04 (サンデー・ロースト)〇
ジガが寮に来てから 2週間後の日曜日…。
キリスト教では 日曜日は 休日の日で、休まなければ ならないのだが、ウチの寮の研究員達は 錬金術を娯楽扱いで、常に遊んでいると言う解釈をする事で、休日も研究をしている。
とは言え、平日は 仕事をしないと行けないのだが、今度は錬金術は仕事と言う解釈するのでOKだ。
ウチの仕事は 部屋の掃除と必要物資の買い出し、後は昼と夜の食事となっている。
が、基本 食事は片手で掴んで食べられる 挟み物が中心で、ミンチにして固めた牛肉の上にピクルス、レタスにスライスしたチーズにトマトを乗せて、ケチャップとマヨネーズを掛けてパンで挟んだ物…。
つまりハンバーガーに、それに揚げたジャガイモのフライドポテト…。
飲み物は アルコール度数5%の果汁酒のハンバーガーセットしか頼まれない。
ちなみに 浄水技術が普及していなく、水が劣悪な この時代では 殺菌され、長期保存が出来るアルコール飲料は 非常に好まれ、子供から大人まで広く普及している。
流通している酒だと 小麦から作られるホップが入れられていない『飲むパン』と呼ばれる事もある栄養豊富なエール…。
ぶどう酒、りんご酒などの果物を発酵させた果実酒が一般的だ。
意外な事に、紅茶は まだ貴族の飲み物で一般に流通していなく、アフタヌーンティー文化も まだ無い。
さて、この他に洗濯などの雑用などを任される事もあるが、それ以外の時間は自由で、この時間に自分の研究に当てている…と言う建前になっている。
これが上流階級の貴族の屋敷の場合、30~50人のメイドが当たり前で、軍隊並みの指揮系統での 実行能力や統率能力が求められる。
が、ウチは貴族では無い 中流階級の総合メイドで、炊事、清掃、洗濯などの家事全般を引き受け、賃金や労働待遇もそれなりに良い。
のだが…この時代 洗濯は下着位で、それも週1だ。
服の洗濯は 季節の変わり目 位にしか洗わないらしい。
と言うのも、皆 上下セットで3着持っていれば 良い方だからだ。
この寮の場合だと 全員が2着を持っていて、1着は普段使いの私服、もう1着はそれなりの場所に行く時の礼服だ。
つまり ウチが私服を洗ってしまうと乾くまで、下着姿で放置される事になる。
ウチの価値観だと不衛生だと感じるが、この時代の中級階級となると その位が普通で、これは もう服の値段が高いからとしか言いようが無い。
後は 風呂の文化は まだ無いが、たまに石鹸を持って 川に行って水浴びをしに行っているので、本当に最低限の衛生環境が確保されている状態だ。
これは黒死病なんかの伝染病で大量の人が死んだ事で、衛生意識が高まったからになる。
そんな訳でウチの仕事は割と暇だったりする。
「少し見ない間に魔改造されてんな…」
アルがキッチンの中を見て言う。
「いけなかった でしょうか?」
「いや…キッチンのボスはアンタだ…好きにしたら良い。
と言っても…これがアンタの国のキッチンか?」
既存の台所用品を すべで倉庫に送り、調理用のテーブルには ガスコンロを設置して、煙突が天井を突き抜けて煙を排出している料理窯は、黒鉛炉に入れ替えている…これで 料理だけでは無く、製鉄も出来る様になった。
棚には 食材の瓶詰めの他にビーカーなどの計量器もあり、ウチの実験室になっている。
錬金術は台所から生まれたらしいから、場所を共有していても良いだろう。
「うーん…ん?
これ幌馬車にも積んでたよな…」
「ええ…酸水素…いえ、燃素の燃料タンクです。
これがコンロに繋がっていまして…この摘まみをこっちに回すと…」
シューとガスが解放される音が聞こえ、摘まみをHighの方向に回すと解放されるガスの量が増えて行く。
そしてONと書かれた限界まで回すと火打石に当たり、火花が発してガスに引火…燃え上がる。
後は 摘まみをLow側に戻して出力を調整する…。
「おお便利だな…コレ、オレにも出来るのか?」
「ええ…どうぞ」
ウチは摘まみをOFFにしてガスの供給を止めると しばらくは空気中の酸素と反応して燃えるが、すぐに火が消え、アルが再度火を点ける。
「おお付いた、付いた…火打ち石を使うより楽だな…。
実験で火を使う時には 火を貰いに来るよ」
「分かりました。
それじゃあ 日曜ですし、サンデー・ローストを作りましょうか…。
ちゃんと食べて行って下さいよ…。」
鉄のフライパンを出して、牛の脂肪をフライパンに落としてバターの代わりとし、牛肉を 乾燥させたパンを粉状にしたパン粉をまぶし、高温になったフライパンに投下する。
ヘラで肉をひっくり返し、両面を均等に焼いて行き…同時に野菜を投下…。
ビーカーにトマト ケチャップ1マヨネーズ1に用意してフライパンから肉汁1を入れて、混ぜれば オーロラソースが出来る。
陶磁器の皿に牛カツと野菜炒めを盛り付けて 牛カツをナイフで切り分け、最後にオーロラソースを掛けて完成。
「はい どーぞ…。」
「何だコレは?…何の料理だ」
「ん~訳はビーフフライ…で良いのでしょうか?
私の国では カツと飛ばれていますが…テーブルでどうぞ」
ウチは ナイフとフォークを揃えてテーブルに持って行く。
「何か久しぶりに ちゃんとした食事をするな~」
「ここの皆さん、いつも『片手で摘まめる物』としか、言わないじゃないですか…。
決まった時間に皆が集まって食事をする事も無いですし…。」
「あ~確かにそうだな…。
ハンバーガーは 普通に美味かったし、毎食 中身が変わるから気にして無かった。」
サクッ…。
「なんだこりゃ美味っ…。」
「あ~良かったです。」
食に関心が無いだけで『美味しい』と ちゃんと感じる見たいだ。
いつも作業をしながら『そこに置いておいて』と言われる事が多かったから ちゃんとした反応が返って来るだけで嬉しい。
「良いなこれ…ハンバーガーの具に これも追加してくれ。」
「ハンバーガーにするのは 変わらないんですね…。」
「便利だからな…」
「それじゃあ皆も呼んできますね…。」
「あれ?ジガってサンドイッチ以外の料理って出来たんですか?」
「あ~そう勘違いしていたんですね…。」
ドライゼの言葉にウチは苦笑いする。
「一欠片 貰ってい良いか?」
「ああ…」
ワットは手づかみで食べる。
「ふむ…確かに美味い…コレ名前は?」
「カツだってさ…ジガの国の料理」
ウチの変わりにアルが答える。
「カツか…スープは作れるか?」
「ええ…今の素材から作るとなると…。
ビーフシチューなんて如何でしょう」
「それで良い…明日からはスープも頼む」
「分かりました…それで如何します?」
「私もカツを頂こう。」
「あ~僕も」
「分かりました 少々お待ちください。」
ウチはキッチンに入って フライパンを熱して カツを作り始め、始めて皆が集まってでの食事を行い、研究の息抜きとして 楽しそうに見えたのだった。




