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⊕ヒトのキョウカイ02⊕【未来から やってきた機械の神たちが造る 理想国家₋ユートピア₋】  作者: Nao Nao
ヒトのキョウカイ2 2巻 (研究者の町 ロンドン)
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30 (裏口入学)〇

「さて…上手く潜り込めるかな…」

 ジガ(ウチ)幌馬車(ほろばしゃ)を走らせ、ケンブリッジに入る…。

 もう ここら辺は 大学の敷地(しきち)内なのだが、簡単に入れている。

 近くの学生に聞いてみると、如何(どう)やら校舎の前にいる守衛(しゅえい)の2人が目当ての人のようだ。

 ウチは 幌馬車(ほろばしゃ)を動かし、校舎の前に行く。

「止まれ! 見慣れないヤツだな…ローブを取れ!顔を見せろ!」

 周りは徒歩の学生が歩く中、一人だけ 幌馬車(ほろばしゃ)で移動して目立っているウチに守衛(しゅえい)が言う。

 ウチは守衛(しゅえい)に言われた通りにローブを取り、素顔を見せる。

「女か…ここは学の無い女が来る所では無い。

 立ち去れ!」

 ウチはバギーを降りて エレクトンの最上級敬礼をし 答える。

「私は トニー王国と言う国から来ました留学生(りゅうがくせい)…ジガ・エクスマキナです。

 8月からお世話になる事になります。」

「おい…そんな 名前の学生いたか?」

「いやジガと言う名前は 聞いた事が無い…異国の名なら記憶に残るはずだ。

 それにトニー王国も…」

「ええ…この国とは まだ国交が始まっていませんから…。

 今回、私が派遣されたのは、国交をするべき相手なのかを見極める為の技術交流となります。

 正式では無いお忍びを言う扱いの為、情報がまだ届いていないのでは ないでしょうか?」

 この時代の通信手段は、時速15kmの早馬が基本になる為、情報を伝達するまでのタイムラグが長い。

 しかも、早馬の事故や 伝達ミス…書類の書き忘れなども普通に発生している。

 その為、情報が相手側に伝わっていない事も珍しく無い。

 これに 国交を結んでいない国との水面下での交流となれば、いくらウチが女でも粗雑(そざつ)な扱いは出来ないし、確認を取る事も難しい…。

 なので 現場の判断で動くしか無く、そこに付け入る隙がある。

 そして、一度 留学生(りゅうがくせい)として入ってしまえば、夜に学校に忍び込んで 学生名簿にウチの名前を追加すれば、情報の伝達の遅延と判断され、大学に潜り込める。

「情報が届いていないと言うのであれば、Mr.(ミスター)フックに合わせて下さい。

 直接、私が交渉します。」

「フック会長か…だが…」

「どちらにせよ、私らが判断出来る事では無い。

 国交前の国とは言え、他国の要人である以上 判断を誤れば 外交問題に発展する。

 私らの勝手な判断で 戦争が起きる事になるぞ」

 おっ…大学の守衛(しゅえい)だけあって教養が高い…。

 とは言え、頭が良ければ 良い程、この手の話は 上手く行く。

「そっそうですね…おい女…今、フック会長に話して来る。

 今日は講義が無いから 研究室にいるだろう。」

「お手数、ありがとうございます。」

「いや、判断するのは フック会長だ。

 何か会ったら すぐに報告する様に言われているからな…」

 そう言うと 一人の守衛(しゅえい)を残して、先輩の守衛(しゅえい)が 校舎内にあるフックの研究室へ向かって行った。


「入りたまえ」

 フック()が書類作業をしている最中にドアがノックされ、私が答える。

「失礼します」

「キミか…確か守衛(しゅえい)をやっていたね…。

 何か問題かね」

 さっきから学生が騒いでいたから何か有ると思っていたが、王立協会 会長である私に判断を(あお)ぐ程の問題が発生したらしい。

「はい…今年の留学生(りゅうがくせい)の名簿に不備があったらしく…」

「毎年、1人か2人は必ず出るな。

 特に留学生(りゅうがくせい)は、手紙の配達距離が長いからな…書類が届かなかったのか?

 それで、その留学生(りゅうがくせい)は?」

「えートニー王国と言う 国からやって来た留学生(りゅうがくせい)で、質の良い乗馬服を着た男装している女です。

 名前はジガ・エクスマキナ」

 トニー王国?聞いた事が無い国だな…。

 私が把握(はあく)していない国となると、新しく出来た植民地()か まだ国交が成立していない国だ。

「言葉は?」

 いくら優秀でも 英語が話せなく、意思疎通(いしそつう)真面(まとも)に出来ない相手では 意味が無い。

「言葉も しっかりと発音できていて、(なま)りも ありません。

 立ち振る舞いからして 貴族の令嬢と言う感じでしょうか…。」

「女か…確かに禁止はされていないが、女学生なんて前例がない。

 と言うより そもそも想定されていない。」

「分かっています。

 ただ 国交前の内偵(ないてい)に来ている見たいで、下手に追い出した場合、いずれ外交 問題に発展するでしょう。

 もしかしたら、戦争に発展する事も…。」

「ふむ…頭(の良さ)は?」

「それは、まだ…。

 ただ、錬金術で作ったと思われる馬に乗っていました。」

「錬金術?その馬は 生き物では無く、道具と言う事かね?」

 となると ぜんまい仕掛けの馬か…。

 ぜんまいの弱い力で如何(どう)やって馬を動かしているのか?

