07 (耐用年数半年!? ポンコツ バギー)〇
同時期。
アトランティス村…冒険者ギルド。
「ナオ…またバギーが動かなくなった。」
冒険者ギルドの中に入って来たクラウドが言う。
「そっか…新車が出来ているから、そっちと交換してくれ…」
ナオは ガラスのスタンプを打ち付けて コピーした 交換手続きの書類を出して 手慣れた手付きで 必要事項を記入して渡す。
「分かった。」
「ふう…。」
オレがため息を吐きつつ、冒険者ギルドを出て建物の後ろに回る。
そこには、いくつかのコンテナが繋がった建物があり、その周辺には 故障した大量のバギーが止められていて、その隣には腹を台に乗せて、ひたすらタイヤを空転させている バギーがある。
バギーに乗る運転手は アクセル全開でエンジンを ぶん回している…エンジンの耐久試験だろうか?
去年の冬からバギーをスターリングエンジンから、4スト エンジンに換装して運用しているが、運用期間が半年を過ぎた辺りから動作不良と故障が頻繁に発生している。
通常なら最低限のメンテでも5年…大切に使っていれば 10年は持つと言われるバギー。
オレ達も5年は持つだろうと考えていたが、現在、バギーの耐用年数は半年 程度になって しまっている。
この不良品問題に対して、バギーの製造 メンテをしている『バギー部門』は 無料での交換を行う事で対応している。
それで バギー部門は エンジン部分を直して、中古車として売り出す事で 損失を抑える方針だ。
なのだが、エンジンを設計したジガは ケンブリッジ大学に行ってしったので現在 不在。
バギー部門の従業員は パーツの1つ1つの製造方法と それが必要な意味…動作原理などを完璧に教育されているが、当然、設計者のジガには 敵わない。
このままでは、輸送問題に発展すると判断したオレ達は、原因を特定してエンジンを再設計する事になった。
「ナオ…か…」
コンテナの中に入ると作業中のクオリアがこっちを見て言う。
棚には 大量のバギーのエンジンが破損の原因別に 仕分けを されている。
「また1台 増えた。」
「そっか…仕分けの続きを頼む」
「分かりました。」
エンジンを分解して仕分けをしている バギー部門のエンジェニアにクオリアが そう言うと、書類を持ってオレの近くまで来る。
如何やら作業をエンジェニアに任せる事で、実地で不良品の検証教育を行っている みたいだ。
「珍しいな…クオリアが教育なんて…。」
普段のクオリアなら、人を使わず『自分でやった方が確実で早い』とか言い出すのだが、今回は律儀に教育をしている。
「まぁな…今後の問題を考えた場合、地道に教育して行った方が結果的に早いと判断した。
彼らは 部品の役割や製造法は把握しているが、予想外の事態には 対処 出来なかったからな。」
「業務をマニュアル化するだけではダメなのか?」
「仕事をするだけなら それでも良い。
だが、問題を解決する技術者としてはダメだ。
いずれ 私達の手を借りずに動いて貰う事になるからな…」
「ふ~ん…で、結果は出たか?」
「ああ…コレだ。」
クオリアはオレに書類を渡す。
「え~と…エンジンの焼き付きと摩耗…これは ひまし油で如何にかなるか?
スパークプラグの点火タイミングのズレによる酸水素の誤爆。
後はシリンダーの破損、エンジン容器の破損なんかの強度不足と…。」
「バギーの外装が炭素繊維とガラス繊維で出来ている事もあって、壊れた破片は貫通せず、運転手の被害は出ていない。
が、破損したエンジンの欠片が周りの機械を巻き込んでズタズタになっている。」
「結局、強度問題か…。
鉄の純度も上がっているはずなのに…耐えられ無いか…。
となると次は合金か?
だけどアルミ合金は作れないぞ」
アルミ合金の主成分になるアルミニウムの生成に必要な鉱物はボーキサイト。
だが、トニー王国では まだボーキサイトは 発見されていないし、それをアルミニウムにするには酸水素の電気分解とは 比にならないレベルの電力が必要で、付いた異名が『電気の缶詰』だ。
この規模になるとマイクロ水力発電機によるゴリ押しは不可能で、ダムなどの大規模な水力発電システムが必要になって来る。
つまりマンパワーの関係上、実質 不可能だ。
「分かっている…。
なので炭素鋼を作ろうと思う…。」
「なるほど…それで、炭素 含有率は?」
「0.6(%)…。」
「ギリギリ、中炭素鋼か…。」
炭素鋼は 鉄と炭素の合金で、炭素含有率が上がると強度と耐摩耗性能が上がる性質があり、重量物を載せる電車のレールなどに使われている。
ただ、硬くなると言う事は 衝撃に脆くなると言う事でもあり、そのバランスが良い所が 炭素含有率0.6%の炭素鋼になる。
「炭素鋼の製造の問題点は、不純物が限りなく少ない炭素を入れる事なのだが、純度の高い炭素は 炭素繊維から取れる…。
それに この炭素鋼が作れれば、今度は鉄に3%の珪素を混ぜた合金…珪素鋼が出来る。
電気エネルギーと磁気エネルギーの変換効率が高い鋼で、モーターや変圧器に使われている…電化製品では必須の素材だ。」
「また炭素と珪素か…便利な素材だな…」
最短で炭素と珪素の純度を上げて行ったのは、合金の素材としても使えるからか。
「ただ、炭素鋼が生産ラインに載るまで、1年は掛る」
「やっぱり、その位 掛かるか…。」
砂鉄を作るには ある程度 細かくした鉄を粉砕出来るミキサーを造る必要がある。
ただ、このミキサーの刃は 刃の摩耗した成分が鉄の純度を下げないように、純粋な鉄で造らなければ ならない。
徹底的に人員が少なく出来る様に、機械による作業の自動化をしている訳だが、それでも学校の生徒に貴重な人材を持って行かれている為、マンパワーが圧倒的に足りない。
しかも、生活が良くなった事で 来年には出生率が爆上がりするベビーブームが始まる。
そうなると また忙しくなる…これは長期的な目が必要になって来るだろうな…。
「よし 状況は 分かった。
取りあえずの応急処置として装甲厚を2倍にする。
スパークプラグのタイミングのズレは、駆動部分の摩耗が原因だろうから駆動部の摩耗を抑えて様子見、後は 強度問題が解決するまで使い潰しかな…。
今度 ジガにトウゴマを買って来て貰うつもりだが、そこから栽培してもひまし油が手に入るのは 来年になるだろうな…。」
オレがクオリアに言う。
「了解した。
それと、エンジンが壊れた時の二次被害を防ぐ為に最小限でのダメージで食い止める必要がある。
計画的に壊れるように設計しないとな…。」
「ダメージコントロールか…。
取り合えず動けば 良い状態から、安全に向けた製品に再設計か…。」
「そうなる…他にも色々と問題が出て来そうだ。」
「やっぱり、環境の変化が速すぎて 住民達が対応出来ていないんだろうな。
少し時間を置いた方だ良いか?」
「後、欲しいのは硝酸と液体窒素だ。
それさえ造ってしまえば、ゆっくり出来る。」
「火薬か…確かに銃弾が作れないと侵略者に対抗出来ないからな~」
歴史上、トニー王国が国際的に認知されるのは第二次世界大戦が始まってからだ。
だが、歴史は常に書き換えられている為、侵略者が来ない保証は無い。
その為の最低限の戦力は整えておく必要があるだろう。
「分かった今年中に作ってしまおう。
それじゃあ…オレは戻るよ。」
オレは コンテナを出て、また面倒な書類作業に取り掛かった。




