。

 畑の作物を(から)す魔法。

 牛、羊、ヤギなどから乳を出なくする魔法などを使う事が出来る。

 そんな魔法が 本当に有るなら、構造解析して真逆の魔法を作って見たい所だが、実際には そんな魔法は無く、早い話、この時代の あらゆる理不尽(りふじん)責任転嫁(せきにんてんか)する為のサンド(パンチング)バッグが魔女だ。

 つまり、目の前で罵倒(ばとう)をウチに浴びせ続けている民衆(みんしゅう)は、不作や飢餓(きが)に悩まされた経験を確実に持っているので、理不尽(りふじん)(かたまり)であるウチの死を望むわけだ。

 なるほど…これでウチが死ねば、理不尽(りふじん)にあっている民衆(みんしゅう)のストレスの発散が出来ると言う訳か…良いシステムだ。

「私は『錬金術で人を助ける』と言う 私の神の教えに(したが)い、ある人を薬で助けました。

 が、教会側は、ヒトの運命を異教の薬により(ねじ)じ曲げたと判断されました。

 確かに私は、死ぬはずだった命を救いました。

 ですが、それは悪い事なのでしょうか?

 私達が大切な人を助ける事さえも、悪い事なのでしょうか?

 恋人を…我が子を助けては いけないのでしょうか?

 そして、皆さん考えて下さい…教会は正しいのでしょうか?」

 教会が文句を言っているのは、寿命である多臓器不全(たぞうきふぜん)のみ…。

 だが それを 大切な人、恋人、我が子と拡大解釈(かくだいかいしゃく)して、それを全部 教会が否定していると()りこむ。 

「黙れ異教徒!」

 これを理解している教会の人達が叫ぶ。

「信者の皆さん、魔女の言葉に(まど)わされては行けません。

 彼女の目的は 教会の権威(けんい)失墜(しっつい)だ。

 私達の行いは 神に認められいる!

 刑を執行する 燃やせ!」

「ハッ」

 司祭の合図で ウチの足元にある松明を近づけられ、(まき)に火が付く。

「さあ…魔女、オマエの行いが正しいと言うのなら、オマエの身体は火の熱さを感じず、身体は燃えないはずだ。」

 無茶苦茶だ…人の構成(こうせい) 成分(せいぶん)で考えれば確実に燃える。

 つまり ウチが焼け死ぬ事で、その行いが間違っていると信者に印象付けるのだろう。

 ただ…この方法には 1つ欠点がある。

「そうですか…なら、ここで 宣言しましょう。

 私はこの(まき)が燃え尽きるまで 火の中で生き残り、正しさを証明しましょう!

 ああ神よ!…この光景を見られている神よ!

 アナタは、ヒトが生きる為の努力を認めないと言うなら今すぐ私を燃やしなさい。

 そして もし、努力を認めるなら私を救いなさい。

 さあ神よ!」

 私は天に向かって信者に はっきりと宣言をする。

「……服は燃えたが身体は 燃えていないぞ」

 観客の一人が言う。

 (かいこ)の糸で作られて服は よく燃え…ウチは 全裸になる…。

 胸から下まで皮膚(ひふ)()げているが、全然 燃える気配が無い。

 当たり前だ…焚火(たきび)の温度は精々(せいぜい)が1000℃…。

 ウチの身体に使われている装甲材は炭素繊維で3000℃の温度まで耐えられる。

 ふふふ…これは司祭様も想定外だろう。

「燃えない…異教徒…魔女なのにか?

