15 (リボルビングライフル)〇
1702年…春。
気温が上昇して雪が無くなり、緑が見えだして来た。
ケンブリッジ大学 寮の前の草原…。
今回はジガらの他に大学生やロバート・フック学長ら研究員組も来ている。
皆に見守られる中、ドライゼは バレルの長さがマスケット銃の長さになっているリボルバーを構える。
100m先の甲冑に狙いを付けてトリガーを引く。
トリガーと連動したハンマーが、銃弾の後ろに取り付けられている雷酸水銀を思いっきり叩き、火花が発生する。
それにより 銃弾内部にある黒色火薬に引火し、推進力となって弾丸が飛んで行く…命中。
当たった弾は甲冑の装甲を貫通し地面に落ちる。
流石に背中の装甲までは抜けないか…。
続いてリロード。
リボルバーのシリンダーを固定している ロックバーを右手親指で引き、シリンダーのロックを解除。
シリンダーを左手で持って回転させて、次弾の位置にセットし、親指を放すと ロックバーが穴にハマって固定。
ハンマーを引き上げて 次弾の装填が完了…。
次弾を撃つ…2発目 命中…。
ドライゼの撃つリボルバーライフルは、ウチのリボルバーの様にシリンダーがハンマーと連動して回転せず、一々手動でシリンダーを回転させて 装填して行く必要がある。
ただ、一発ごとにシリンダーを手動でロックする機構の為、発射位置がズレて暴発と言った事は無く、単純ではあるが 効果的な方法だ。
6発の弾を撃ち尽くすとシリンダーを外して予備シリンダーに交換し、再度撃ち始める。
ドライゼの隣では、現役を引退したマスケット銃兵の老兵がフリントロック式のマスケット銃で、ドライゼとは別の甲冑を撃っている。
が、明らかに装填スピードが違う…。
まずは 火薬と弾を銃口から入れ…付属の棒で押し込む。
そして構えて トリガーを引く…。
火打ち石が落ちて、銃が反動で揺れ、『不発か?』と思った1秒後に火薬に引火して弾が発射される。
目標に命中せず…次弾を装填するが、ベテランの老兵とは言え30秒は掛かる…。
2発目…カチッ………。
「チッ」
老兵が構えながら舌打ちをする…弾で出ず、不発だ。
こうなると面倒で、フリントを起こして再度 引き金を引く…不発…。
フリントを起こす…パン!
遅れて火薬に引火した弾が地面に向けて発射されるが、流石のベテラン。
銃口を斜め下の地面に向けていた為、弾が地面に当たって めり込むが老兵は無傷。
すぐに次弾を装填し始める。
ドライゼは3発に1発のペースで甲冑に当たり、老兵は2発に1発の命中で精度は上だが、リロード時間でドライゼ側は6発を撃ち終わってシリンダーの交換をする所まで入っている。
マスケット銃とは 撃ち込める数が圧倒的に違い、しかも不発の弾が出ていない。
観客の大学生や研究員が銃について話しているが、どの内容も高評価で、この銃の性能差は 誰の目にも明らかだ。
「凄い銃だな…」
一通り撃ち終わった所で老兵が言う。
「ええ…撃って見ますか?」
ドライゼは 肘まである厚手の左腕用の手袋とリボルバーライフルを渡す。
リボルバーライフルの厄介な点は、シリンダーギャップから出る高熱が、バレルを抑えている左腕に噴き付けて来る事だ。
この為、火傷の防止の為に厚手の手袋で腕を守る必要が出て来る。
老兵が手袋をしてリボルバーライフルを構える。
「おっ…この出っ張りに合わせるのか…。」
「ええ…」
老兵が新実装されたオープンサイトを100m先の甲冑に向け、ハンマーを起こす。
「ふん…」
パーン…タイムラグが無く、ハンマーが叩いた瞬間に弾が発射されて、甲冑の頭に正確に命中する。
「おっ真っすぐ飛ぶ…。」
2発目…3発目………6発目…全弾 命中だ。
シリンダーを外して、新しいシリンダーを入れて、シリンダーを固定…次弾を撃つ。
「やっぱり銃の扱いでは、ベテランに負けますか…」
ドライゼが言う。
「流石に素人には負けねぇ…が、何でこんなに真っすぐ飛ぶんだ?」
「弾に回転力を掛けると何故か真っすぐに進んでくれるんですよ…」
そう、ドライゼの銃には ライフリングが入っている。
本来 この時代では 鉄板を棒に巻き付けて つなぎ目を溶接するやり方が一般で、このせいで強度が劣る欠点が出ている。
だが、ドライゼは 型に鉄を流し込む鋳造でバレルを造っており、普通なら旋盤が必要なバレルを 2つに割った状態で ライフリング込みで型を作り、2つのつなぎ目を合わせて先端をスクリューキャップのカバーで固定する方式…モナカ構造を採用している。
これは M3グリースに使われていた技術で、ウチの技術を見ていたとは言え、ドライゼの発想力には驚かされる。
「すぐにでも軍に採用して貰いたい所だが…。」
「まだ火薬の調合には 研究の余地はありますし、王立協会に論文として出してから出ないと…。」
ドライゼと老兵の話を聞いている 観客のフックの表情が少し曇る。
軍に正式採用されるには、実行能力より 教会が その技術をOKとするかが重要になって来る。
もし教会がマスケット銃の製造業者から賄賂を貰っていた場合、適当な理由を付けて処刑されかねない からだ。
「それじゃあ、銃が出来たら狩りにでも行こう。」
老兵はドライゼに銃と手袋を返して、観客と共に町の方向へ帰って行った。
「撃ち尽くしましたね…120発」
ウチがドライゼに言う。
「ええ…結局 全弾撃っても不発も暴発も無かったですし…。
やっぱり 図書館で衝撃で爆発する水銀の作り方を見つけた事が大きいですね…。」
「雷酸水銀ですね…」
今回の銃弾は、鋳造で造った 銅の薬莢に硝酸1、水銀1、アルコール1を混ぜて乾燥させた雷酸水銀。
それと硝酸カリウム8、硫黄1、木炭1の割合で調合した黒色火薬を入れ、鋳造した鉄の弾丸を薬莢に取り付けている。
薬莢と弾丸の隙間には豚脂を塗りこんで、燃焼ガスの密閉と同時に撃たれたイスラム教徒が天国に行けないようにしている。
ドライゼは イスラム教徒が嫌いなのか?
「ただ…ちゃんと扱っていれば問題が無いのでしょうが、床に弾を落とす衝撃だけでも暴発するのが怖いですね。
まぁ撃つ以上 仕方の無い事なのですが…。」
「雷酸水銀の調合比率を変えて感度を落として見るのは如何でしょう?」
「まだまだ研究する余地は多そうですね…。」
「ええ…頑張ってください。
お手伝いしますよ…」
「とは言え、次はジガとワットの研究です。
ロータリーエンジン、もうそろそろ出来るんですよね」
「はい…模型では 上手く動作してますから…。
今、ワットに粘土で型を作って貰っています。
手先は彼の方が優秀ですから…
それでは、弾丸と鎧を回収して寮に戻りましょう。」
ウチはそう言い、鎧のダメージを見ながら周囲に散らばっている弾丸を回収し、寮に戻って行った。