「ええ…私達の国には 無い技術です。

 彼女の能力は ともかく、あの馬の情報は欲しい」

「錬金術の馬か…。

 よし、私の興味を十分に引いた。

 私が直接 会って見て決めよう…場所は?」

 その女が 例えモグリだとしても、その人物が優秀で 我々に無い技術を持っているなら 我が国の利益になる。

「校舎前です。」

「分かった。

 準備をするから 先に行って『ロバート・フック』が会うと伝えてくれ」

「分かりました…失礼します。」

 守衛(しゅえい)がドアを閉めて校舎前に向かった。

「さて、異国の…それも女の留学生…嘘か本当か…。」

 私はそう(つぶや)き、身なりを整えて校舎前に向かった。


 校舎前には 乗馬服を着た男装の女が、馬に腰掛けて待っている。

 その馬は 私が想定していた大きさよりも小さく、後ろの幌馬車(ほろばしゃ)を引けると言う事は かなりの力を出せるのだろう。

 明らかに私の知らない 未知の技術だ。

「王立協会 会長をしている ロバート・フックだ。」

「トニー王国 アトランティス村出身、ジガ・エクスマキナです。

 こちらには、今後 始まるであろう…貴国との国交の見極めの為に来ました。」

 女は馬から降りて まるで貴族の令嬢のように違和感が無く言う。

 言葉は しっかりとしたアクセントで、新品の服を着こなし、振る舞いも文句が無い出来だ。

 我が国との国交の為に ここまで完璧な振る舞いを覚えたと言う事は、彼女の国…。

 トニー王国とやらは、本気で我が国と国交をしようと しているのだと分かる。

 つまり この女の報告次第で、我が国の評価が変わると言う事か…。

 と言え、能力的には 十分以上だとしても ここまで こちらの文化を知っている国が 何で女を寄こして来た?

 こちらの国の貴族と結婚や(めかけ)になる事で、この国での地位を確保する気か?

 なら貴族の屋敷を周るはず…ここでは無い。

 明らかに場違いの場所だ。

「確認したが、こちらに まだ情報が降りて来ていない。」

「そうですか…困りました。

 収獲無しで本国に帰れば、あなた方の国に 不利益(ふりえき)を与えてしまいます。」

「だろうな…。

 なので、試験(テスト)をして あなたの学力を見たい。

 合格すれば、授業料免除の特待生(とくたいせい)として私が入学を許可する。

 ただ 無事 入学した所で、現在 女学生は キミ1人だ。

 それなりの覚悟が必要だろう。」

「ええ…そのリスクは 承知済みです。

 ただ、無理を通す フック会長の風当たりも強くなるでしょう。」

 確かにそうだ。

 が、あの馬の構造を調べて 私が再現して使えるなら、その位 安い出費だろう。

「あなたには 何か考えがあるようだ。」

「ええ…何処(どう)か 私を研究員の(りょう)のメイドとして雇ってください。」

給費生(きゅうひせい)か…」

 研究員の(りょう)には、世話をする為のメイドが付いている。

 が、ある程度の教養のある女で無いと、書類の仕分けを間違えたり、危険な薬品をぶちまけて 死人が出たりと言ったトラブルが発生する。

 と それ位なら まだマシで、金品や書類を奪って他国に売ってしまう窃盗犯(せっとうはん)もいる。

 とは言え、メイドを無くせば 研究者達が 研究に集中する事が出来なくなるので、彼らの環境作りにも 身の回りの世話をしてくれるメイドが必須だ。

 確かに彼女の素性は まだ確定しないが、窃盗目的だったら ここまでの手の込んだ嘘はつかないし、不満を抱かない程度の金を払えば 大丈夫だろう。

 何より『男より優秀な 特待生(とくたいせい)の女』と『特別に講義に参加 出来る権利を持つ、学が有るメイド』だったら、後者の方が文句が少ない。

「よし、私がテストをして この大学で学ぶ為の最低限の知識が 有ると私が判断すれば、講義に参加できる権利と 住み込みのメイドとして働く事を認めよう。」

「ありがとうございます。」

「いや…キミがバカなら、そのバカを派遣する国の知識レベルが低いと言う事になる。

 なら追い返した所で、国交上 問題無いと言う事だ。

 それでも良いかね…。」

「ええ…少なくとも学者としての最低限の知識は身に着けております。」

「所でキミの専攻は?」

「自然哲学と錬金術です。

 私は錬金術がメインですが…」

「ほう…それじゃあ、その馬もキミの錬金術で…」

「製造を担当したのは別の人ですが、時間を掛ければ 私でも全部 作れます。」

「全部とは?」

「これです。」

 彼女は 幌馬車(ほろばしゃ)の後ろの布を上に開ける。

「なっ…」

 そこに有ったのは、荷台に積めるサイズの炉の他に実験器具に筒。

 螺旋(らせん)状の何か…大きな道具を分解して まとめた物…。

 それと、鋳造(ちゅうぞう)用の型…。

 この時点で彼女は 鍛冶もある程度 出来る事が分かる。

 馬の部品の作成の為の道具だろうか?

 と言うより、一部に見た事が無い素材が使われている…ふむ 面白い…。

「それじゃあ、私の研究室に行こう…そこでテストだ。

 キミ…この幌馬車(ほろばしゃ)の見張りも頼む」

「はい」

 私は守衛(しゅえい)にそう言い、彼女…ジガと共に私の研究所に向かった。

 結果は 最初の見立て通り合格で、彼女は 錬金術を中心に幅広い知識を持っており、私やニュートンの本も読んでいるので、私とも相性が良い。

 ぜひ、私のメイドとして雇いたいと思ったが、この女を特別扱いして私の隣に立たせたら、私の講義を聞いている優秀な弟子達が文句を言い出すだろう…。

 私は 彼女の希望が『錬金術の実験で火災が起きる危険性がある ので、すぐに 消火出来る川の近くの(りょう)に勤めたい。』

 と 言う注文だったので、ケム川の近くにある 性格に問題がある 同じく火災の危険性がある研究をしている 錬金術師達の(りょう)を勧め、書類が通った当日に彼女は メイドとして(りょう)に向かった。


「さて、体調に目立った異常は無しと…。」

 幌馬車(ほろばしゃ)を動かし ジガ(ウチ)ウチが勤める(りょう)に向かう。

 彼と話し ながら、注意深く 観察をして見たが、フックは 2年後に死ぬと言うのに 体調に目立った異常が無い…。

 何かの病気で、短期間で死亡したのか?

 それか、目に見えていないだけで、今フックを人間ドックに連れて行ったら何かしらの異常が出ているのか?

 確実に残っている資料は 彼の論文位で、最後の書きかけの論文か資料は、ニュートンが焼いてしまったかも知れないと言われている。

 なので、彼の正確な死因は分からない。

 そう言えば、これから行く(りょう)は メイドが辞めたっきりで、補充されていない 珍しい(りょう)とかフックが 言っていたな…おっ見えて来た。

 (りょう)は 大学の校舎や町から結構 離れた場所で、ケム川と言う ケンブリッジにある川の近くにポツンとレンガの家が建っている。

 見た所6人は 快適に住めそうな家だ。

「まっ…住む家も決まったし、ここで研究しながら、フックの好感度を稼いで行けば良いか…。」

 とウチが言った瞬間。

 (りょう)の近くからドォオンと凄い爆発音がなり、黒い煙が上空に上って行く…。

「黒色火薬!?」

「はははは失敗…失敗~」

 (すす)に まみれながら、笑っている男が言う。

「記録は ちゃんと取ってあるから、失敗じゃない…前進だ。

 配合のパターンを1つ1つ試して行けば、いつかは成功するさ…」

 隣にいるのは 羊皮紙にデータを記録しているメガネを掛けた男だ。

「そんな事より、消火を手伝って下さいよ~。

 また怒られますよ~」

 そして、芝生(しばふ)に引火して燃え広がっている火に、川の水が入ったバケツで必死に消火活動をしている小柄な少年。

「あ~なるほど。

 これじゃあ メイドさんも逃げるわな…」

 よく見て見ると 平地の芝生(しばふ)が 焼けいたり、爆発によって 少し(へこ)んだ クレーターも見える。

 まぁ所詮(しょせん)は 黒色火薬なので、現代兵器の爆発に比べれば 可愛い物だが、確かに知識が無く、こんなヤツらのお世話をしていたら いつ爆発に巻き込まれて 身体がバラバラになるか 分からない。

 と言うか、フック会長は ウチをここで事故死させる気だったのか?

 もしくは、コイツらを ウチがコントロール出来ると踏んでか?

「お忙しい所、失礼します~。

 本日より皆様のお世話をさせて(いただ)く、メイド(けん) 錬金術師のジガ・エクスマキナです。

 どうぞ よろしくお願いいたします。」

 始めが肝心(かんじん)なのでウチは丁寧(ていねい)にあいさつをする。

「聞いてますよぉ~

 早速ですが、消火を手伝って下さぁい…。」

 小柄な男が火に水を ぶちまけながら必死に言う。

「はぁい ただいま~」

 ウチは幌馬車(ほろばしゃ)をその場に止めて、黒煙を(はな)つ 爆心地に向けて走って行った。

【読んで頂きありがとうございます】

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