 と言う事は、神はアイツを許した…正しいと言う事か?」

 信者の中にも疑念(ぎねん)が生まれる。

「クッ…この温度で平然としている…それこそ、ヒトの力では無い…。

 彼女は悪魔と契約をしている…これは悪魔の力だ。

 皆さん、悪魔の言葉に(まど)わされては 行けません。」

 司祭はウチに対抗して ウチが燃えないのは悪魔の力だと決めつける。

 燃えれば、間違った(おこな)いをしていると言われ、燃えなければ 悪魔の力だと言う。

 そもそも これだと前提条件を否定しちまっている。

「そうだ!そうだ!悪魔の力だ。」

「人が燃えない何て不自然(おか)しい…異教徒だからだ。」

 サクラがヤジを飛ばしてフォローする。

 このヤジの言い分が正しければ、信者全員が正しい行いをしていない事になり、燃えないウチだけが正しい事になる。

「そうだ!そうだ!」

 とは言え、整合性(せいごうせい)を あまり気にしないのが宗教だ。

 でなきゃ こんな矛盾だらけの神を信仰(しんこう)する事なんて出来る訳もない。

「おお神よ…私をお救いありがとうございます。」

 ウチは舞台役者の様に大袈裟(おおげさ)に言う。

(だま)されるな…これは 決して神の力では ない。」

「はたして そうなのでしょうか?」

 ウチは司祭に顔を向けて言う。

「なっ」

 次の瞬間…上空から緑色の量子光で輝き、まるで十字架(じゅうじか)の様に手を広げている4.5m人型の巨人の神が、空から ゆっくりと降りて来る。

 神はウチが固定されている十字架を引き抜き、その巨体に似合ない正確な手付きで 金具を切断してウチを開放する。

「感謝します。」

『なあ…司祭…私は異教徒を燃やせと言ったか?』

「は?」

 司祭は巨人を見上げる。

「まさか…神…本当に…。」

『私は 言った覚えが無いのだが…。

 しかも、随分(ずいぶん)と私の名前を使って 好き勝手やっている様だな…』

「いや…神がいるはずが…いや、神が地上に降りて来る訳はない!

 そうだ…これは、魔女が召喚した悪魔だ。」

『悪魔…そうか…。

 では聞こう…私が神で無いと言うのなら、オマエは()()(つか)えているんだ?』

「あっ…あっ…。」

 司祭が青ざめる。

 キリスト教では、聖書で偶像崇拝(ぐうぞうすいはい)を禁止されているので、宗教画であっても、神の表情や姿は分からなく描かれる事が大半だ。

 なので、神の人相(にんそう)や身体が如何(どう)なっているのかは誰にも分からない…。

 つまり、この神が本物かを証明仕様(しよう)が無い。

 だが、実際に神が現れて、司祭が神を悪魔と言った。

 神の『誰に(つか)えているんだ』と言う発言から、司祭は 別の神に(つか)えている可能性が出て来る。

 ただ キリスト教では 神は1人とされているので、別の神がいる訳も無い…。

 と言う事は皆が信仰(しんこう)している唯一神(ゆいいつしん)では無く、何かは知らないが 異教徒(いきょうと)信仰(しんこう)している存在しない事になっている神か、悪魔を信仰(しんこう)している事になる。

 つまり この司祭は異端者(いたんしゃ)だ。

『では、ここで宣言しよう…。

 私は 私に対する信仰(しんこう)を押し付る気はない。

 私を信じるか 信じないかは、個人の自由だ。

 そして、私は君達の心の中が見えると…言っておく。

 言葉では 嘘を付けても、心は嘘は付けないと覚えておくが良い。

 さあ ジガ…フック…こちらに…』

 神はしゃがみ両手を出す。

「はい、神よ…」

 あちこちが焦げている全裸のウチは神に近寄る。

「光栄です。

 ()()()()()()()よ…」

 ウチとフックが近づくと身体が浮かび上がり、手に平に乗る。

『2人を安全な所に連れて行く。

 もう一度言おう信者たちよ…私は信仰(しんこう)を押し付けない。

 私が天から降りてこないのは、私が降りると人々に信仰(しんこう)を強制してしまうからだ。

 今の言葉を良く覚え、良く伝えるが良い。

 では…私は信者達の正しい信仰(しんこう)を期待する。』

 神は背中から量子光を吐き出して 空に向けて飛び、信者から見えなくなった。

 その後、神から教会への直接のクレームで 教会の権力が大幅に()がれた事は 言うまでも無い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