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18 (2人の天体観測)〇

 冬のある日の夜…。

 ジガ(ウチ)は寮の前の草原に降ろして 最近作った ニュートン式望遠鏡を使って月を見ている。

 今日は雲1つない夜空で満月の月が綺麗に見える。

流石(さすが)に この望遠鏡だと文字までは見えないか…」

「おっ懐かしい望遠鏡だな。

 隣、良いか?」

「ええ…ってニュートンさん?」

 そこに いたのは、幌馬車(ほろばしゃ)に乗ったアイザック・ニュートンだった。

「ああ…月を見ているのか…もしかして 月に書いてある文字か?」

「あれっ知ってるんですか?

 天体観測は もうやっていないと思っていたのですが…。」

 今のニュートンは 王立協会に所属している研究員の他に 王立造幣局(ぞうへいきょく)長官の肩書を持っていて、偽金作りを激減させている所だ。

 そして、人類史上一番 厄介(やっかい)な、金本位制(きんほんいせい)が誕生するキッカケとなる。

 この価値観が浸透したせいで、金や銀などの希少鉱物を如何(いか)に確保するかが、国の予算を決め、労働力は大量にあっても 金が無くて予算に制限が掛かり 失業者が大量に発生していると言う、バカみたいな事になる。

 通貨の価値は 交換出来る 希少鉱物の量で決まるのでは無く、それと交換出来る労働力で決まる。

 極端な話、国のすべての人を限界まで酷使(こくし)させる位までは 金を発行して良く、国民を働かせる分には 財政難になる事は無い。

 まぁ他国が足枷(あしかせ)を付けるならウチの国としては良いんだが…。

「2年程前にハレーが 自分の大型望遠鏡で月を見た時に文字を発見したんだ。

 毎日 天体観測しているハレーが いきなり気付いたと言う事は、あの時 誰かが文字を書いた事になる。

 それから私も時々 観測をしている。

 ここは邪魔が入らなくて周りの光も少ないから天体観測には うってつけなんだ。」

「それで ここに…。」

「ああ…それと 月の文字なんだが アルファベットなのに 何と読むのか分からない。

 もしかして、何が書いてあるのか 知ってればと思ってな。」

 ニュートンは ウチに羊皮紙を見せる。

 そこには『Ni venis ĉi tien per kunlaboro kun maŝinoj.』と書かれている。

 ウチらが月の静かの海に到着して地球を観測している時に ナオとハルミにロウの3人が月の地面に塹壕(ざんごう)を掘って文字を書いた物だ。

 まさか掘った その日に地上から見ているヤツがいるとは…。

「エスペラント語ですね…。

 意味は『私達は機械と協力する事で ここまで来ました。』」

「へぇ良く分かるな…。」

「ええ…それを書いた月の人は トニー王国にいますね。

 夜空の世界を移動する船が壊れて この星に降りて来たんですよ。

 もう月に行けないらしいのですが…。」

「キミの錬金術が発達しているのは その月の人に教わったからか…。」

「ええ まぁ…」

 そして、その月の人がトニー王国 国民の神となり、知識を与えて行ったと言う神話になっている。

 まぁその月の人と言うのは ウチらな訳なんだけど…。

「何で文字を残したんだ?」

「一番の目的は 自分が いたと言う記録を残したからですかね。

 そして、私達の技術で もう一度 月に行ってほしかった。

 エスペラント語なのは 宇宙人の意思疎通(いしそつう)が この言語で出来ると言う事。

 『機械と協力する事で ここまで来ました。』は月に行ける船を発明出来ると言う事です。」

 更に、土を掘り起こしてあるので、わざわざ探査機を月に着陸させて地面を掘らなくても月の衛星軌道から土の下の成分が分かるなど、月の開発が進むキッカケを作るのが あの文字の目的だ。

「よっと…こっちの方が良く見えるだろう。」

 ニュートンが幌馬車(ほろばしゃ)から降ろして組み立て始めたのは 大型の望遠鏡だ。

「金掛かってますね…。」

「まぁな…昔の私なら手が届かなったが、今の私の収入なら大した事は無い。

 私の運命を創ってくれた神に感謝だな…。」

 今のニュートンの年収は2000ポンドでかなりの金持ちだ。

 趣味の為なら この位の金は普通に出せるのだろう。

「ほら、ここら辺だ 。

 流石(さすが)にこの大きさでも見えないんだが…。」

 ウチは ニュートンの望遠鏡を使い月を見る。

「う~ん やっぱり見えませんね…。」

 まぁ月の大きさが3474.kmで、それの3474分の1と考えれば見えなくて当然だ。

 と言うか、ハレーは どんなイカレ性能な望遠鏡で観測しているんだ?

「やっぱり月には行って見たい。

 が、私が死ぬまで時が経っても無理だろうな…」

「そうなのですか?」

「ああ…これでも 一応、計算してみたんだ。

 だが、推進剤と船の重さがネックでな…。

 スピードを上げて、この星の周りをずっと落ち続けるには、推進剤が圧倒的に足りないと分かった。

 多分、もろもろの問題を解決出来たとしても 重量の90%は燃料になりそうだ。」

 おおっロケットか…しかも、大雑把とは言え一応 合ってる。

「鳥の様に私達も飛べれば良いのですが…。」

 それからしばらくは、2人で天体観測をし、宇宙の事に付いて話した。


「それじゃあ…そろそろ、戻る。」

 ニュートンが ゼンマイ式の時計を見て言う。

「それでは…また。

 あっそうだ。

 南海会社(なんかいがいしゃ)の株は 買わない方が良いですよ。」

 この会社は 黒人奴隷の海上運搬をしている会社で、多分トニー王国にいる元黒人奴隷達の出荷元の会社だ。

「南海会社の株か…持っているが何でまた?」

「いえ…私の国は奴隷の情報に関しては詳しくって…。

 それで 月を見て『私は天体の動きは計算できるが、人々の狂った行動は計算できない』と言う言葉を思い出した物で…」

 この言葉は1720年に起きる大暴落…南海泡沫(なんかいほうまつ)事件で2万ポンド(4億円)を溶かした時にニュートンが言った言葉だ。

「それは大損すると言う事か?

 アレは まだまだ伸びるだろう。

 砂糖事業も順調だしな」

 確かに今は順調でも奴隷の価格は 年々高騰(こうとう)し続けているし、そろそろアフリカの奴隷にする為の黒人自体が枯渇(こかつ)し始める。

 他の奴隷の仕入先としてキリスト教の宣教師と その護衛の黒人奴隷ヤスケが日本に行って 奴隷ビジネスの基礎を構築しようとしていたが、幕府にバレて今は鎖国(さこく)状態になっているので、奴隷の仕入れが 不可能。

 破綻自体の兆候(ちょうこう)は もう見えていて、後は何処(どこ)で損切りをするかのチキンレースだ。  

「まっそれでも構いませんが…株には 気を付けて下さい。」

「覚えてはおく」

 ニュートンはウチにそう言うと、望遠鏡を片付けて幌馬車(ほろばしゃ)に積み、馬に乗って自分の家に帰って行った。

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