08 (宣戦布告)〇
海岸から40km程 行った先にある標高300mの 傾斜の低い なだらかな山。
特徴としては頂上が ほぼ真っ平で、杉、竹、果物の木を中心とした大規模な森があり、その中心部には直径1kmの綺麗な円形の湖がある…。
標高が低い気がするが、地形的に考えるなら火口湖か?
火口湖とは、火山の噴火で出来た 噴火口などの穴に 雨や地下水などの水が溜まって出来た湖で、綺麗な円形になるのが特徴だ。
その湖から一本の川が流れていて、それは ナオ達が今 拠点にしている竹の森の付近の川に繋がっており、昨日の牡蠣スープの水は この川の水を使っている…。
そして その川は オレ達が初日にいた海まで繋がっている。
オレが乗るファントムは 村の外の広場に堂々と垂直着陸し、駐機姿勢にて コックピットブロックをスライドさせて機体を降りる。
村はオレが来た事により騒がしくなっていて、すぐさま男達が竹槍や竹弓を持ち始めている。
ボウガンや火薬を使う火器類は無しか…。
それにしても対応が早いな…森の動物が村を襲いに来る事が多いのか?
オレは ゆっくりと村へ歩く…。
村の周辺には 数本の竹槍を角度を付けて 取りつけて固定した大量のバリケードで囲まれている。
獣が突っ込んできた場合、簡単に殺られるだろう。
と言うより、槍に警戒して近寄らないか…。
その槍のバリケードが無い場所は 真ん中の通路しか無いが、竹製の壁のように大きな盾を数人がかりで持ってき、出入口を封鎖…。
竹の盾の所々に空いている穴から男が竹槍を差し込み、出入り口の強行突破に備えている。
これでは 簡単には近づけない。
更に 出入口の左右を見て見ると、竹製の見張り台が建てられている。
弓兵が竹のはしごを上って見張り台に行き、右3左3の6人の弓兵が備え付けの石を取り付けた竹の矢を使って竹弓の弦を絞り、こちらに向けている。
そして、これで 向こうは遠距離から安全にオレを始末する事が出来るようになった。
「良い配置だ」
これで遠距離攻撃が使えない動物は仕留められる…。
ただ、対立する人間がいなかったからだろう…対人戦は想定されていない…。
この時代なら最初期のマスケット銃が生まれてから200年も経っているし、時代的には フリント・ロック式のマスケット銃があっても不自然しくないのだが、加工が簡単な竹の武器で対処出来る為、武器が発展しなかったのだろう…。
文明で言えば 縄文時代終盤と言った所だろうか?
確かにクオリアの言っていた通りだ。
「何処の者だ!立ち去れ!ここは貴様の様な余所者の来るべき所ではない!!」
右の見張り台に上がった弓を持っていない白人で中年の男が言う…歳は40位か…。
縄文人の寿命が30歳位だったはずだから 栄養環境が良いのか?
それとも かなり高齢の部類なのか?
どっちにしても、コイツが村長的な役割で間違え無いだろう。
言語は 日本語ベースで名詞が英語の『トニー王国語』…。
オレ達がトニー王国語で国民を教育したから、トニー王国語が そのまま 使われていたのだと思っていたが、元々現地民の言語だったのか…。
「我が名は機械の神、ナオ・エクスマキナ!!
この村を貰いに来た!!…逆らうヤツには容赦はしない…。
が、逆らわないなら飢えが無く、今より快適な生活を保障しよう。」
オレは神様モードで高圧的に言う。
当然だが 相手が この言葉1つで無条件降伏して村を明け渡すとは到底思えない…むしろこれで明け渡すなら統治者として大問題だ。
だが、予め オレがコイツらに警告して 敵からの攻撃を誘発させる事により、こちらは自衛の為にやったと言い張る事が出来る。
そして その自衛攻撃で統治者が負傷、または死んでくれれば、無政府状態で統率が取れない村に対して、治安維持活動の名目で公式に武力を行使 出来、トニー王国に吸収させる事が出来る。
古今東西 使われている ありふれた戦術だ。
「ふざけるな!オマエが神だと?…私達の神は村の創始者『レナ様』だ。
殺せ!!」
村長の命令で矢が放たれる。
オレは即座に回避…。
矢の弾道を予測める為、回避自体は楽だが…弓の狙いは正確で、オレの胸があった部分に矢が通り抜ける…。
弓兵の能力は非常に優秀…多分 練度が半端ない。
とは言え、レナが創始者だと?
話から察するに、この村の精神的支柱をになっている神様に近い人物と言った所か…。
オレの友人と名前が一緒だが、この時代にいる訳無い…別人だろう。
オレは 矢の装填時の隙を狙って、ウージーマシンピストルを見張り台の柱になっている竹に向け、発砲…。
左右の見張り台の柱に3発ずつ撃ち込み…見張り台が傾き、倒壊を始める。
「うおおおおっ」
矢を装填中の弓兵が叫び…5mの下の地面に叩き付けられる…6人を無力化…。
弓兵は身体をひねり 背中から綺麗に地面に落ちる…あれなら 死にはしないだろう。
オレは後ろ向きで後退しつつ ファントムに乗り込み、立ち上がる。
あのまま 出入口の竹の盾を撃ち抜いて そのまま突破しても良かったのだが、敵の戦意を喪失させるならファントムが適任だ。
4.5mの巨人が正面から堂々と乗り込み、ガードしていた男達は こちらに潰されないように槍を盾から抜いて逃げ、竹の盾はズダズダに破壊される。
が、男達はすぐに体勢を立ち直して 竹槍を構え、思いっきり突撃して来るが、当然ながらファントムの装甲に当たって折れる。
オレはファントムのボックスライフルを対歩兵戦モードに設定して20mm弾をセミオートで男達に当たらないように撃ち込む。
初速を落としているとは言え、20mm弾…。
次々と地面に大穴が空いて行き、男達は座り込んでしまった。
地面に叩きつけられた弓兵と村長も怪我をしつつも無事見たいだ。
「何が目的だ?」
立ち上がった村長が言う。
「だから、村を寄こせって言ってるだろう。
大人しくしていれば 殺す気は無いし、暮らしも豊かになるって…。」
何か裏があると思っているのか?
まぁこんな好条件だったら、何かあると思うか…。
「とにかく、オレらが欲しいのは人手だ。
30日後には オレ達、100人の仲間が、全員この周辺を拠点にする…逃げても無駄だ。
この巨人がいるからな」
オレはそう言って敵情視察と宣戦布告を終えると ファントムをゆっくりと見せつけるように上昇させ、オレ達の拠点に戻って行った。