08 (フリーズドライ食品)〇
トニー王国 アトランティス村。
ここ1年で いくつかの食料加工施設が増えている。
小麦が収獲出来た事で 小麦を使って空気中から菌を回収し、灰を使って特定の菌以外を死滅させ、残った菌を成長させる そうするとカビの一種である麦麹…酵母菌が出来る。
これによって 効率良く パンが作れる ようになり、大規模なパン工場が出来た事で、トニー王国の主食が肉や魚からパン食に移り始めている。
更に 製麺工場では 小麦粉に塩と水をこねて作って栄養補助にニンニクを少々入れたうどん…。
まぁ強力粉だけで作っている為、成分的には日本の給食に出て来るソフト麺で、このソフト麺に 植物の灰…炭酸カリウムを混ぜ込めば ラーメンの麺が出来る。
今では どの工場も 機械による自動化をしていて、畑仕事の機械化で失業した住民達が住民達がいる為、パンや製麺工場にまわって貰っている。
現状だと うどんやラーメンに使う スープの味は 現状 ウサギの骨を使った兎骨スープと塩味しか無いんだが、住民達には新感覚の食感で これも食文化として普及しつつある。
パンと麺と来て、最後の主食の米…。
ただ 米は手間が掛かり過ぎる為、ソイフードを 米っぽく 加工&味付けでする事で再現し、本来の米よりか 栄養価も栄養バランスも良く仕上がっている。
ただ、モデルにしているのが ハルミの母国のアメリカで普及しているインディカ米だし、ジャポニカ米で育ったオレには 少し違和感がある。
それと米粒を1粒1粒作るのは非常に手間が掛かり、コストパフォーマンスも悪く値段も高い…これだと主食には向かないだろうな。
さて、 発酵施設では、大豆に麦麹を混ぜて発酵させている。
これを1年間発酵させる事により、大豆の中のデンプンが ブドウ糖に変わり、柔らかくなる。
その後 ブドウ糖が アルコールと炭酸ガスに分解され、麦味噌が出来上がり、そのしぼり汁が醤油となる。
この地道な作業を ひたすら毎週作り続けて 発酵が完了するのを待ち続け、遂に一番最初に作った初期ロットの発酵が終わり、麦味噌や醤油を生産が出来るまでになった。
これで味噌ラーメンや醤油ラーメンが作れ、味のバリエーションも増えて行くだろう。
そして 麦を温水の中で絞って麦茶を作り、麦麹で 発酵させると炭酸ガスが入ったアルコール…ビールになる…いや、厳密には 毒草が入ってないから まだエールなんだが…。
「やっと発酵食品が生産ラインに乗ったな…」
冒険者ギルドの中でナオの書類を横から見ているクオリアが言う。
「ただ、食堂のおばちゃんが そろそろ危ないかな。
現状、ワンオペ状態だからな。」
「エール追加ね~」
「は~い」
テーブル席を見ると大量の労働者が注文をしていて、ウェイトレスが3人だと大変そうだ。
原因は、調理の品目が急に増えたからだ。
そして、その大量の料理を一括で作っているのが おばちゃんになる。
「調理師の追加が欲しい所なんだが…」
現在、冒険者ギルドでは ウェイトレスが3人、調理師が1人の状態が続いている。
人は食事をしない日は無いので雨でも休日は無く、この1年ずっと働き詰めだ。
追加人員は急務だろう…トミーに言って料理が出来る人を見繕って貰うか…。
「あ~醤油ラーメン1つ」
「はいはい…」
最近また増築した冒険者ギルドの一角には 日用品を販売しているクラウド商会の店が出来、石鹸やフリーズドライ加工をした食品が売っている。
ここの文化では 食事は 朝と夜だけが一般だったのだが、食料の安定供給が出来て来た所で、昼食文化が 始まって来た。
昼食で人気なのは 持ち運べて軽く食事が出来るショートブレッドだ。
朝食、夕食だと うどんやラーメンなどの麺類で、食堂の横には浄水を入れたタンクとコンロに鍋、それにガラスのどんぶりが重ねられている。
労働者が どんぶりに粉末のスープと麺を入れ、熱湯を注ぐ…。
しばらくすると、水分を吸って膨らんだ 即席めんが出来上がる。
熱湯が無いと食べられないのが欠点だが、あまりの人気の為、各施設に給湯設備の設置が進んでいる。
何でもかんでも食べ物は フリーズドライ加工して、腐らなくしている こちらとしては非常に相性が良い。
「その内、調理師は食品加工 工場に勤めるかもな…。」
「そうなれば 作業効率も上がるし、負担も随分と減らせると思うが…。」
オレの言葉にクオリアが答える。
「でも、あのおばちゃんは辞めないだろうな。」
「なら、それは それで良いのではないか?
人は効率を押し付けても動かないからな。」
「無駄も必要って事か…」
「そっ…一見無駄だと思える事でも、実際にやって見ると上手く行く事もある。
私達は効率重視で開発を行い、民間はそれを元に製品を発展して行く。
それで国が運営る」
「民間企業か…生まれるのは まだまだ先だろうがな…」
オレはそう言い、また書類に目を通す。
報告されている内容からすれば、国は順調に運営っている。
が、独裁国家の部下は 上には良い報告をしようとする傾向にある。
これは コマが一定確率で言う事を聞かなくなるチェス見たいな物で、ちゃんと計画をしていても 上と現場の情報が噛み合わず、命令の齟齬から戦争に負ける事が多い。
オレは 程無くして それを実感するのだった。




