22 (正直者は嘘つき)〇
翌日…朝。
「教会だ!…ジガはいるか?
大人しく出て来い!!」
2階のウチの部屋の窓から見ると寮の前で剣や槍で武装した教会の関係者っぽい服装の兵士が叫んでいる。
その後ろには馬車があり、司祭?がいる。
人数からして かなりの大事だ。
ウチは 私服では無く、男性用乗馬服を女性向けに改造した様なスーツを着て私室から出る。
まだ朝日が昇って来たばかりで、まだ薄暗く眠っていたい早朝に罵声で叩き起こされた皆は、それぞれの服装で私室から出て来て2階の廊下に出て来る。
「また何かやったのか?」
アルがウチに聞く。
「いいえ」
「また私関係だろうか?」
フックは リシン中毒になった あの日から自分を暗殺から守る為に療養の名目で ウチらの寮で寝泊まりをしている。
今日中に荷物をまとめて、夜中にフックを連れて国に帰ろうとしたいた所だ。
「いいえ…ジガと言ってましたからね…私でしょう。
行ってきます。
私に何か有れば、後は よろしくお願します。」
「相手は教会です…気を付けて。」
「分かっています。」
ドライゼの言葉にウチが答え、皆と一緒に1階に降りる。
「はいはい…早朝から怒鳴らないで下さい。」
ウチがドアを開けると、兵士達がリビングに流れ込んで来た。
「ジガ・エクスマキナは?」
「私です。」
「一緒に来て貰おう…。
キミには疑いが掛かっている」
「疑いですか…何の?」
「異性装罪、殺人罪だ。」
「異性装罪ってジャンヌ・ダルクですか?
確か270年も昔ですよね…」
異性装罪は、自分の 性役割に属するとされる服装をしない事とされている。
が、この服のデザインは 男性の馬車服だが、女物のビジネススーツに近いデザインで注文している。
「その服は 明らかに男物の乗馬服だ。」
「確かにベースは男物ですが、ちゃんと服屋で 仕立て直して貰っています。
胸の部分とか…それにネクタイもしていませんし…。」
「(ジガ…確かに異性装罪は まだあるが、それで 捕まったと言う話は聞いた事が無い…。
明らかに言いがかりで捕まえる気だ)」
フックがウチ隣で小声で言う。
「なるほど…。」
別件逮捕って事か…。
とは言え 殺人容疑も掛かっていると言うのに別件逮捕を使うのか?
「それで…殺人の方は 私は誰を殺しましたか?
覚えが無いのですが…。」
「何を…そこに1人 いるだろう…。」
兵士がフックを指差す。
「私か?」
「そうだ。
ジガ…おまえは、トウゴマの実から毒薬を作り、貴族の屋敷のメイドに売りさばいて 間接的に貴族の暗殺を行った。
しかも、遅延式で 寿命と判断される多臓器不全を意図的に起こす毒を使って…。」
「は?私が貴族を殺す為に売りさばいた?」
全く覚えが無い。
「覚えが無いとは言わせないぞ、ロンドンの闇商人から大量のトウゴマの実を買ったそうじゃないか…。
商人の方は 薄情したぞ。」
あ~ひまし油の為に買ったあの商人か…。
なるほど アイツがメイドに 売りさばいていた商品をウチが転売したと言う事になっているのか…。
「私は油の調合が目的で 購入したに過ぎません。
それに 私は トニー王国から『こちらの国との国交をするか』を見極める為に来ています。
要人の暗殺など 明らかに我が国に取って不利益となる行動です。」
「いや違うな…おまえの目的は、我が国の要人を暗殺する事で 国を機能不全にさせて、のちに起きる侵略戦争で自分達の国を勝たせる事だ。」
あ~自分の国が他国を侵略しまくっているから、相手国も同じ事をやると言う発想になるのか…。
「では何故、私は フックを助けたのですか?
あなた方の理屈なら、私は フックは 助けず 殺さなくては行けません。」
「それは、フックが 講義中におまえの目の前で倒れたからだ。
恐らく 毒の摂取量の問題で予想より早く効果が出始めたのだろう。
目の前で倒れた人に対して何もしないのは犯人として 疑われるからな。」
と彼は言っているが、今 ウチはフックを治したから疑われている訳で…。
「そして、その日の内に薬を調合して翌日にはフックを治して見せた。
おまえが治せたのは、自分で毒を盛っていたから 解毒の方法も知っていたのだろう。」
あ~そう来るか…。
とは言え、速攻で治さないとフックは死んでいた…これは仕方ない。
「そして 殺すのではなく 治療した事でフックに恩を感じさせ、自分の国に連れ帰る事で、彼の知識を自国に取り込もうとした。
しかも、自分の犯した罪をニュートン学長に擦り付けようとした。
これは許される事では無い。」
なるほど…ニュートンがすべての罪をウチに擦り付けたのか…。
そして、実際に擦り付けた 本人は教会に許されると…。
「んな無茶苦茶な…私はやっていません。」
「いや…すぐに自分の嘘を認めて、神に許しを請う事になる。」
「自身の罪を告解して、神に頭を下げれば 罪が許されると…」
「いや…例え神が許しても、教会が許さないだろう…。
それに応じた刑が執行される。」
おいおい…神に仕えているはずの教会が、神より優先されるのかよ。
まぁ下界の法執行機関だと言えば、分からなくは無いが…。
てことは 正直に やってないと言っても、やったと 嘘を吐くまで、拷問に掛けられて、その嘘が 正直として扱われるって事か…。
結局、正直の定義は教会によって決められるって事だな…。
さて、如何するか…。
ここで兵を皆殺しにして そのまま 国に帰る事も出来るが、次は寮の皆が教会の敵と判断されかねない。
「分かりました…一度捕まり、身の潔白を証明する事にしましょう。」
「(良いのか?身の潔白なんて証明出来無いぞ)」
フックが小声で言う。
「(ええ…今 私が捕まらなければ、あなた達が疑われますから…私の神に助けて貰える様に祈って見ます)」
ウチは兵士に手錠を掛けられ、兵士に囲まれる様に馬車に乗り、寮を去って行った。
ウチは 教会の奥の扉を通り地下への階段を降りて行く…そこにあったのは、教会に似つかわしくない牢屋だ。
「ここで死刑の日まで大人しくしていろ」
ウチを引っ張って来た男が そう言うと牢屋にウチを入れて鍵を閉める。
「死刑?弁明の機会は?」
「オマエは 無理やりでは無く、大人しく手錠を掛けられただろ…それは罪を認めた事だ。」
「そう言う事ですか…。」
弁護士もいなく、裁判官、検察、陪審員は 全員が 教会の人と…一切の救いが無い…。
「これは…協力を頼むしかありませんね…。」
ウチはそう言い、ハルミに連絡を取った。