11 (ジアゾジニトロフェノール雷管)〇
ナオは荷台を取り付けたバギーで 工場の村から60km程離れた温泉地帯に向かう。
道は まだ大量の木々が塞いでおり 路面もガタガタでスピードもロクに出せない。
それでも木々の合間を拭う様にして3時間程バギーを進ませ、温泉地帯にたどり着いた。
次の開拓村は ここに建設される事になる…予定だ。
取りに来た素材は、火山地帯にある黄色い鉱石…硫黄だ。
これで硫酸が生成出来る。
付近には 地熱で温められた温泉があり、周りの景色も良く観光地としても期待出来る。
とは言え、そこら辺の価値観がオレには理解出来ないので、温泉村の景観をデザインする人が必要になって来るだろう。
そして、オレは 温泉なんかに目もくれず 硫黄が含まれた鉱石を、ガスタンクに入れて バギーの荷台に積んでいく。
荷台に200㎏程の硫黄が入ったガスタンクを積み、また3時間掛けて帰宅…。
早朝に出たと言うのに 工場村に着いた時には もう夕方になっていた。
オレは 硫黄をタンク1つ残して倉庫に預け、工場村で一泊して 翌朝に出発してアトランティス村に到着する。
「戻ったか…銃弾の方は出来ているぞ」
冒険者ギルドに戻った所で、クオリアがテーブルにある炭素繊維の弾薬箱を開けて言う。
中には格子状に仕切りが入っており、その中に弾が1発づつ収められている。
弾は7.62mmNATO弾で6×10の60発が2段で120発だ。
弾を取って確認して見るが精度が良く、普通 銃弾は大量生産の為にプレス加工で作るのだが、今回は鋳造で作っているので 弾ごとの個体差も無い。
「良い出来だ。
それじゃあ、ここじゃ雷管は作れないし、射撃場に行くか」
「そうだな」
クオリアは立ち上がり、オレ達は射撃場まで向かった。
射撃場と言ってもガスガンで撃ちまくって穴が空いているコンテナハウスの近くの事で、近くには危険な実験をする為のコンテナハウスがあるだけの ただの広い場所だ。
オレ達がコンテナハウスの中に入ると実験器具や黒鉛炉、蒸留器が見え、早速、2人で分担して作業に取り掛かる。
クオリアは 海岸から持って来た海水を電気分解して、水酸化ナトリウムと塩素を大量に作り始める…で、オレが作るのは硫酸だ。
まず蒸留器のタンクに硫黄を入れ、バーナーを使って高熱で加熱…。
そこから出て来た気体をポンプを使ってガスボンベに入れて回収…これが『二酸化硫黄』だ。
次に その『二酸化硫黄』と『酸素』をタンクに入れて400℃~600℃の間で加熱させて行くと『二酸化硫黄』の酸化が始まり、『三酸化硫黄』になる。
そして これもまた ポンプで ガスボンベに入れて、今度はタンクに蒸留水を入れて『三酸化硫黄』を流すと水と反応して薄い硫酸…希硫酸が出来る。
で、この希硫酸の水分を蒸発させて行くと硫酸の濃度が上がり、濃度30%の保存に適した普通の硫酸になる。
「よし…硫酸ゲット」
オレが生成した硫酸を瓶に入れながら言う。
「次はジアゾジ ニトロ フェノールだな」
「よく噛まずにいえるな」
さて、硫酸を98%の限界まで水分を蒸発させて濃縮した『濃硫酸』。
フェノール樹脂を作る時に使ったフェノールを濃硫酸に入れて『スルホ フェノール』。
『スルホ フェノール』に70%の濃度の硝酸を加えると『ピクリン酸』。
更に濃硫酸に塩、木炭を混ぜて空気が無い不活性化状態で1000℃の温度で熱すると出来る『硫化ナトリウム』。
『ピクリン酸』にクオリアが作ってくれた『水酸化ナトリウム』『硫化ナトリウム』を組み合わせて『ピクラミン酸ナトリウム』。
後は、クオリアが 塩素を水素と混ぜて作った『塩化水素』を蒸留水に溶かして塩酸…。
工場村で生成した『一酸化窒素』と『二酸化窒素』を『水酸化ナトリウム』と混ぜて『亜硝酸ナトリウム』。
塩酸の水溶液の中で『ピクラミン酸ナトリウム』『亜硝酸ナトリウム』を混ぜ、ガラス繊維のフィルタで ろ過すると結晶が取れる。
後はそれを蒸留水に浸けて酸を落とし、発火の危険性があるので加熱による蒸発を使わず、風を当てた自然蒸発で水分を飛ばして、その結晶を回収して行く。
出来たのは『ジアゾジニトロフェノール』の結晶。
強い衝撃を加えると発火する銃用の雷管だ。
この手順を守りつつ ひったすら『ジアゾジニトロフェノール』作って行く。
「分かっていたが、面倒過ぎだろ…コレ」
結晶化したジアゾジニトロフェノールを瓶に詰めながらオレは 文句も言わずに せっせと調合しているクオリアに言う。
「とは言え、これで薬品も一通り そろった。
後は これらの組み合わせだけで大半の物は出来る。」
「銃自体は自作出来ても銃弾を作れないのは雷管が原因なんだよな」
「一応、水銀でも作る事が出来るが、主流では無いな。」
「とは言え、これで銃弾が作れるな」
まずは『水酸化ナトリウム水溶液』を『二酸化炭素』と反応させて『重曹』をゲット。
次に鍋に水を入れ、その中にガラス瓶を置き『濃硫酸』3、『濃硝酸』1の割合でガラス瓶に入れる。
『濃硫酸』、『濃硝酸』を混ぜた事で発熱が始まり、鍋の水で間接冷却し、出来た液体が『混酸』だ。
別のガラス瓶に大量の砂状にした竹のコットンを押し込める様に入れ、その上から『混酸』を入れて1時間程 待つ。
1時間たったらコットンをガラスの箸で取り出し、コットンの重さの10倍の水に浸してよく洗う。
後は火を使わない自然乾燥で水分を飛ばせば『ニトロセルロース』無煙火薬の主成分が出来る。
同じ方法で炭素繊維で使っているコールタールを混酸に浸けてニトロ化させ、出来たのは『ニトロナフタレン』。
その日は『ジアゾジニトロフェノール』『ニトロセルロース』『ニトロナフタレン』製造で終わり、翌日 出来た火薬を薬莢に入れる。
まずは 銅で作った薬莢にジアゾジニトロフェノール雷管を入れ、その次に『ニトロセルロース』90%、『ニトロナフタレン』9%『炭酸水素ナトリウム』1%に調合して作った無煙火薬を入れる。
ニトロセルロースは 銃の爆発の主成分で、ニトロナフタレンが爆発を支え、炭酸水素ナトリウムは ニトロセルロースが自然分解しない様にして火薬の品質を安定させる為の添加物になる。
その上に鉄の弾丸を乗せて融かした動物性樹脂で薬莢との隙間を埋める。
「よし、完成…。」
火薬の配合割合や素材は違うが、見た目は 7.62x51mm NATO弾だ。
「ふむ…多分 今の火薬の配合だと、威力と反動が高くなっているだろう。
これから何度も試射をして火薬の配合割合を変えて、一番具合の良い割合を見つける事になる」
「やっぱり銃弾って面倒だな」
オレはクオリアに そう言うのだった。